第9話「あの日へ帰れるならば」

静寂は訪れ

闇を切り裂ける光はない

私は何もかもを裏切り

もう地獄すら通り越している


ここは無機物であり

宇宙の深淵のようだ

色もなく音もなく


奈落とも遠い

黒く黒い

みな底だ


ああ、そうか私はこうなるまで

分からなかったのか

ただ本質を探して

孤独になり


その過程に得た

何かの声すら

見て見ぬふりをした


足並みをそろえて

始まったあの日から

もう随分と遠くへ来た


ここはどこだろうか

分かっている


ここは自分が招いた最後の敷居だ

本当に私は愚かであった


でもそれさえ誰にも届かないだろう

もし雄弁に語るなら

と、そんな妄想さえもう出ない


ここには誰もいないのだ

そうなって

分かったよ


言葉を持ったのは

誰かに伝えたかったからだ


あの日聞いた声

足を止めて聞いてくれた声


その時、すでに伝わっていたんじゃないか


私はずっと言葉を抱いていた


それはそこに疎通があったからだ


そうか

そうだったのか


私は今言葉を持たない

これは完全の孤を意味する


本当に私は愚かだった


ああ、そうか

また私は、誰かを求めているのか。


言葉がある限り、一人にはなれないか

そうか、そうだったな。


まだ帰れるかもしれない

あの場所へ


帰ろう、あの場所へ。

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