第七話 賢者タイムは何処(いずこ)へいった!

 俺は改めて振り返って三人を見た。


(いや、あんたらそんな水着で恥ずかしくないのか? ← 主に二人だが)


 川俣の水着はビキニのパンツのビキニラインの切れ込みが(笑)し、舘野に至っては………………海水浴場とか市民プールで着たら間違いなく〝痴女〟の烙印が押されるであろう!

「タダち、いまとても失礼なコト考えていないかにょ?」

(何故、判る?……いや、判るか(笑))

「それより、あーしの水着はどうにょ?」

「海水浴場とか市民プールとかでは『他人のフリ』します!」

「そうかにょ?……もっと水着が好みなのにゃ?……では『マイクロビキニ』に着替えるかにょ♡ 」

「わたしが悪うございました!……それだけは平にお許しくだされっ!」


 俺には媛乃木が居る。媛乃木はバスタオルでどんな水着か判らないが、彼女の清廉な佇まいが俺に〝賢者タイム〟を取り戻させてくれる筈だ。

「た、只野くん……わ、笑わないでよ」

 媛乃木が視線を泳がせながらそう言うとバスタオルを外した。


(す、スク水ですとぉ ―――― っ!? )

 賢者は1500000HPヒットポイントのダメージを受けた。


 しかも、であるっ!

 この学園では水泳の授業は二組ふたくみ合同で〝男女別々で〟行われる。(当然だ! ……高校生にもなって男女合同の水泳授業などである!)

 そして、学園に友人の居ない俺は『その情報(白スク)』を共有できて居なかったのだった。


 白スクの破壊力、倍ドンっ!?

 賢者は3000000HPヒットポイントのダメージを受けた。

 今日は俺の命日になるかも知れない……


 そして、川俣が壁際の長テーブルに置いてあったビニールシートを広げた。

(えっ?……なにっ!……『ツイスターゲーム』ですと?)

 『班活動』の内容は『創造性クリエイティブに富んだ』モノというお達しだ。

「これのどこが創造性クリエイティブに富んでいるのか?」

 俺は〝班長〟として些か不快感を滲ませて訊いた。

「今回、革鍋(クラス担任)に提出した趣意書はこうだ!」

 川俣が先ほどの長テーブルから一枚の用紙をとって読みあげる。

創造性クリエイティブな活動の為に一番に必要なモノは、柔軟な発想力である!……例え遊びの中にあっても常に『柔軟な発想力』を養う事が大切である!」

「流石、マコち!……何の問題もナッシングにょ~~~っ!」

 舘野がいつものように煽り、媛乃木が強く反論した。

「だ、だったら水着に着替える必要なかったじゃないっ!」

「なんだ?……姫は『コレ』をスカートでやりたいのか?」

 媛乃木が悔しそうに俺を見た。


 はい、我々の負けです!


 そして、何故か『グーパージャンケン』で、何故か、川俣と舘野、媛乃木と俺、の組み合わせと相成った。

 更に川俣が悪だくみを追加する。

「それぞれの組で、負けた方は〝罰ゲーム〟ありだ!……何が良いかな?」

「勝ったら、負けた方に……というのはどうかにょ?」

「ダメだっ!……姫のが危ない!」

「おいっ!」

 俺の抗議をスルーして川俣が言った。

「それなら、一つだけ質問できる…でどうだ?……ただし、嘘だったら全員で〝くすぐりの刑〟な(笑)」


 そんなこんなで、ゲームが始まった。


 一回戦は『川俣と舘野』の組だ。

 俺が審判で、媛乃木が書記(?)だ。後日クラス担任に提出する為の資料作りだそうな(何を書き残すのか?……良く判らん)。

 二人の対戦は……なんというか『出来レース』に思えてならなかった。

 やたらと相手の身体へのタッチが多い、気がする……つまり、このゲームでは相手へのボディタッチは普通にあり得る ―― だから、お前も遠慮するコトはない……そんな声が聞こえてきそうだった。


( ……賢者タイム、賢者タイム、!)


 俺は念仏を……いや、謎の呪文を唱え続けたのだった。

 数分後、上になった舘野に押し潰されるようにして川俣が尻餅をつき、舘野が勝った。(反則っぽかったが……まあ、いっか?)

 ―― で、敗者への質問タイム。


「媛乃木さんの今日のぱんつの色は何色ですか?」


(おいっ!)

「白のレースで、ちょい透けでした」

「す、す、透けてなんか、ないモンっ!」

「ウソダト、クスグリノケイ、デスヨーっ!」

 審判の俺は『棒読み』で川俣に訊いた。

「はい、嘘をついているのは媛乃木さんです」

「それじゃあ、ヒメちを〝擽りの刑〟にょ♡」

「それは越境行為で認められませんっ!」

 俺が割り込むと媛乃木が、ほっ、と息を吐いた。


 そして、二回戦は『媛乃木と俺』の組で、審判は舘野が、書記は川俣が担当する。

 ゲームが始まり、次第に距離が近づく。

 白スクの媛乃木が間近に居るというだけで、俺の〝賢者〟が危機にひんしてゆく。

 いよいよ身体が接触するほどに近づいた。

 媛乃木の右手が俺の両足の間にある『黄色』に置くしかない位置取りだ。

 媛乃木が身体を沈める前に俺の耳元に囁いた。

「身体が触れちゃったら、ごめんね」

 何と素晴らしいコトかっ!?

 彼女はこんな時でもゲームをしている。

 そして、媛乃木の右手が俺の両足の間にある『黄色』に置かれた。

 彼女の肩が俺の股間を押しあげる。


( ……賢者タイム、賢者タイム、!)


 俺の〝賢者〟は俺の呪文をした。

 ヤバいぃ!?

 俺は勝負を捨て、後ろに尻餅をついた。

「参りました(笑)」

 俺の敗者宣言に審判の舘野が言った。


「いまのは故意の尻餅と判断し、只野くんの『不戦敗』となります ―― よって、タダちは擽りの刑にょ♡」


 言うが早いか舘野と川俣が二人掛かりで俺に圧し掛かり押さえ込まれた。

 そんなルールなかったぞー、と言うより……色々状況だ。

 舘野の〝痴女の衣装〟が俺の〝賢者〟の上で早くもズレかかり、川俣の〝切れ込み鋭い衣装〟が俺の顔を跨いで押さえ込んでくる。

 更に、媛乃木まで〝擽り〟を担当だ!


 俺の〝賢者〟は50000000HPヒットポイントのダメージを受け、全てを放棄したのだった。



 その後、俺が意識を取り戻すと、が目に入った。

 それから、掛けられた毛布と、そこからだされた右手を両手で握っているに気付く。

 制服姿の彼女は、すや、すや、と寝息を立てていたのだった。


 どうやら本日の『班活動』も、無事(?)終了……したらしい?



            【つづく】

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