一章

第2話 奴隷の子

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 第2話 奴隷の子

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 動けない……。


 俺の置かれた状況が分かった。

 俺はどうやら奴隷の子供に生まれ変わったようだ。

 ボロを着た女性が俺に乳を飲ませようとしてくれるが、明らかにやせ細っており、乳はほとんど出ない。

 必死に吸い付いているんだが、乳は出てこない。吸い付くのもエネルギーを消費し、腹はどんどん減っていく。参ったな。


 そんな母親の右の胸には★型の痣があった。かなり薄くなっているが、乳を必死に吸いながら、その痣を眺めていた。


 さて、俺はいきなり生命の危機に瀕している。乳が飲めないと、さすがに生きていけない。どうする、どうしたらいい?


「お乳が出なくて、ごめんね……」


 俺の母と思われる女性が目に涙をため、謝っている。

 俺への愛情がある言葉だ。前世の親はロクでもなかったけど、今世ではいい母親に巡り合えたようだ。

 ただ、空腹が酷い。これをどうにかしないと、本当に死んでしまう。レベルを上げる前に詰んでしまう。


「あうあうあー(お腹空いたなー)」


 こんなことでは、俺は本当に死んでしまう。現状をなんとか打破しないといけない。

 何かないかと思考を巡らせると、思い出した。


 スキル・変換。


【変換・レベル1 : 物質を別の物質に変換できる】


 このスキルを使って、食べ物を出すことはできないだろうか。


 俺が寝かされているのは、まさに物置。

 藁があり、俺が寝ている板があり、農具などが乱雑に置かれている。

 すぐ横にある藁を、食べ物にできたらいいのに。

 思い出すのは前世の食事。両親と一緒に住んでいた時はパンの耳を食べ、給食で飢えを凌いだ。児童養護施設に引き取られてからたまに肉が出てくるようになった。嬉しかったな……。

 恐らく安い肉だったはずだが、あの肉の美味しさは今でも忘れない。


「おあうあおうあうおうー(美味しい肉になれー)」


 体の中から何かが抜ける。気持ちが悪い。倦怠感がすごい。

 だが、藁が焼いた肉に変わっている!


 ステータスを見てみると、五ポイントあったマナがゼロになっている。

 スキルを使ってマナが減ったようだ。


 ヤバい意識が遠のいていく……。





 空腹で目が覚めた。

 肉を食べるぞ! と思ったら、母親が肉を食っていた。

 あー、うん。そうだよね。お腹空いているのは俺だけじゃないのだった。


「美味しい……」


 母親は涙を流して肉を食べていた。

 そんな姿を見ると、もっと食べさせてあげたいと思う。

 とはいえ、俺だって腹が空いている。

 まさか母親の前でスキルを使うわけにはいかないだろう。

 母親が出ていくのを待つしかないようだ。


 母親は俺に乳を飲ませてから出ていった。乳はほとんど出てなかったけど。


 誰もいなくなったチャンス!


 ステータスを確認したら、マナは回復して五になっていた。

 俺はすぐに藁を肉に変換した。


「あうあー(ねむいー)」


 また意識を手放す。




 そして、また母親が肉を食っていた。

 おいおい……。


「あうあうおあうあうあー(それ、俺のなんだけどー)」


 そこではたと気づいた。

 今の俺は赤ん坊だ。肉を口にしても、歯がないのにどうやって噛み切る?

 今度はミルクに変換しよう。


 腹空いた……。


 ちょっと待てよ? 藁をミルクにしたとしても、どうやって飲むんだ?

 ミルクは地面に染み込んでいくだろう。仮に哺乳瓶に入ったミルクに変換できたとして、今の俺では哺乳瓶を持つことさえ厳しい。


「あー、あうああううあうあおう(あー、これ詰んでるじゃん)」

「坊や、お乳が欲しいのね」


 母親がお乳を飲ませてくれる。

 どうせ出ないが、少しでも空腹を紛らわしたかったので吸いつく。

 ちゅう、ちゅう、ちゅう、ちゅう、ちゅう。

 ん? あれ? なんかいつもより乳が出る?

 おおー、乳が出るぞ!


 俺は必死で乳を吸った。

 空腹はなんとかなったけど、満腹ではない。しかし、生き返ったような幸福感がある。


 そうか、あの肉だ。

 母親が肉を食べたから乳が少し出るようになったんだな!

 間接的だが、それが俺の空腹を紛らわすことができた。

 まだ満足いくものではないが、このまま母親に栄養をつけさせていけば、結果として俺の延命に繋がる!


 その日から毎日、起きたら藁を肉や魚に変換し、母親に食べさせた。

 母親は日に日に健康状態が回復していき、乳も出やすくなり、量も増えていった。


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