第14話 引力
「そろそろ日が昇る。もう帰らないと・・」
「うん、分かってるよ。でももう少しだけ・・このままで」
身体の火照りを逃がさないようにルイソンとアルベルトは強く抱き合うと、朝日が昇るのを疎ましく思ってしまう。
「昔俺達は、仲間に正直に打ち明けて殺されたのかなぁ・・」
「どうだろう・・ 確実に言えるのは、パウル家の誰かが僕達を殺そうとした・・」
「血呪ってやつか? だとしたら、殺そうとしたのは俺だけだろう」
ルイソンの腕の中で蹲るアルベルトの頭を撫でながら、時々強く抱き寄せると唇を重ねる。
「同じ失敗は繰り返したくないけど、僕は今度こそ君から離れたくない」
「俺も同じだ・・」
「でも君は何もかもを捨てて、僕達だけで何処かに行くなんて・・ 出来ないよね?」
「アルベルト・・ 俺とお前の仲間が殺し合うのを見過ごせない。すまん・・」
ルイソンは苦しい胸の内を顔に映し出すと、アルベルトを引き寄せ、彼の頭にキスを降り注ぐ。
「そんな君だから僕は惚れたんだよ・・ でもごめん、僕は身勝手だから、パウル卿当主である運命を恨んでしまうよ・・ ルイソンと離れるくらいなら、また一緒に殺されてもいい・・ とさえ、思ってしまう・・」
辛い表情を浮かべるルイソンの胸元に、アルベルトは猫のように何度も顔を擦り付けると彼の体温を感じる。
「アルベルト・・ ああ、俺もお前となら一緒に死んでも構わない・・ だけど仲間を巻き込みたくないんだ・・」
ルイソンの脳裏にルイソンを長として慕うマキシム達の姿が過ると唇を強く結んだ。そんなルイソンの頬を両手で優しく包むと、アルベルトは軽く唇を合わせる。
「君と居ると僕はヴァンパイアである事も、パウル卿である事も忘れられる・・ ただ幸せなんだ・・ それだけで十分。有難う」
アルベルトの儚い呟きにルイソンの心に不安が過ぎると、アルベルトの肩を抱き彼の形相を伺う。
「アルベルト、有難うなんて・・ まだ早いだろ。問題は山積みだぜ。でも俺達なら絶対に乗り越えられる。今度こそ一緒になれる。そう信じよう」
力強いルイソンの言葉に応えるようにアルベルトは何度も頷いた。
陽が昇り始める直前に屋敷に辿り着いたアルベルトは、身体に残るルイソンの匂いを抱きながら静かな足音で自室へと急いだ。
「今、ご帰宅ですか?」
今一番出会わしたくないモノに声を掛けられたアルベルトは、彼に染み着いたルイソンの匂いとキスマークが覚られないよう驚いた振りをして数歩下がると、ケビンとの距離をつくる。
「ケビンも今帰りかい?」
「あ、いえ、昨夜は満月だったので兄さんがライカンに襲われていないか心配で」
「そうだっただね。心配を掛けてすまない」
背筋を伸ばし平静を装うアルベルトは、言葉でケビンを労いながらも疲れた顔をしてしまう。
「あ、いえ、ごめんなさい。僕の方こそ兄さんを心配するなんて失礼でした」
ケビンは目線を落とすとアルベルトの足元を見た。
「昨夜はどこへ?」
「最初は母上の故郷まで足を延ばそうかと思ったけれど、満月だったしね。ケビンの言う通りライカンと鉢合わせても面倒だし、結局オルディアの郊外を見て回ったよ」
母親が故郷に持ち帰ったとされるパウル家に伝わる書物の在処を確認するため、近々アルテメに訪れようと考えていたアルベルトは安易にケビンに嘘が吐けた。
「アルテメに行くのだったら、僕もお供します。車で行けば昼間だって移動できるから」
アルベルトの言葉に疑う素振りも見せずに応じるケビンであったが、アルベルトは隙を見せぬように気構えてしまう。
