♡N↗T←R♡・・・6 一之瀬美亜にストーカーが!?

「美亜ちゃん、今度は久々に単独撮影なんだってさ」


「そ、そうなのか。色々と忙しいんだなグラドルってやつも?」


休憩時間、鉄平が俺の机に寄って来てそう告げる。

無論、俺は更に前から知っていたのだが・・・


「私の話?もしかして次の撮影の事についてかな?」


笑顔で登場するクラスメイトの妹さん・・・


「美亜ちゃん、来週から撮影なんだって?俺達の教室には2人もの美少女グラドルがいるのに、1人いなくなっちゃうと一気に空気が変わるんだよ!

だから、早く帰って来てくれないかな!?」


クラスの、いや、今では学校一、二位とも言われる程の華の両手を握りながら媚びを売る醜き男子生徒・・・


「おぃ、手垢が移るだろ?どさくさに紛れて握手してんじゃねぇよこの童貞男子」


「痛ててて、何すんだよ!折角こうして美亜ちゃんに触れられたのに・・・それに、お前だってドーテーだろうが!」


俺は、一之瀬美亜の両手にしっかりと掴んだ鉄平の両手の手首を少し捻って引き払った。


「あ、ありがとう・・・」


意外な反応を見せて来た美亜・・・

その表情は、まるで初恋した男子に見せる表情そのものであった。


「こほんっ!鷹矢?どうかしたの?そんなにぼーっとしちゃって!」


すかさず莉子が割って入る。


「い、いや、何でも無い!この童貞が痴漢染みた真似をしていたからな」


俺は鉄平を見下す様にジト目で睨み付けてやった。


「何だよ?」


鉄平が不満そうに俺を見る。

いや、待て?俺、どうしてこんなに鉄平にイラついてるんだよ?

今、何かモヤモヤとした感情が出て来た気がする・・・


「えぇっと・・・あれだ、一之瀬は来週から忙しいみたいだし、まぁ、頑張って来いよ」


素っ気なく言ってみせる。


「う、うん。ありがとう。頑張って来るから、雑誌発売したら見て欲しいな・・・」


(どうしてそんなに顔を赤らめながらモジモジしてんだよ!?

こっちまで恥ずかしくなるだろうが!?)


「二人共?いいムードになってる所悪いんだけれど、皆が見てるから」


周囲が俺達に注目している!?


「い、いや、これはそう言うんじゃなくて・・・」


会長の話や菜々子に訪れた事実が気になってしまい、最近どうも調子が崩れてしまっている。

俺達の関係は、あくまで元恋人であり、義理の兄妹と言う関係である。

それに、俺には莉子と言う彼女がいる!


けれど、もしも俺が見ていない間に菜々子の身に何かあったとすれば・・・

この、捨てられた元カレと言う立場が・・・別の何かだとすれば・・・

そう思うと、これまで菜々子が俺にして来た行為を俺はどう解釈すればいいのか分からない。


菜々子は俺に今でも好意を抱いているのだろうか?

そうでは無いとすれば、何故俺にちょっかいを掛けて来るのか?


ここ数日の間、俺は菜々子について色々な事を考えていた。


「かや?・・・鷹矢ってばぁ~!」


「え?・・・あ、あぁ、どうした?莉子」


「鷹矢?最近菜々子ちゃんの事ばかり考えてない?」


放課後、帰宅途中に莉子にこの様に言われた。


「そうか?まぁ、あれだけちょっかい掛けて来て同居せざるを得ない状況でもあるからな・・・嫌でもあいつの事が頭に出てしまうんだよ・・・何とかしてくれ!莉子!」


「それは・・・菜々子ちゃんとよりを戻したい・・・とか?」


立ち止まり、俯き加減で莉子は尋ねた。


「はぁ?・・・そんな訳あるはずないだろ!?あいつは・・・俺を捨てた・・・

それなのに今さら俺があいつの事なんて・・・」


半分本音・・・だが、もう半分は・・・


(あんなメールやあの日の菜々子の様子を見てそれでもなお未練がましく寄りを戻したい?・・・)


「そうだよね?だってこんなに優しい鷹矢を裏切った子なんだよ?

