最終話 望む世界

 小鳥の囀りが鼓膜に心地良く、涼しい風に顔を撫でられたルイソンが瞼を開くと、眩い光の中に立つ麗しい姿に心を包まれる。


「アル・・」


 微風に弄られる髪を、雪のように白い手で耳にかけていたアルベルトは、待ち遠しい声に、その美しい顔をルイソンに向ける。

「ルイっ!」


 瞬間移動で目覚めたルイソンのベッドに潜り込むと、布団から顔を出しルイソンの顔を両手で慈しむように包んだ。


「良かった・・ 良かった・・ 傷が深くて・・ 火傷も酷くて・・ もう何日も何日も目を覚まさないから・・ 心配したよ・・ 本当に・・」

「アル・・」

 アルベルトの頬をつたう温かい涙を拭うと唇を重ねる。

「心配させてごめん。俺はこの通り大丈夫だから、泣かないでくれ」

 アルベルトは喉を震わせ深く首を縦に振ると、清々しく微笑んだ。


「目覚めた時、美しいアルを見て、天国かと思っ

 たけど・・ 俺は何処に居るんだ?」

「トマリ国にある病院。セバスチャンが開発した薬があって、ライカン、ヴァンパイア、人間、種族を問わず治療が受けれるんだよ。凄いね」

「セブが・・ そうか、やるな。じゃあ、アルも治療して貰って、身体は大丈夫なのか?」

「うん」

「ケビンやヒューゴはどうした? パウルの屋敷はどうなった?」

 鮮明になったルイソンの脳に湧き出す心配事が、次々と飛び出すルイソンの口に、アルベルトは頬を緩ませながら人差し指を置いた。


「クスクス・・ ルイ・・ 心配してくれて、有難う。確かにヴァンパイアの拠点は壊滅的でね、宿無しになってしまったけれど、マキシム達が家を提供してくれたり、アルテメ国に移住したりするモノもいる。ケビンの家族はリストリアに帰る事にしたよ」

