第六話 賢者タイム、賢者タイム、賢者タイム~~~っ!
毎週一回の『班活動』の日がやってきた。
今回は学園集合との事で俺は正直、ほっ、とした。
まあ、あまり自慢できる話ではないが、俺の成績は、そこ、そこ、だ。一つや二つは赤点、ギリ、の教科もある。
『班活動』というのが成績にどれ程のウエイトを占めるのかは判らないが、そこで赤点を貰うのは
先三回の『班活動』は、殆ど〝遊んでいた〟と同義語だ。クラス担任の
とても不安だ ――
だから今回の集合場所が学園だったので幾分安堵したのだが、前回も学園から遊園地に移動した事を考えると不安も覚えるのだ。
しかも、当日持参するようにと川俣がLINEで知らせてきた内容だが ――
飲料水(ペットボトル500ml、2本ほど)← まあ、良い。
昼食用の軽食(サンドイッチなど)← まあ、弁当より良いかも知れない。
ハンドタオル(汗を拭くため)← まあ、問題あるまい。
水着 ← 何故だっ!
当日俺は拭い切れない不安を抱えて指定された三階奥の特別教室Bに向かった。
特別教室というのは授業用ではなく、会議とか、今年から始まった『班活動』などにも利用できる授業用の教室より小さめなスペースだとの話だ。
入り口の引き戸には『2年A組、只野班』と書かれた紙が貼られていた。
(ま、まあ良いけど……班長にされてたし)
引き戸を開けて中に入ると他の三人が既に揃っていた。
メンバーは ――
の三人に、俺(
因みに三人は我がクラスのカーストトップ3でもある。
「遅れてごめん」
俺が謝ると舘野がスマホを見て言った。
「大丈夫にょ、まだ1分前にょ♡」
(そりゃどうも……)
室内を見廻すと確かにいつもの教室の半分くらいだろうか。教卓はなく机も会議などで見るような長テーブルが部屋の奥に積まれて(片付けられて)いた。
そんな訳で手前の空きスペースはそこそこな広さだった。
しかし、水着持参で教室に居ても仕方あるまい。
「それで、俺は内容を聞いてないんだが、屋上のプールに移動するの?」
この学園には『全天候型温水(冬場のみならず夏場も快適に泳げる)プール』が屋上に設置されている。外部からは完全に隔離されていて、〝真っ裸〟で泳いでも大丈夫な安心設計だと学園の『入学案内』に記載されているのを見た気がする。
「まあ、まずは着替えてから説明するよ」
川俣の言葉で俺は(えっ?)と思った。
「それじゃあ、俺が先に廊下に出ているよ」
「何故だ?」
「いや、拙いだろ?」
「只野は班員の信頼を裏切り〝のぞき〟をするような卑劣な男なのか?」
「し、失礼なっ!……そんなコトしないっ!」
「だったら、男子と女子で逆の方向を向いて着替えれば、何の問題もあるまい!」
「い、いや……」
「なんの問題もナッシングにょ~~~っ!」
舘野も良い笑顔でそう言った。
「ま、ま、待って…よぅ…」
媛乃木だけは真っ赤になって慌てていた。
「よし、それじゃあみんな後ろを向け!……始めるぞっ!」
川俣の掛け声で女子三人が向こうを向いた。俺も遅れないように慌てて回れ右だ。
ヤバい!……会話が途切れ、静かになった部屋に衣擦れの音だけが聞こえる。
(…………賢者タイム、賢者タイム、賢者タイム~~~っ!)
俺は心の中で必死に呪文を唱えた。
その時、突然、媛乃木の声が響いた。
「な、何で二人とも……そ、そんな水着なのよっ!?」
「えっ?……ヒメちは違うかにょ?」
「だ、だって……が、学園で着る水着ったら……」
「何だ?……どんな水着だって?………………うぷっ!? ……姫さあ、授業じゃないんだから、それはないだろ?」
「大丈夫にょ!……タダちには受けるにょ♡」
「それより、さっさと着替えないと、姫だけ〝すっぽんぽん〟を晒す羽目になるぞっ!……良いのか?」
「因みに、あーし、いま〝すっぽんぽん〟にょ♡ ……タダち、振り向いたら〝校内晒し者の刑〟にょ♡」
「あたしも、あとは下を穿けば終わりだ!」
「つまり、マコちはいまオ〇ケ丸見えにょ♡」
「うむ……手入れをしているから見られても問題ないぞ!」
(……だ、だから、そういう状況説明、要らないですからっ!……賢者タイム、賢者タイム、賢者タイム~~~っ!)
俺は謎の呪文を唱えながら着替えを急いだ。
「ま、ま、ま、待ってよう!」
一方で、一人だけ焦り捲っているようだ。
「良し、俺も着替え終了っと!」
俺が水着を摺りあげ〝賢者(?)〟を隠し終えて(笑)終了を宣言すると、多分残った最後の一人が半泣きである。
「ひぃいいんっ!?」
「だからバスタオル巻いたりしないで、ちゃっ、ちゃと、脱いで、ちゃっ、ちゃと、穿けば良いにょ♡」
(な、成るほど…流石は媛乃木さんだ!……見える見えないではなく、見えていなくても、ちゃんと恥じらいを持って着替えているんだ!)
それから、思ったより時間が掛かった。
時折、「あうっ」とか「ひぃ」とか声が洩れて、漸く着替えが終わったようだ。
「タダち、お待たせにょ~~~っ!」
舘野の声で振り返ると、まだ媛乃木がバスタオルを巻いていた。
「ええっ!?」
俺は慌てて身体の向きを戻すと舘野が笑って言った。
「タダち、大丈夫にょ!……ヒメちは恥ずかしがってバスタオルを巻いてるだけにょ!…下に水着は装着済みにょ♡」
俺はその言葉で改めて振り返って三人を見た。
(いや、あんたらそんな水着で恥ずかしくないのか? ← 主に二人だが)
【つづく】
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