私が鷹矢だったら絶対に許さない!」


そうだ・・・俺もつい最近まではその様に思っていた。

今更こっちへ戻って来て捨てた男にあんなコトやこんなコトをして来たり・・・


だが、会長の話や今でも俺に構って来る菜々子の姿や菜々子のあの遠くを見る様な切ない目を見ていると俺の中の何かが訴え掛けている様に思えて仕方が無かった。


「きっと・・・嫌でも家族だからだろうか・・・これがどう言う感情なのか俺にはまだ分からないよ。ただ、俺の大好きで大切な彼女は莉子である事だけは間違いないよ・・・」


分からない・・・本当に今俺の中で抱いているこの感情の正体が・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ってコトだから、1週間の間溜めておいてね♡」


「はぁ?俺は既に溜まっているってぇ~の!」


いつもの夜這いである・・・


「えぇ~!?毎日抜いてあげてるのに?お義兄ちゃんってば、そんなにも強いの?・・・せ♡い♡よ♡く」


「ストレスだよ!ストレスが溜まってるって話なんだよ!

毎日毎日俺がどれだけ苦しんでいるのか分かってないみたいだからこの際はっきりと言ってやる!お前が毎日こうして俺の部屋に夜這い仕掛けに来てるせいでストレスが溜まってるんだよ!」


よし!今日もキレのあるツッコミだ!

菜々子もいつもの表情である。


「う~ん・・・それはマズイよねぇ~?お口だけじゃ満足出来てないってコトだよね~?じゃぁ・・・一線越えて私のコ♡コ・・・でスッキリしちゃおっか?」


舌を出して左手の人差し指を舐めながら右手で下の方へ滑らせ少しだけ広げて見せる。

「はぁ~・・・全くブレないな今日も・・・

俺は莉子とそう言う事をする予定だからお前とはしない!何度言えば気が済む!?」


「ヘタレ童貞君である鷹矢が莉子ちゃんみたいな上物と交われるなんて甘いと思うんだけど~?」


ニヘラ顔を浮かべ俺に言い寄って来る。


「本当にお前のその神経が分からん・・・他の男に寝返って再び俺の所へ戻って来て、今度は生まれ変わったみたいに変わり果てた様に精を貪ろうとして来る・・・

まるでサキュバスとやらと同じだな?」


菜都美にそっち系の話は色々と教えてもら・・・いや、教え込まれてしまったからな・・・


「サキュバス・・・ね♪・・・ふぅ~ん♡それいい表現かも・・・じゃぁ、私が鷹矢の精を貪り続けても仕方が無いよね?だって私、サキュバスだもの♡」


目の色が変わった?こいつ、本気で俺を!?


「兎に角夜なんだから寝かせろ!?俺も毎日お前に邪魔されて最近しっかりと眠れてないんだよ!お前もグラドルとかやってんなら、美肌の為にも睡眠はきっちり取れ!」


我ながら上手い事を言って説得してると思う・・・のだが?


「大丈夫だから私の事は気にせずそのまま眠っちゃって?

鷹矢も眠いもんね?毎日私がこうして夜襲いに来ちゃうから♪

私は本当に大丈夫だから♪だって・・・タンパク質いっぱい摂ってるから♡」


ダメだった・・・説得失敗だ・・・


「兎に角、何かされたら目が覚めて意味が無いんだよ!出て行ってくれ!」


「分かったわよ・・・まぁ、明日から1週間家を出ちゃうからいつもより濃厚にスキンシップしたかっただけだもん・・・」


「スキンシップの域を軽く越えてんだよ!もっと自重しろ!」


「てへっ♪」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

菜々子が撮影で家を出てまた穏やかな1週間が訪れようとしていた・・・


「あぁ~♪気分爽快な朝だな!今日からまたひとりでまったりと過ごせるぞ!