「そうだったね。車という便利な乗り物がこの時代にはあったんだね。でもケビンには家庭があるのだし、何日もケビンを借りれないよ」
「そんな・・ クロエもヒューゴも大丈夫だよ・・」
「今日はもう休むとしよう。また後でね」
ケビンが何かを覚る前にその場から立ち去りたいアルベルトは、首を左右に揺らし疲労を滲ませる。
「お疲れの所、呼び止めてごめんなさい。じゃあ、お休みなさい」
「僕の事を気に掛けてくれて有難う。おやすみ」
アルベルトは優しい微笑みをケビンに残し、可能な限りユックリとした足取りで、ケビンに見送られながら自室に向う。
アルベルトの靴に付いた土を見つめるケビンは、苦い顔をすると拳を握り閉めた。
復活以来、殆ど睡眠が取れていなかったアルベルトだったが、絶頂感に達した余韻を抱きながら少しだけ眠りについた。
―夢―
丘の上に降り立つと愛おしい後ろ姿がそこにあり、アルベルトが声を掛けると一番欲しい微笑みが与えられる。
幸せに包まれたアルベルトは彼の胸に飛び込もうとするが、突然辺りを暗闇が包み頭の中を理解出来ない呪文が繰り返され、アルベルトは頭を抱え込むと目を閉じた。
すると、突然生暖かい液体が自分に降りかかり驚きとともに目を開けた先には、自分が刺した刃で血を吐くルイソンが微笑みながら立って居た。
「ルイソンっっ ・・・・はぁはぁはぁ」
アルベルトが飛び起きると視界には自分の部屋が飛び込んで来る。
「夢・・?」
ヴァンパイアは滅多に夢を見ない。そのため、アルベルトは不思議に思うのと同時にルイソンを刺した感覚が残る手を見つめた。
「まさか・・ 僕がルイソンを・・ そんな・・」
背筋に冷たい物が落ちると恐怖から両手で顔を覆った。
夢見の悪かったアルベルトは不安を抱えながら、無意識に秘密の場所に辿り着いていた。
昨夜ルイソンに抱かれた場所で横になると目を閉じ、ルイソンを感じながら芝生を手でなぞる。
【多分、俺は昔お前に惚れて、しつこく纏わりついたから、きっとお前に殺されたんだ】
昨夜ルイソンが告げた言葉が何度も脳に繰り返される。
【そんなはずがない・・ だって僕のこの想いは本物だ。きっと昔もそうだったはず】
温かいルイソンの唇を思い出すとアルベルトは自分の口元を指でそっと触れた。
「愛してる・・」
「俺もだよ・・ アルベルト」
満月でも新月でもない今宵、ルイソンが訪れるはずがないと考えていたアルベルトは、彼の登場に胸が震えると、瞬間移動でルイソンの胸に飛び込んだ。
「ルイソン・・ 無事で良かった」
「何だ?」
「怖い夢を見たんだ・・ だから」
不安を隠せない面持ちのアルベルトを強く抱き締めると、ルイソンはアルベルトの髪の匂いを何度も肺に吸い込む。
「俺は死なない。心配するな」
ルイソンの言霊が現実であるようにアルベルトは全細胞に信じ込ませた。
「君はどうしてここに?」
ルイソンは人差し指で頬を掻きながら恥ずかしそうにアルベルトを見つめる。
「なんとなくお前に会える気がして・・ 新月までなんて待てなかった」
アルベルトは自分の中に沸き立つ感情が真実だと確信すると、悪夢を心配する自分は消え去っていく。
「僕もだよ。僕も会いたかった」
ルイソンを見上げたアルベルトの唇がルイソンに奪われると辺りに舌が絡まる音が舞う。
「あのさ、アルベルトに見せたい物がある」
「えっ?」
小さなアルベルトの手が自然に大きくて暖かいルイソンの手に包まれると、ルイソンに連れられ秘密の場所の奥へと足を進ませる。
