第九話 続・癒しに就いての考察

 俺と媛乃木が敷き蒲団と毛布の前に立った。

 媛乃木が緊張しているのが判る。

 いや、俺だって心臓が、ばく、ばく、だ。


「それじゃあ、二人の『お床入り』にょ~~~っ♡」


「「違うからっ!?」」

 舘野の言葉に突っ込んだコトで少し緊張が解れた……のだが、


「旦那さま~、奥方さまには服を脱いで戴くのが宜しいか……にょ?」


 この女は~~~っ⁉

「わ、わわ、わたしは、にゅがにゃい……わ、よぅ⁉」

「ほほぉ?……『奥方さま』は否定しないのにょ?」

「むうっ!?」

 媛乃木が舘野を睨んでいるが、こっちの負けですっ!


 ――と、思ったら媛乃木が毛布を捲って身体を横たえた。

 えっ?

「あなたぁ、は・や・く・ぅ♡」


 ちょ、待ってっ⁉

 俺はまだ心の準備があっ⁉

 そうか、これは逆に開き直ってヤツラ舘野と川俣に対抗しようという……あ、アレ作戦だな?


「わ、判った……は、、いまいきゅ(あうぅ⁉)」


 慣れないコトはするんじゃなかった。

 舘野と川俣が大爆笑だ。

 媛乃木まで顔を伏せて笑っている。

 それは無いんじゃない、はにー(笑)。


 しかし、毛布の中で媛乃木と、ほぼ、ゼロ距離だ。

 や、ヤバいっ!?

 い、色々、ヤバいっ!?


 すっげ~綺麗な顔♡……じゃ、なくてぇ!?


 その時、背後に舘野が入ってきたんだがぁ!?

 いや、なんでっ!?


 あ、止めてっ!?

 舘野が両腕を脇からこじ入れてきてるんだが?

 あ、ダメ、マジ止めてっ!?……99センチHカップを押し付けるのぉわあああっ!?

 そ、それでなくても、色々、不味い状況にあるのでぇ!?


「旦那さまあ、奥方さまの『お熱を測る』にょ♡」


 いや、そんな話だった気もするのだが…………あっ、だから、【クラスの至宝】を背中に押し付けるのは止めて貰って良いでしょうかっ!?


「ほら、奥方さまも待ってるにょ♡……ぶちゅ~~~っとイクにょ♡」


「いや、ちゅ~、じゃないよね?……熱を測るんだよね?」

「どっちも、おんなじにょ♡」

「ち、違うからっ!?」


 ――って言うか、何故に目を瞑ってるんですか、媛乃木さんっ!?


「処で、ヒメちさあ、タダちって……かったくなってるかにょ♡」


 ――ってぇ……な、ナニを言いやがりましゅかっ⁉……この女わあっ⁉


「えっ?……何が硬くなるのぅ?」


 いや、真面目に答える必要は……まったく、もって……あ、ありましぇんでごじゃいましゅです、はいぃ⁉

 ……が、直ぐに媛乃木も気付く。


「ば、莫迦……い、育美いくみちゃんの、えっちぃ♡」


 い、いや、何故に媛乃木さん、……なんで、ごじゃいましゅです、かっ⁉

 更に、舘野のは加速する。


「えっ?……た、只野くん……あ、やだ、そんなトコ、触っちゃ、ダメぇええっ⁉」


 はいぃ⁉……お、俺は、何もっ⁉……た、舘野だな?

 俺は両手を万歳するように毛布から出してのだが……

 暴漢舘野は留まるコトを知らずっ⁉


「……や、やだ、育美いくみちゃん……そ、そんなに、押しつけちゃ……だ、ダメぇええっ⁉…………ひ、ひぃいいんんんっ⁉」


 最後の媛乃木のに関しては、俺の責任は皆無なのでコメントは控えさせて戴きたい。

 ただ、真っ赤になった媛乃木には、むっちゃ、睨まれたのだが。

 いや、俺は悪くないよな?


 結局、ぶちゅ~~~っ、は……じゃ、じゃなくて、おでこで熱を測るイベントは有耶無耶になったのであるが、余計な《部位》の不可抗力な接触イベントが発生してしまい、媛乃木の信頼は地に墜ちたのであった。


 許すまじ、舘野めぇ!?


          *


 それから、また机と椅子を元に戻して、いつもの位置関係で、昼食となったのであるが。

 弁当持参だったしぃ。

 最早ルーティーンになっていた『おかず交換』を済ませた時、川俣が言った。


「あたしの【癒し】は媛乃木が只野にする『はい、あ~ん』だ!」


 はいぃ!?……イミフなんだが?

 こういう時に必ず余計なコトをホザク舘野が、空かさず言った。


「それじゃあ、実際にやってみるにょ♡」


 いや、それ、マジで……イミフなんだがっ⁉

 ――って、言うか……改めて皆んなの前で『はい、あ~ん』されるとか、イジメ以外の何だと言うのかっ⁉


 いや、だから媛乃木さん、やらなくて良いからね?

 媛乃木が最近上達が著しい彼女作の『だし巻き卵』を箸で摘まんでスタンバっていた。

 いや、だから、やらないからねっ⁉……やだ、からねっ⁉


「「「はい、あ~んっ♡」」」


 いや、だから、声合わせて言わないでくださいぃいいいっ⁉

 俺が『だし巻き卵』を、ぱっくん、すると……媛乃木の箸が口の中で、ガチっ、と鳴った。

 いや、だから嫌だって言ったのにぃいいいっ⁉


「おっ返し、おっ返しぃ♡」


 余計なコトをホザク舘野が更に混ぜっ返す。

 いや、だから媛乃木さん、やらないからね?

 目を瞑って口を開けて、やめて貰って良いでしょうかあっ⁉


 結局、俺は三人の〝圧〟に負けたのだった。

 媛乃木の口の中で俺の箸が、かちっ、と可愛く鳴った。

 ………………ちょっとだけ……う、嬉しかったのは、内緒だ。



 我々の『班活動』……こんなんばっかだが、授業の単位は大丈夫なのか。マジで不安しかないのだが。



            【つづく】

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