こうも清々しい気分になれるなんて、やっぱ俺ってストレスが溜まってたんだな♪」


背伸びをして登校する俺に隣を歩いていた莉子は・・・


「鷹矢、やっぱり菜々子ちゃんがいないと生き生きしてるよね?

よっぽどストレスが溜まってたんだね?」


「あぁ♪本当に楽になれた気がするんだよな・・・」


「でもさ?もし、その菜々子ちゃんがまた何処かへ行っちゃったら?・・・」


「へ?・・・」


「なんちゃって♪冗談だよ冗談♪そんなに深刻な顔して、やっぱり菜々子ちゃんにまだ気があるの?」


一瞬焦った・・・だが、俺の顔を覗き込んで来た莉子の顔は笑顔だが目が笑っていない・・・


「いや・・・大切な家族がだな・・・また訳の分からない状態になったら・・・そう考えてしまったんだ・・・」


「だよね~♪大切な「家族」が何処か遠くに行ってしまったら・・・辛いよね」


そうだ。大切な家族が変な事に巻き込まれてしまうなんて苦しいに決まっている!

そんな状況に巻き込まれてしまえば家族なら助けるに決まっているだろ・・・


「おはようございます。鷹矢さま。お初にお目に掛かります。

きょうは、また一段とお顔のお色が優れていらっしゃいます」


校門付近で清楚に佇む美少女に声を掛けられた。


「お初にお目に掛かる子が、長い付き合いのある相手の顔色を見透かす様なセリフを吐かないぞ、野々花?」


「これは失態・・・きょうも朝から美少女幼馴染をはべらせていらっしゃったのでしょうか?お隣の幼馴染様もとてもお肌の色艶が宜しいご様子で何より・・・」


吉祥院 野々花(きっしょういん ののか)

七条家とは長い付き合いで、母さんが亡くなる前まで許嫁にされていた子だ。

清楚で可憐・・・黒髪ロングの如何にもと言った彼女ではあるのだが、

時折こうして狙っているのか分からないが、失言を繰り返す・・・

悪気が無いのがまたたちが悪い・・・


「はべらすって何言ってんだ!まだ俺は清い状態だ!」


「これは失言を・・・ですが、お二方はお付き合いを始められて早数年が経過された様にお見受け致しますが、まだ「聖職行為」には及ばれていらっしゃらないと言う・・・」


「はい、OUT!いくら綺麗な言葉に言い換えたとしても下品極まりの無い言葉を入れるのは止めてくれ」


「これはまた私(わたくし)とした事が・・・申し訳御座いません」


「えぇ・・・っと、野々花ちゃんの天然ぶりにはいつになっても慣れないわね・・・

私も、どう接していいのか・・・」


莉子でさえも困り果ててしまう始末・・・

野々花は何を考えていて、何がしたいのかいまだに俺は見えて来ない・・・


「それにしても、珍しいな。俺達を待っていた様に見えるのだが?」


「はい。昨夜は何故か分かりませんが眠れなくて・・・」


「そうか・・・それは大変だったな。だが、それと俺達とどう言う関係があるんだ?」


「はい。何か胸騒ぎの様なものを感じており、鷹矢さまを一目見ようと朝から・・・」


俺の方こそ何か嫌な予感が・・・


「ちなみに、何時頃からここにいた?」


「はい、明朝5時からお待ち申し上げておりました」


これまた3時間もこんな所で俺を待っていたのか・・・


「連絡くらい寄越せばいいっていつも言ってんだろ?いい加減体壊すぞ?」


「いえ、今はもう許嫁と言う立場ではございませんので、鷹矢さまにご迷惑をお掛けする訳にはまいりません」


「それで、一度冬場に同じ様な事をされて倒れただろうが!?」


変に拘りと言うか真面目と言うか、こう言う性格だから色々と大変なんだよな・・・


「その節は大変ご迷惑をお掛け致しました。あの日、必死になって私を運び、看病して頂きました際には私、本気で鷹矢様に惚れ込んでしまい熱い体が更に火照りはじめ、子宮が降りて来て準備段階に移ってしまいました」


「はい、失言!もう、その話は終わったから言わないでくれないか!?」


「鷹矢!?まさかその後!?」


「する訳ないだろっ!俺はれっきとした童貞だ!!」


しまった!?今度は俺が失言を!?