「そうか・・ 大変だったな」

 ルイソンが悲しい表情を見せると、アルベルトがルイソンの頬を指で撫でる。

「そうだね、大変だったけど。でも、ライカンが沢山助けてくれた。感謝しかないよ・・ ルイ、有難う」

「そっか・・ そっか・・ 良かった・・」

 油と水の関係で、決して混じる事がないと誰もが考えていたヴァンパイアとライカンが、言葉を交わせるようになっただけでも奇跡なのだ。

 ルイソンは胸が熱くなると頭を並べて横になるアルベルトを強く抱き寄せ口吻を交わす。


「アル、愛してるよ」

「ルイ・・ 僕も愛してる。君が眠っている間、空気がなくなったみたいに呼吸が苦しかった。ルイは僕の生きる意味、その物なんだって分かったよ」

 ルイソンとアルベルトの身体は急激に熱を帯びると、再びキスをする。

 病室に二つの舌が絡み合う音が響くと、ルイソンがアルベルトの服の下に手を忍ばせた。

「アレ? スーツじゃないのか?」

「あ、うん。前にルイが着せてくれた服、凄く動き易くて着心地が良かったから・・ アっ」

 ルイソンの指が滑らかなアルベルトの肌を這うと、少しだけ膨らんだ場所を摘まむ。

「ルイ・・ んっ・・ 身体は大丈夫?」

「我慢した方が、体調が悪化しそうだ」

「クスクス・・ んっ・・ 僕もだよ・・ でもここ病院」

「セブには後から謝っておく・・ これも治療の一環だって」


 アルベルトは、ルイソンの腹上に乗り、トレーナーを脱ぎ捨てると、真っ白に輝く肌が露出する。

「アル・・ 綺麗だ」

 ルイソンがアルベルトのベルトに手を置き瞬く間にアルベルトを全裸にすると、アルベルトもルイソンのパジャマを脱がせた。

「んっ、はぁ、君の指が・・ あっ」

 尻を突き出すアルベルトの小さな蕾に、ルイソンの中指がゆっくりと侵入すると、巧みにアルベルトの望む部分を刺激する。

 舌が絡み合う音が、時々アルベルトの吐息で掻き消されると、ルイソンはアルベルトの中にある指の数を増やしていく。

「アル、俺は幸せモノだよ・・ 愛してる」

「あああっっ・・ ルイっ! そこっ! 僕も本当に幸せだよ・・ んんっ、もう頂戴、これ以上我慢出来ない」

「でもまだ・・ あれ? ここ随分と柔らかい・・ アル、まさか俺以外と・・」

 悠々とルイソンの大きな指を何本も咥えるアルベルトの肉筒に若干不安気になると、アルベルトと視線を合わせた。

「まさかっ・・ ルイの寝顔を見て自分で慣らしたんだ・・ 僕の喘ぎ声を聞いたら、ルイが目覚めると思ってね」

 ルイソンは顎が外れる勢いで絶句すると、全身から力を吸い取られたように腑抜けた顔をする。

「俺、何やってんだよ~ 寝てるなんて、大馬鹿者だ。何て勿体ない事をっ・・ ック」

 悔しさを全細胞から滲ませるルイソンの耳元にアルベルトは顔を寄せる。


「この日をずっと待ってたんだよ・・ だから、早く・・ はぁ・・ あっ」

 アルベルトはそう告げると、ルイソンの熱棒に手を添え自分と合体させようとする。

 虚ろな目で背筋を伸ばし、美しくルイソンに騎乗する彼の腰を手で支えたルイソンは、そっとアルベルトの身体を浮かせ、ルイソンの中心部をアルベルトの奥深くへと進めて行く。

「はぁはぁ・・ あっ・・ んっ・・ はぁ・・ 食べたよ・・ ルイの全部」

 肌を紅色に染めたアルベルトに艶めかしい視線を浴びせられたルイソンは、唾をゴクリと飲み込んだ。


「アル・・ 素晴らしい眺めだ」

 ルイソンが手に力を籠めアルベルトを上下に揺らすと、アルベルトが背骨を反らしルイソンの熱を自分の核心へと導く。

「アッっ・・ ルイ・・ そこっ・・」

「ここが好きだよな」

「うんっ・・ あっ・・ すごくイイっ・・ はぁはぁ・・」

 アルベルトを下から突き上げるルイソンの首回りに、身体を振り下ろしたアルベルトは、激しくルイソンの舌に自身のを巻きつける。

 トロけそうなアルベルトを、瞬時にうつ伏せにさせると再び唇を舐め合う。

「はぁはぁ、アル・・ はぁはぁ」


 ルイソンがアルベルトを背後から激しく攻める度に、アルベルトの腰が反り上がり枕に強くしがみ付いた。

「あっ、ダメっ、ルイっ、激しいっ、アアアっっ、僕、頭が、はぁはぁ・・ 頭が、変になる・・ あああっ」

 肩越しにルイソンと目線を合わせようとするアルベルトが、今度は瞬間移動で仰向けになると、ルイソンの首にしがみ付いた。

「アル・・ アル・・ ああ、アルの中は最高だよ・・ はぁはぁはぁ・・  愛してる」

 ベッドが軋む音と吐息が部屋中に響き渡たると共に、周辺の空気が熱しられていく。


 大きな生肉を手に、ルイソンの目覚めを期待するマキシムは、病室前で突っ立っているセバスチャンを見つける。

「セブっ、ルイソンに何かあったのかっ」

 焦った顔でセバスチャンに駆け寄ったマキシムに真っ赤な顔のセバスチャンが振り向く。

「全然、ルイソンは完全復活してるよ・・」

「って事は目が覚めたのか? 今日は良い肉を持って来て正解だった。アイツの好物のバーガー付きだ」

 これまでルイソンへの土産を持参しても、彼が目覚めなかったため、見舞に訪れた仲間と病室で、寝顔のルイソンに冗談を言いながら、土産を食していたマキシムは、ようやくルイソンに食べさせられると思うとドア前に急いだ。


