二章
第12話 引っ越し
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第12話 引っ越し
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気づいたら妾の人と子供たちが離れから減っていた。
「トーマは知らなかったの? あなたは、頭がいいくせに抜けているわね」
タリアに呆れられてしまった。
「いいわ、私が教えてあげる。実は、御屋形様が隠居するのよ。だから、この離れに住む私たち庶子の引取先を探しているってわけ」
「俺たちの引取先なの? お妾さんたちの結婚じゃなくて?」
「結婚したい人はしていいというだけよ。基本的には何らかの支援をするから、庶子を引き取って管理しろってわけ」
「自分が蒔いた種を他人に面倒見させるとか、恥ずかしくないのかね?」
「でも、下級貴族や商人は、私たち庶子を引き取って管理をすることで、それなりのメリットがあるわ」
「お互いにいい取引ってわけか」
侯爵家は不要な庶子を処分でき、さらにライトスターの血筋に他の貴族家を継がせることも可能になる。下級貴族や商人たちは金銭や権利などの利益を得る。汚い大人の世界を見た気分だ。
でも、俺たちが受けた酷い仕打ちは、誰も忘れないと思う。子供たちがもしその家を継いだとしても、ライトスターに反旗を翻すかもしれないと思わないのかな。
あの自分勝手なライトスターの(本宅に住む)人たちでは、そんなことは思わないか。自分たちに従うのが当然と思っているような人たちだから、そんな危機感もないんだろうな。
タリアに色々教えてもらったが、本当にこのライトスター侯爵家の人たちには腹が立つ。勝手なヤツらだ。
ロックスフォール様には、俺を養子にして引き取る話が先にあり、その後にお母さんと結婚という話になったようだ。そういえば、お母さんとの結婚が先と明言はしてなかったな。
しかし、ライトスター侯爵家の血を管理するのが面倒なら、最初から手あたり次第女性に手をつけるなよな。それではただの獣じゃないか。しかも性質の悪い下半身獣だ。
もし、お母さんが俺を守るためにロックスフォール様の妻になるのら、この話は止めないといけない。でも、この屋敷にいるよりロックスフォール様のところにいったほうが幸せなのかもしれないと思うと、簡単に判断できない。
お母さんともう一度話そう!
「タリア。色々教えてくれてありがとう」
「いいわよ。でも、トーマとはこれでお別れね。寂しいわ」
タリアも男爵家と養子縁組をすると言っていた。ルイスさんは男爵の側室になるのだとか。多くのお妾さんは子供を受け入れた人の妻や側室になるようだ。
「俺もタリアと離れるのは寂しいよ」
「次に会うのは、学園だと思うわ。健康に気をつけてね、トーマ」
タリアが俺を抱きしめた。お母さん以外に抱きしめえてくれるのは、ルイスさんとタリアくらいなものだ。ありがとう、タリア。
お母さんの部屋に入ると、楽し気に荷物をまとめていた。鼻歌まで奏でている。その姿を見tがだけで、俺の心配は杞憂だったと思えてしまう。
お母さんは心からロックスフォール様のところにいくのが楽しみなんだと思えるくらいに、背中から喜びが滲み出ているように見えた。
「あら、トーマ。もう荷物はまとめたの?」
「うん。まとめたよ」
俺が持っていくのは、服や下着など身の回りのものとちょっとしたものだけだ。まとめるのに大した時間はかからない。
「あら、早いのね。ウフフフ」
確認するまでもないな。何も言うまい。
ロックスフォール様が迎えにきてくれた。もちろん、御屋形様や本宅の人は誰も見送りにこない。きてもこちらが困るけど。
「ロックスフォール様、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくね、トーマ君。アリューシャ殿もよろしく」
「こちらこそよろしくお願いします」
俺たち母子はロックスフォール様に深々と頭を下げた。ロックスフォール様は慌てて頭を上げてと言ったが、こんなクソな屋敷からお母さんを連れ出してくれるのだから俺は本当に感謝しているんだ。
ロックスフォール様は馬に乗り、他に兵士が四人と箱馬車が一台と荷車が一台の一行だ。
お母さんの荷物はカバンが二つ、俺は一つなのですぐに荷車に載せて出発した。
箱馬車に乗るのは俺とお母さんだけで、ロックスフォール様は馬に乗っていくようだ。
一行は順調に進み、数日後の夕方近くに
道中は何度かモンスターに遭遇したけど、ロックスフォール様が一太刀で両断していた。ロックスフォール様はすごく強かった。
モンスターは色々な種類がいる。
獣型は
モンスターのスプラッターを見ても気分は悪くならなかったけど、モンスターの殺気だった瞳が昔の記憶を呼び起こして怖かった。あの目が俺を虐待していた父親と同じものに見えたんだ。
モンスターは怖いが、あの
ロックスフォール様はかなり強い人のようだ。レベルがいくつか気になるから、情報閲覧で見てみた。
「ぉぉぉぅ……」
思わず声が漏れた。ロックスフォール様のランクはB、加護は大地の魔法戦士、レベルはなんと三百二十だった。
俺がこれまで見た中で、最もレベルが高い人だった。四人の兵士もかなりレベルが高かった。ロックスフォール家は精鋭揃いの家なのか。
侯爵家の兵士で最もレベルが高い人でもレベル百八十だった。それよりも百四十も上なんて、すごいの一言だ。
御屋形様のレベルは四十九だし、孫のジャイズはレベル二だ。地位が高い人はレベルが低い傾向にあるのに、ロックスフォール様はなんでこんなにレベルが高いのだろうか。
「ここが我が家だ。ライトスター侯爵家の離れよりさらに小さな家ですまないね」
敷地は南北三十メートル×東西五十メートルくらいか、かなり広い。屋敷自体の建て坪は六十坪くらいで、二階もあるから合計で百坪くらいかな。日本なら十分に大きな家だと言える、質素な石造りのオレンジ色の屋根の屋敷だ。
「いえ、私たちには過ぎたるお宅です」
その通りだ。物置に比べれば、どこでも豪邸だよ。
ロックスフォール邸の前で三人の使用人が並んでいた。老執事、老メイド、そして十歳くらいの幼いメイドだ。
「お帰りなさいませ。旦那様」
「「お帰りなさいませ」」
ロックスフォール邸の使用人は、この三人と御者をしていた三十くらいの男性と、あと王都の屋敷を管理する執事とメイドがいるのだとか。ライトスター侯爵家と比べると、少ないが騎士爵家はこんなものなのかもしれない。
老執事の名前はジョンソン・ボブソン(六十歳)で、ロマンスグレーの髪に藍色の瞳。
老メイドの名前はサーラ・ボブソン(六十歳)で、白髪に茶色の瞳。(ジョンソンと夫婦)
幼女メイドはララ・ボブソン(十歳)で、グリーンの髪に茶色の瞳。(ジョンソン夫婦の孫)
御者は庭師も兼務しており、名前はオットー・アイル(三十二歳)で、赤毛碧眼だ。
あと、王都の屋敷を管理している執事とメイドはララの両親なんだとか。
「これからお世話になります」
「お世話になります」
お母さんと俺は皆に挨拶をして、家の中に入っていくのだった。
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