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(菜々子がいないと思えば次から次へと・・・)


「何だ鷹矢~?お前まさか美亜ちゃんがいなくなって寂しいのか?

お前も美亜ちゃん推しになったって事か?」


鉄平が声を掛けて来た。


「いやそれは無い!」


俺は即答してみせた。


「お前、それはいくらなんでも美亜ちゃんに失礼だろうが!?

どうしてお前はそう、美亜ちゃんを邪剣にする様な事を言う?

この間はあんなにキレてただろうが!?

お前の心理が読めん!」


お前は空気読め!


そう思ったがあえて言わずにいた。

俺が本気でキレるとこいつは1週間はしょんぼりして空気が悪くなるからな・・・


かと言って空気が読めないこいつをどう大人しくさせるかも難しい課題である。


「でも大丈夫かな?最近一之瀬美亜ちゃん、ストーカー被害みたいな話が囁かれているからちょっと怖いよね?」


女子生徒が話をしている声が聞こえた。


ストーカー被害?・・・

そんな話菜々子から一切聞いていないが?

まさかな・・・一緒に暮らしていて被害が分からないとかあり得んだろ。


「どうかしたの?顔色が悪いみたいだけど?」


隣にいた莉子が心配そうに尋ねて来た。


「い、いや、何でもない。ちょっとトイレに行って来るよ」


休憩時間、俺は廊下を歩きながら考えていた。


(あれだけ注目を浴びているんだし、何かあっても不思議じゃないよな?)


だが、それを言うなら莉子だって同じだ・・・

全国から注目される様な美少女が2人もそれも同じクラスにいるのだから。


教室に戻ると莉子にも尋ねてみる事にした。


「え?ストーカー被害とか?うん、今の所私は大丈夫だけれど・・・

何かあったら鷹矢には絶対に言うだろうし・・・」


そうだよな。何かあったら俺に言ってくれるよな・・・

菜々子だって多分そうだろう。


「最愛の義妹が心配だから確認したい・・・」


「うわっ!!!のっ、野々花、いつの間に!?」


背後から突然囁く様に声を掛けて来た野々花・・・


「ステルスと言うものでしょうか。知らず知らずの内にマスター出来ておりました」


ステルスか・・・これまた奇妙な言葉を・・・


「それより野々花、どうしてここに?」


「はい。一度意識してしまうと忘れようにも忘れられずずっとその事が頭に残っており、どう処理していいのか分からない事が殿方にもあろうとは存じ上げます」


一体この子は何が言いたいのだろう?


「聞く所に依りますと殿方が朝、起床時刻より早く目が覚めてしまい、もう少し眠っていたいと眠ろうと床(とこ)で奮闘している間にムラムラとした感情が抑えきれずに手を下腹部へ伸ばし次第に・・・」


