第四幕 王の部屋にて その2

 部屋に入ると、後ろ手に静かに扉を閉めた。

「やあ加藤君。わざわざすまないね」

 王が能天気な声で自分から話しかけてくる。

「なんの御用でしょうか」

「ああ、うん。近頃の調子はどうかなと思ってね」

「はあ」

 つい間抜けな声が口をついて出てしまった。いきなり呼び出して何かと思ったら、つまらないことを言いやがる。

「はあ、まあ。特に問題はありませんが」

 あんたがいること以外はな、と心の中で毒づいた。

「そうか、それならいいんだ。ところで、つかぬことを訊くけれど、軍の人間が王になろうとしている……という噂があるのだけれど……何か知っているかい」

 ばれている? こいつ、間抜けな顔をして案外そうでもないのでは。これは、今がチャンスなのではないか。今ここには俺とこいつだけだ。

「その話ですか。ええ、知っていますよ。とてもね」

そう言って懐に隠し持っていたナイフを出した。

「加藤君、君はやはり……」

「残念だが王は今日で交代だ。あんたにはただの小林さんに戻ってもらおう」

 腹を一突きすると、簡単に元王は動かなくなった。ナイフを引き抜くとき、何か箱のような物に触れた気がした。名刺入れだった。

「ふん、サラリーマンか。本当につまらない男だったな」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る