第八話 癒しに就いての考察

「次回の班活動は【癒し】に就いて考察する」


「「「は、はいぃ!?」」」


 今日の弁当タイムだった。

 川俣のいつも通りのマイペースな宣言に、珍しく舘野も『?マーク』を浮かべた。

 どうやら、今回は川俣の独断専行だったらしい(だから、どうした……という話ではあるのだが)。

 しかし、その〝どこに〟創造的クリエイティブな活動があるのか?


          *


 当日俺は拭い切れない不安を抱えて指定された三階奥の特別教室Aに向かった。

 特別教室というのは授業用ではなく、会議とか、今年から始まった『班活動』などにも利用できる授業用の教室より小さめなスペースである。

 今回も入り口の引き戸には『2年A組、只野班』と書かれた紙が貼られていた。

(ま、まあ良いけど……班長にされてたしぃ)

 引き戸を開けて中に入ると他の三人が既に揃っていた。

 メンバーはいつもの ――


  媛乃木ひめのき ひめ= 学園一の美少女。俺の〝推し〟。

  川俣かわまた 眞如まこと= スレンダーな筋肉女子。

  舘野たての 育美いくみ= ギャル。制服を着崩す天才。


の三人に、俺(只野ただの 凡男はんお)を加えた四人である。

 因みに三人は我がクラスのカーストトップ3でもある。

「遅れてごめん」

 俺が謝ると舘野がスマホを見て言った。

「大丈夫にょ、まだ3分前にょ♡」

(そりゃどうも……何か既視感デジャブ満載なんだが?)

 室内を見廻すとここもいつもの教室の半分くらいだろうか。

 前回の特別教室Bは会議などで見るような長テーブルだったが今回の特別教室Aは普段の授業と同じ机と椅子だった。

 ただ、何故か中央に机2個と椅子4個だけ配置されている。そして、残りは部屋の奥に積まれて(片付けられて)いた。

 そんな訳で手前の空きスペースはそこそこな広さだったが、そこに机2個と椅子4個だけって?

 いや、そもそも、いつもの昼休みの昼食時と同じ配置って、何故だ?



 そして、当然のように四人がいつもの位置に坐った。

「先ず、各自【癒し】を感じた瞬間の話をしよう」

 こうして、川俣の説明で本日の『班活動』が始まったのだった。


「あーしは、子供の頃、父上に膝枕して貰ったのが、最高の癒しだったにょ♡」


 舘野が『父上』と呼ぶのが違和感だ(笑)。

「タダち、いま、とっても失礼なコト考えたよね?」

(何故、判る?)

 俺は内心を見抜かれた焦りを誤魔化すように意見を述べた。


「俺も似たようなコトだけど、子供の頃に母に添い寝して貰ったのが、今思い出すと一番の『癒し』だったかな?」


 俺が幼少期の記憶を頼りにそう続けると、媛乃木が何故か頬を染めてこう言った。


「わ、わたしもね……小さい頃、風邪ひいて熱がある時に、お母さんが…お、おでこをくっつけて熱を測ってくれるのが……い、癒しだったかな?」


 その話に、舘野と川俣が反応して……『生暖かい』視線で媛乃木を見た。

 媛乃木も頬を染めて視線を泳がせたのだが。

 ……イミフなんだが?


「それじゃあ、実際にやってみよう」

 川俣が仕切るのはだが、川俣の【癒し】の話はどうした?

 オレの不満はナチュラルにスルーされて、川俣と舘野が何やら準備を始めた。


 何故、そんなに適切な備品が用意されていたのか……突っ込んだら負けなんだろう(笑)。

 椅子を横に並べ替えてその前にマットが敷かれ、更にその上に保健室からでも持ってきたのか、敷き蒲団と毛布が敷かれたのだった。


「じゃあ、最初は育美の【癒し】の再現からだな」

「良いにょ♡」

「父親役は只野だな」

「まあ、我慢するにょ(笑)」

「おいっ!?」

 俺が敷かれた毛布の上に正座すると、直ぐに舘野が横になって俺の膝に頭を載せてきたのだった。


 いや、ちょ、待て~~~っ!?


 何で、膝枕してるんだっ!?

 じょ、女子が男の股間を、ガン見、する位置で膝枕って、可変おかしいだろうっ!?


「ああっ、癒されるにょ♡」


 う、ウソつけ ――っ!?

 更に舘野がトンデモ発言を繰りだした。


「いつもは、父上のおズボンに『頬擦り』してるにょ♡……やってみようかにょ♡」


「却下だっ!?」

 俺は舘野の頭を掴んで、ぐりん、と逆向きにしたのだった。

「お、横暴にょ!?」

「うるさいっ!?……終わりだ、終わりっ!?」

 俺は舘野の頭を撥ね飛ばす勢いで立ちあがったのだった。


 舘野が毛布の上に転がる瞬間 ―― 黒い布切れが、ちら、見えたのは内緒だ。

 ブルマだった……かも知れない。他のだった……かも知れない。

 レースに縁取られていたような……気もしたのだが(笑)。



「次は只野の『添い寝』の再現だな」

 川俣が言い、舘野が続けた。

「母親役は……だれが良いかにょ?」

 川俣と舘野が媛乃木を見た。


「「ちょ、待ってっ!?」」


 異口同音に抗議の声をあげた俺と媛乃木だったが、ヤブヘビだったかも知れない。

「ほら、息もぴったりにょ♡」

「決まりだな……ついでに姫の『おでこをくっつけて』もやれるしな!」

「マコち、頭良さげにょ~~♡」

「当然だ(笑)」


「それじゃあ、二人の『お床入り』にょ~~~っ♡」


「「違うからっ!?」」

 前途多難な『班活動』は、まだまだ続くのだった。



            【つづく】

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