「はいストップだ!そこから先は、君がここで口にするべき台詞では無い。

それは心の隅にひっそりとしまっておきなさい・・・」


失言どころのレベルじゃないな・・・

これ以上止めなければ暴走するのも目に見える。

これだけ清楚で可憐なキャラクター像を貫き通して来た彼女にとって

放置しておくのは危険極まりない・・・


だが、彼女が俺に近付く事それが示す本当の理由は・・・


「野々花、胸騒ぎが何かと言うのは分かるか?」


俺は思い切って尋ねてみた。

野々花は、嫌な予感がしたり、何かを予期した時に俺に近付く傾向にある。

だが、理由が分かる時と分からない時があって、今回は俺も少し気掛かりである。


「はい。菜々子さんに・・・ついてだろうと思われます・・・」


「菜々子が!?」


「鷹矢?どうかした?野々花ちゃんが来ているって事は、やっぱり・・・」


莉子も野々花の胸騒ぎをよく知るひとりだ。


「あぁ、俺も今回は少し気掛かりなんだ・・・」


周りに悟られない様に3人で話を終わらせた。


放課後、野々花も一緒に帰路に就く。


「菜々子に連絡を入れてみるよ」


公園の横を通った時、中に入ると俺はベンチに座って電話を掛けた。


「・・・・・・出ない。撮影中か?」


「メールを入れてみたらどう?」


莉子が言った通り、メールを入れてみる。


「撮影中は、携帯から離れているいるし、それ以外の時間でも携帯を持っていないかもしれないね」


通知は入っているはずだから何かあれば掛けて来てくれるだろうと思い俺達はそのまま公園を後にした。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

夜になり、俺は携帯を確認したが通知が入っていなかった。


「後は寝るだけだからもう一度電話してみるか・・・流石にこの時間に携帯から離れているとかないだろう」


電話を掛けてみるが応答が無かった。


「菜々子の奴、本当に何かあったのか?」


♪プルルルル・・・プルルルル


そう思った瞬間、電話が入った。菜々子からだった。


「もしもし!?菜々子、何も無いか!?」


一瞬、無言だったが・・・


「もしかして、早く会いたいから電話して来てくれたの?

ごめんね、夕方撮影中で返せなくて、今から電話掛け様としてたんだけど、少し離れてた間にまた掛けてくれてたんだね」


俺は、心底安堵した。

ここまで必死になったのっていつぶりだろうか?


「良かった・・・本当に・・・良かった・・・」


感極まった俺は少し涙を浮かべてしまった。


「どうかしたの?血相を変えた後の様な声になってるよ?

もしかして、私の身に何かあったと思って心配してくれていた?」


伝わっているのだろうか。

俺がどれだけ菜々子の事が心配だったかを・・・


「い、いや・・・何も無ければいいんだ!まぁ、撮影大変だろうけど無理するなよ!」


「待って・・・」


「え?・・・」


菜々子が電話を切ろうとした俺を止めて来た。


「本当は後3日くらい滞在しなきゃいけなかったんだけど、台風が接近して来たから明日帰る事になったの。だから伝えておくね」


「そうか・・・分かったよ。気を付けて帰って来いよ?」


「うん・・・ありがとう・・・」


(いい・・・雰囲気なのか?・・・)


そう思っていたのだが・・・


「帰ったら、いっぱい抜いてあげるからもう少し我慢してね♡」


♪プチッ・・・ツーツー・・・


「あぁ、いつもの菜々子だよ。こんなに心配してた俺が馬鹿だったよ」!


でも・・・

何事も無くて本当に良かった・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日


「と言う事だから、少し遅かったからメールですまないけど、菜々子は大丈夫だ!」


登校中、俺は莉子にその様に伝え、菜々子は何事も無かった事を改めて伝える。


「ですが、私が今こちらにいると言う事は・・・」


ボソッと背後から日本人形の様な少女が呟く。


「ホントそう言う所だ!背後からボソッと奇妙な事を呟くホラー展開へ持って行くのは止めてくれ!」


だが、野々花にも連絡は入れておいたのだがここにいるのは確かに気になる。


「まぁ、きょう帰って来るみたいだから後は大丈夫だろう」


そう思っていた。

だけど、この判断が間違えていた。


夕方には家に着くと聞いていたのだが放課後、家に辿り着いたが菜々子の姿は無い。


「聞いていた時間は5時頃には到着する予定だったはず・・・なのに連絡もつかない?」


6時過ぎになって俺は菜々子に電話を入れたが繋がらなかった。

テレビで台風の影響などを観ても影響が無かった。


だとすれば、野々花がさっき俺の側に来たと言う事は・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「えぇっと・・・私のファンなんですか?」