「ここは・・」
「覚えてるか?」
「いや・・でも、なんとなく・・」
またしても頭痛に襲われたアルベルトは頭に手を添えた。
「大丈夫か?」
「あ・・うん」
アルベルトが辿り着いた先には、古びた小さな小屋が建っており懐かしさが漂っている。
「中に入ろう」
「あ・・うん」
ルイソンの大きな背中を嬉しいそうに眺めながら、まるで幼少期に戻ったようにワクワクした気持ちを心に抱き、小屋へと足を踏み入れた。
「マットレスが古くなっていたから、新しい物に変えておいた」
小屋の中には大きなベッドと小さなテーブルに椅子、そしてコーヒーカップなど簡単な食器がキッチンに模した台に置いてあるだけだったが、アルベルトは心地よい空気に包まれると、沢山の笑い声が聞こえてくる気がした。
「素敵な場所だね・・ ここで僕達は愛し合っていたのかなぁ?」
「ああ、多分」
ルイソンは軽々とアルベルトを抱き上げベッドに連れていくと、そっと彼を横たわらせ首筋にキスをした。すると、待てないアルベルトはまたしても念力でルイソン共々に全裸になると、激しくルイソンの唇を求める。
頬を赤く染め口元が緩んだアルベルトが色っぽい姿に変わると、ルイソンは舌を這わせながらアルベルトの下方へと頭を下げていく。
「ルイソン・・ そんなところを舐めたら・・ あっっ」
「愛するモノのここを舐めたいのは俺達の習性だ・・」
アルベルトの蕾を優しく開花させるように、ルイソンの長い舌が更に奥へと押し込まれて行く。
「はぁっ・・んっ・・ああっ ダメだよ・・ もう頂戴・・ 早く・・ 君ので僕を埋めて・・」
アルベルトの尻を持ち上げアナル部位を責めるルイソンに腕を差し出すと、彼を求める欲情の声を絞り上げた。
ルイソンは口周りを手で拭いならが、凛々しく金色に輝く瞳でアルベルトを見つめると、開き始めたアルベルトの蕾にユックリと自身の中心部を侵入させていく。
「はぁぁぁっ、 もっと深く・・ ルイソン・・ あっ、あっ、イイっ、そこっ」
アルベルトは両腕を上げ手の平をベッドのヘッドボードに押しつけると、身体に押し込まれるルイソンの熱根を激しく受け止める。
「んっ・・っ、はぁっはぁっ、アルベルトの中は最高だ・・ 愛してる・・ はぁっはぁっ」
ルイソンの動きが加速度をつけるとベッドが軋む音もボリュームを上げ、甘い吐息と共に小屋中に奏でられる。
アルベルトの柔軟な身体をうつ伏せにさせたルイソンは、背後から彼を抱き締めアルベルトの官能部へ自分の竿を何度も押し当てると、アルベルトは快感の渦に巻き込まれていく。
「もう・・ っっ、ルイソン・・ 僕・・ イッちゃうっ・・ もうダメ・・ あああっっ・・ 頭が・・ 爆発するっっう・・」
アルベルトは目を赤く光らせ牙が顔を出すとルイソンの熱棒を自分の筒で強く締め付けた。
ルイソンも金色に目を輝かせ美しくよがるアルベルトのうなじに噛みつこうとする衝動を押し殺すと、変わりに強く自分の唇を押しあてる。そして、一瞬全筋肉が硬直すると絶頂に達し、アルベルトの壺を自分の温もりで埋めていく。
「ンッんんんっ、はぁはぁはぁ・・ 気持ち良かった・・ はぁはぁ・・」
「僕もだよ・・ 僕のお腹君ので一杯だ」
アルベルトが肩越しにキスを求めると、ルイソンが優しくそれに応えた。
【愛してる・・】
ルイソンとアルベルトの心に同時に浮かぶとベッドに身体をユックリと沈めた。
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