語り部 つとむの話

 はい!よろしくお願いいたします。

 つとむです!

 いやぁ、素人の僕なんかの話でもね、「楽しみだ」って言ってくれるファンの方がいるみたいで。

 嬉しいものですねー。

 って言っても、やっぱり芸人さんとかイケメンでって売ってる訳じゃないから、ファンって言ってもわんさかいる訳じゃないんですけどね。


 でね。そのファンの一人が体験した話なんだけどね。



 その日Aさんは、仕事でクタクタだった。

 突発的なトラブルでてんてこ舞いだったのだ。

 時間はもう夜の八時。


 帰りにスーパーに寄って、作るの面倒だなぁと惣菜を買って帰る事にした。

 割引シールの貼られたコロッケをかごに入れる。

 本当はキャベツの千切りも買いたかったけど、売り切れ。

 キャベツの値段が高騰してるから、千切りも品薄らしい。


 気分は最悪。

 もっと豪勢!とは言わなくても、もうちょっと何かご褒美的なものが欲しかった。


 ため息をつきながら、惣菜や酒の入ったビニール袋をガサガサと音をたてながら、家に向かって歩いているときだった。


 もうすぐ家に着くという所で、ふと見上げたアパートのベランダに黒い人影が立っていた。


 住人がタバコでも吸いに出たのかなと思ったが、その影は微動だにせず、ただそこにいた。


 じっとこちらを見ている気がして、気にしないようにしながら足を進める。


 それでも気になってチラリと影を見上げれば、「目」があったような気がした。


 え?黒い影なんだから目が合うなんてことはあり得ない。


 なのに、目が合った気がするなんて。


 そう思い早足で通りすぎる。

 しばらく歩いてチラリと振り向けば、やはり影と目が合った気がする。


 走るようにして家へたどり着き、扉を閉める。


 バクバクと音を立てる心臓を落ち着かせようと、深呼吸をする。


【目があった】と感じた理由を考える。


 ……

 …………


 からだの向きだ。

 影の向きが、顔の向きがこちらを向いていたのである。しかもご丁寧に首が下を覗き込むような位置になっていて、それで目があった感じがしたんだ。


 あれは何だったんだろう。


 そう考えながら部屋に上がり、視線をベランダの方に向けたときだった。

 カーテン越しに黒い影が見える。


 影はこちらをじっと見つめていた。






「黒い影」

 三題噺 「ベランダ」「最悪」「キャベツ」

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