「はぁはぁ・・・そうだよ・・・僕はデビューした時から今までずっと美亜ちゃんの事が大好きだったのさ・・・だから・・・僕と・・・一緒に暮らそうよ・・・」


(気持ち悪い・・・汗をいっぱいかいていて鼻息が荒い・・・

助けて・・・助けて鷹矢・・・)


「ほら、逃げても無駄だよ。誰も僕達の間に邪魔なんか出来ない。

君は僕と結ばれる為に生まれて来たんだ」


「いや、それ以上近付かないで!大きな声を出しますよ」


マネージャーと離れた私は急いで家に帰ろうとした。

するとそこに私のファンだと名乗る男の人が現れた。


もう少しで家に辿り着くはずだった。けれど・・・


「こんな所で大きな声を出した所で誰も来やしないよ」


私は走り続けた。

でも、いつの間にか港の倉庫が並ぶひと気が無い場所まで逃げて来てしまっていた。


「うっ・・・鷹矢・・・助けて」


「誰も来ないって言ってるだろう。大人しく僕と一緒に新しい愛の巣へ戻ろうよ」


助けて?・・・今の私が鷹矢に助けを求める?

どの立場でそう言う事を考えるの?


仮にも鷹矢の事を裏切って捨てた私が自分が危険に瀕した時には都合よく助けを求めるつもり?

そんなの・・・そんなの・・・


そう思って私は遂に逃げ場を失った。


「それ以上は逃げられないね~・・・グヒヒ♪さぁ、僕と一緒に・・・」


「そこまでだ、ストーカー野郎!」


その時だった。

暗くてよく見えなかったけれど声だけで分かった。


「たか・・・や・・・」


「ぐっ!!折角いい所だったのに、お前は誰だ!?」


「女の子に怖い思いさせてんじゃねぇよ!」


やっぱり、鷹矢だ。

あの時と同じ・・・

私が怖い思いをしていた時に助けてくれたあの鷹矢と同じだ・・・


鷹矢は私と出逢ってからずっと私の事を大切にしてくれていた。

私がこうして誰かに連れ去られようとした事はこれが初めてでは無かった。


以前、2度攫われそうになった時に、鷹矢はこんな風にキレて相手を倒してくれた。


「ふんっ!ガキの癖に生意気な事言ってんじゃねぇよ・・・僕には最大の武器があるんだ!」


その時だった。相手が逆上し、ズボンのポケットからナイフを取り出すと一目散に鷹矢に目掛けて駆け出した。


「鷹矢ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~逃げてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~!!!」


私は叫んだ。いくら鷹矢でも刃物を持った男相手に倒せるはずがない・・・


グサッ・・・


「うっ・・・舐めた真似すんじゃねぇか。この図体だけはデカい小物野郎が・・・」


ドカンッ!!!


「うっ・・・うぐっ・・・何てちか・・・ら・・・」


ガクン


鷹矢は最後の力を振り大きな体の男を投げ倒した。


「警察だ!・・・」


「こ、こいつです・・・」


鷹矢がストーカーの男を指差した。


「もしかして、倒したのか?こんな大きな男を?・・・それに君、刺されてしまって・・・おい、救急車を要請してくれ!」


大事になり、犯人はその場で逮捕されパトカーへと連行されて行った。


「鷹矢、鷹矢・・・ごめんね?ごめんね?死なないで!死んじゃったら私・・・私・・・」


私はその場で鷹矢を抱きしめ泣き崩れた。


「あの時と・・・一緒だな。お前は、助けに来た俺を見ると泣きじゃくって・・・

大丈夫だ。俺はまだ死なない。真相を知るまでは死にたくても死ねない・・・」


私はこの瞬間耐え切れずに鷹矢の求めていた真実を告げようとした。


「すまないが、出血が酷い。少しこちらで処置をしたいから離れてもらえないか?」


「は、はい。すみません・・・鷹矢を・・・鷹矢の事を宜しくお願いします!