「セバスチャン、俺、中に入りたいんだけど」

「え? あ、うん。分かってるよ。僕もそうだから・・」

「へ? じゃなんで、ドア前で仁王立ちしてるんだ?」

「あ・・えーと、社会勉強・・ ほら、僕ずっと顕微鏡ばかり覗いてたからさ」

 目覚めたルイソンに会いたい一心のマキシムは、セバスチャンの意図が分からず、通せんぼする彼に少しムッとした表情を見せる。

「退いてくれ。俺はルイソンの顔を見に来たんだ」

「そうだよね・・ でもさ・・ 分かるでしょ? やっと目覚めて傍にアルベルトが居たら、ルイソンがどうするかをさ」

 モジモジしながら話すセバスチャンの言葉の意味を理解したマキシムは、土産の入った袋を床に落とした。

「じゃあ、俺、終わるまで待つ」

「え? それは、野暮だよ」

「でも、セブだってずっとここで奴等の事、聞いてたんだろ?」

 頭から湯気を上げ、セバスチャンは動揺を露にすると足早にその場を去ろうとする。


「あ、セバスチャン先生だぁ~」

 小さな足音が駆け足でセバスチャンの元にやってくると、彼の足に抱き付いた。

「ヒューゴっ! ・・今日はルイソンのお見舞いかい?」

「うーんっ! ルイソン起きた? あれ? セバスチャン先生どうしてそんなに顔が赤いの?」

 セバスチャンの簡単に見て取れる慌てふためく姿に、マキシムは口元に手を置くと必死で笑いを堪えた。

「あ、今日は暑いねぇ~」

 セバスチャンは手をヒラヒラとさせて、顔を扇ぎながら視線を泳がせていると、見知った顔が目に入る。

「皆さんお揃いで」

「よぉ~ ケビン。残念だけど、只今面会謝絶だ」

「そんな・・ 急変したって言うのか?」

 渋い表情のケビンに対してマキシムは顎に指を当てると、上目遣いで天井を眺めた。

「そうとも言うな。俺、また土産持って来たしさ、皆で食いながら、終わるの待ってようぜ」

「終わるって何が?」

 不思議な面持ちのヒューゴに問い掛けられたマキシムと、セバスチャンの視線が交差すると、ニコリとマキシムが微笑んだ。


「それは、ほら、セバスチャン先生が説明してくれるさ。なっ先生」

 ヒューゴに足を掴まれたままのセバスチャンは逃げる事も出来ずに、マキシムに叩かれた肩をジッと眺めた。

 固まるセバスチャンを残して、病院の廊下を歩き始めたマキシムは、一旦足を止めるとルイソンの病室を再び振り返る。

「直ぐ戻って来っから、さっさと済ませろよっ」

 ルイソンに聞こえるように語るマキシムの耳を、セバスチャンは摘まむと、その場を去って行った。


 四つの鼓膜には、セバスチャン達の会話がしっかりと届いていたが、絶頂寸前の彼等を止めれずにいた。

 声を出さないように口元を覆うアルベルトの両手を、ルイソンがそっと取り除こうとする。

「アル、顔を見せて」

 トロリとした目元のアルベルトが真っ赤な顔を覗かせる。

「俺達が何をやっているのかバレてるから、声を我慢しなくても良かったのに・・ ま、そういう可愛いところにも俺は惚れてんだけどな」


「アアアっ、ルイっ・・ 僕もう・・」

 声を押し殺していたアルベルトが、一気に声帯を震わせると病室に響き渡る。


「はぁはぁ・・ ルイ・・」

 アルベルトは透き通る手を伸ばすとルイソンにキスを求め、そんなアルベルトに応えるようにルイソンは唇を重ねながら、腰の動きを更に加速して行く。そして、上体を起こすと、アルベルトの感部に自分の竿を繰り返し押し当てた。


「もうっ、ダメっ、尻が・・ あっっっ、イイっっ、あああああっ」

 開いていたアルベルトの両足が強く閉じられ痙攣と共に、蕾が萎むと彼の筒で咥えていたルイソンの肉棒を強く締め付ける。

「はぁはぁ、アルっ、すげぇ締まるっ、俺も、もうダメだ、イクっっっ、んんっっ」

 ルイソンの温かい体液がアルベルトの中に噴射されると、何度も激しく脈を打った。


 絶頂に達したルイソンが前屈みになり、アルベルトに身を委ねると、アルベルトの可愛い鼓動が耳に心地良く、ルイソンは幸せをひしひしと噛み締める。

「アル・・ 俺と出逢ってくれて有難う。俺の生がある限りアルを大切にする。心から愛しています」

 顔を上げたルイソンは真剣な面持ちでアルベルトに語り掛けると手の甲に唇を押し当てる。

「ルイ・・ 僕の事を見付けてくれて有難う。僕もルイだけを愛しています・・ これからもずっとずっと」

 アルベルトが上半身を少しだけ持ち上げ、ルイソンにキスをすると輝く笑みをおくる。

 彼等の体温で病室が春を迎えたかのように温められると、花瓶の蕾が開花し甘い香りが辺りに漂った。

 

 病院の中庭では、澄み渡る青空の下、紫外線カットが施された屋根の下ヴァンパイア達が、愉し気に外を眺めながらティーを嗜んでいる。

 そんな彼等の傍らで、ライカンと人間の笑い声が弾み、微風に乗ってルイソンの病室の辿り着くと、ベッドで抱き合うルイソンとアルベルトを包み込んだ。


 完


 最後まで読んでいただいて有難うございました。


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ライカンとヴァンパイア 美倭古 @fushiru

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