第48話「孤独犯」

孤独と言うには

感情を知りすぎていて

およそ自身のほうが醜く見えた


僕は奥手である

それに悲劇に手慣れている

ゆえにあわれまれることに

むしろ罪悪感を覚える


確かに同情であって

それは善意であることに

優しさであることに

相違ないのだが


しかしてその道徳心に

添えるほどの

深い傷を僕は負っているようには

思えていない


つまりは心根には痛みより

これで楽になれると

そう口数の少ないことや

自身の態度に対する

簡単な口実が出来たと


この孤独はとっくに

僕の味方になっているのだ


私は考える中で

嘆きよりは

冷静さを身に着け


したにみられる事で

相手の心にもぐりやすくなる

ゆえに優しさをむさぼり

かわいがられる事に高揚している


どうだ私は実に醜いだろ

こうしてここでは本音で居るが

実の世界では孤独と口裏を合わせ

かわいそうだと、そんな顔で

おこぼれに預かっている


な、ほんとに、醜いだろ

俺はこそくで

もう心に悲劇なんてないんだ


ただのおいしいところを狙う

そんな偽善者だ


それでもここでしかそれは言えず

明日になれば

また猫をかぶって


僕は弱い人間のまま

ぬるい世界に浸り続ける


ほんと、どうしようもないだろ

でも、やっぱりそれが僕なんだ


孤独を道具にして犯行に及ぶ


孤独犯なんだ。


な、ぴったりだよな。

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