私の・・・私のこの世で一番大切な人なんです。だから・・・お願いします!」


「あれ?・・・意識が遠のいて・・・」


刑事さんに菜々子が何かを伝えているみたいだが意識が朦朧として何も聞こえ・・・ない・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

搬送先の総合病院


パァァァ~


扉から出て来た担当医に私は声を掛けた。


「先生!?鷹矢は・・・鷹矢の状態は!?」


「あぁ、凄い生命力と言った所だろうね。もう一歩遅ければこの様な言葉は出なかったのだが、一命は取り留めたよ。後は、ICU(集中治療室)でしばらく様子をみながら一般病棟へ移す予定だよ。


君を助けてくれたお義兄さんなんだってね。大切にしなさい」


「良かっ・・・た。良かったよ~・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁ~ん」


夜の病院の通路で私はその場に泣き崩れた。

これは、大切な人が無事だった事に対するうれし泣きだ・・・


それから私は毎日鷹矢のお見舞いに訪れた。

来る日も来る日も・・・


「で?今日もこんな時間にこっそり病室へ入って来て俺の世話か?」


「らってぇ~・・・入院中って溜まっちゃうでしょう?らからぁ~こうしてこっそり処理しに来てるんだよ?」


「はぁ~・・・面会時間はとっくに過ぎてるんだよ!見つかったら追い出されて俺はどうなってしまうんだろうな~?」


「それに・・・鷹矢を他の子にこんな事させたくない・・・」


「え?何だって?」


「何でも無い。ほら、スッキリさせたげるから私に身を委ねて?」


「すっきり以前に俺は怪我人だ!そっとしておいてくれ!」


こうは言っているけれど、鷹矢はまんざらでもなさそうに見えるのは私が鷹矢を求めているからなのかな?


「何処へ向かわれたのかと思えば、やはり鷹矢さまの元へ・・・

病院は夜、部外者の立ち入りを禁止しております。


鷹矢さまがお戻りになられるまでは私が家事全般お手伝いさせて頂きますので、しばしの我慢でござます」


「わっ!野々花まで来たのか!?早く出ないと見付かってしまうぞ!」


「分かったわよ・・・じゃぁ、帰るからまたシテ欲しい時は遠慮無く連絡してね~?」


「では、菜々子さんはお連れ致します。明日は私が処理に参りますのでどうぞご期待下さいませ」


「野々花さん。菜々子に染められちゃダメだぞ?」


今日も菜々子はブレない・・・

それに、野々花も・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

しばらくが経った後、俺は無事に退院した。


「鷹矢!本当に良かった・・・私、気が狂っちゃいそうだった・・・」


放課後などには莉子が毎日看病に来てくれていた。

莉子にも色々と心配を掛けたと思う。


「ごめんな。いつも心配を掛けてしまって・・・」


「ううん。でも無茶しちゃダメだよ。ストーカーの被害だって聞いたけど、鷹矢はいつもそう・・・大切なものを守る為なら命すら惜しまない。今回は助かったけど次はそうとは限らないんだよ!」


「あぁ、そうだな。気を付けるよ」


確かにそうだ。

今回は奇跡だとも言われていた。

次、もしもこの様な事があった時に果たして俺は誰かを助けられるのだろうか?

そして、自分に危害が及んだ時にそれを回避する事が出来るのだろうか?


