第三幕 王の部屋にて

 いったい私はどうしてここにいるのだろう。最近そんなことを考えるようになった。私はただ踏切が開くのを待っていただけなのに。いつしか踏切を待つ人々で国を作って生活し、気付けば誰もがここの生活に疑問を持たなくなっていた。かく言う私も、最近まではそうだった。王としてみんなから扱われると、しだいに態度も大きくなり、自分勝手なこともした気がする。それでも王として国民が幸せに暮らせるように努力してきたつもりだ。私もここの生活に不満があるわけじゃない。できればこの生活がずっと続けばいいとさえ思っている。だが、この不安感はなんだ。何か大切なことを忘れてしまっているような。

 私は懐から小さな箱を出した。私がここに来た時から持っていた名刺入れだ。中から一枚名刺を出す。名刺には見覚えのない会社名と共に、「小林大助」と書かれている。我ながら平凡な名前だと苦笑する。

 それに最近は別の悩みもある。より緊迫した問題だ。なんでも軍の中で王の地位を狙っている者がいるという噂だ。前の私ならいざ知らず、今の私にとっては王の地位などなんの興味もない。むしろ国のためにあれこれ考えなくて済むのなら、辞めてもいいと思う。ただ、もし誰かに王の座を譲ったりしたら、王の地位を狙う人達で争いになるのではないか。それだけが心配だ。

 特に軍の元帥を務める加藤君には気を付けないといけない。彼は一見真面目そうな男だが、彼の冷たい眼には何か野心のようなものを感じる。まさか命を狙われるなんてことはないだろうが。そんなことを考えてしまい最近は部屋からも出ずに、ほとんど誰とも会っていない。

 とにかく一度彼と話をしてみようと思い、部屋に来るように言ったのだが。

 その時、扉をノックする音が、待ち人の到来を告げた。


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