「それにしても、グラビアアイドルを命懸けで助け出したヒーローとか新聞で見た時に驚いたぞ!まさかお前だったなんてな」


「鷹矢ならそうするだろうね。まぁ、色々と大きい所から感謝されたりしているからね」


鉄平と雪人が退院した後の学校でそんな風に言って来た。


「称え過ぎだって・・・偶然通り掛かった港の倉庫街で悲鳴が聞こえたから駆け付けたら遭遇しただけだから」


本当は、探しに出た俺が偶然ストーカーから逃げていた菜々子を遠くの方で見掛けたから追い掛けていたらあの場所へ辿り着いたから近付こうとしたけど一瞬見失って探していたのだが・・・


「今回の栄誉、隠しておかれても宜しいのでしょうか?」


「うわっ!・・・野々花・・・突然背後から声を掛けるのは止めてくれといつも言っているだろう?本当に心臓に悪い・・・」


日本人形がまたしても突然背後から声を掛けて来た。


「栄誉じゃない。家族が誰かに狙われているなら誰でも助けようとするだろう?

俺が重症を負ったのは結果だよ」


「流石は鷹矢さま・・・これから父に許嫁・・・復縁させてもらう様伝えに参ります」


「いや、それは勘弁してもらおうか?」


「先ほどより子宮の方が降りて来てしまっており、大層鷹矢さまを求めてしまっている過程でございます」


「おぉっと!それは大変だ!保健室で休むといい・・・」


俺は急いで保健室へ野々花を連れて行き、ベッドへ寝かし付け教室へ戻った。


「はぁ~・・・一体何処でああ言う知識を得ているんだ?」


大きな溜息を吐くと俺は気を取り直し、気合いを入れた。


「七条、無事に復帰だな!大変だったな。だが、無茶だけはダメだぞ!

警察に任せる所は任せる。それも大切な事だぞ!」


先に警察には連絡を入れておいた。

そして、菜々子を見付けた時にも電話を掛けながら何処へ行ったのかも伝えた。

けれど、間に合うかどうかも分からない状況だった・・・


「さて、また今日から全員の元気な顔を見る事が出来て先生も安心した!

いつもの様に張り切って行こうじゃないか!」


オォォォォォォォォォォォォォォォォ~っ!!!


教室中、元気な声が響き渡る。

まぁ、こう言う仲間達だからこそ俺も頑張って来れたのだろう・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「今回のストーカーは、全く無関係の人物でした」


「そうかい、ご苦労様だったね。けれど・・・一体裏で何がどう動いているのかが見えて来ないね」


「はい。私も色々な可能性を想定しながら見ていますが、影すら現わさない状態ですので」


「うん。君がそこまで言うくらいだから犯人・・・または犯人達も相当機敏に動いているはずだ。だが、許せないのは今回の犯人だ・・・

鷹人君をあのような目に遭わせるとは・・・」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ~!!!!!!


「あの・・・梨美夜さま?物凄いオーラを電話越しに感じるのですが・・・

落ち着いて下さい。お怒りなのは私も同様、ですが今回の件に関しましては例の一件とは無関係だったのです・・・」


「あぁ、勿論理解はしているよ。けれど・・・あ、そうだ!今から犯人に直接会って・・・そして・・・」


「いや、もう警察におりますので後の事は警察の方にお任せ頂ければと存じ上げます」


(梨美夜様の鷹矢様に対する変なスイッチが入ってしまった様です・・・

一先ず、こちらを収める方が少々面倒ではありますが)


「梨美夜様、お怒りの最中大変恐縮なので御座いますが、先日の鷹矢様が当時、こちらの周辺を訪れた際に見たあの男の事なのですが・・・」


「何か進渉があったのかい?」


「はい。やはりその男は雇われていたみたいで、実際には菜々子様とは面識が無かったそうです。ただ、菜々子様が話に乗っていらっしゃったと言う事と、鷹矢様がお声を掛けた生徒・・・」


「そうだね。やはり何か裏で動いている事に間違いなさそうだ!

引き続き、宜しく頼むよ。何かあったら決して深追いせず逃げるんだ!私に連絡をくれてもいい。頼んだよ」


「はい。かしこまりました」






END

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寝取られた義妹がグラドルになって俺の所へ帰って来て色々と仕掛けて来るのだが?(♡N≠T⇔R♡) 小鳥遊凛音 @rion_takanashi9652

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