第3話 振り向けば変態!?(イリア視点)【一】

 副題【SとMは紙一重】



 私の名前はイリア。


 イリア·ターキーというのがフルネーム。


 ターキー公爵家の四女になります。


 幼い頃からお転婆だった私はお父様やお母様から見限られ、政略結婚の道具にもならんと嘆かれておりました。

 それでも学園に入学させてもらえ、卒業まで面倒を見ていただいた事には感謝しております。


 例え卒業と同時に家を勘当されたとしても……


 そんな私ですけど人並みに恋も致しました。学園に入学した十二歳の時です。二つ上の先輩でカブ·クワガーさんでした。初恋です。


 どこに惹かれたのかって?


 いつもオドオドしてらして、同級生の方たちにカバンを持てるだけ持たされていたり、また財布から少ない銀貨を脅されて卑屈な笑顔をしながら差し出しておられたあの姿は私の性癖に突き刺さりました。


 けれども私は花も恥じらう乙女でございます。私から告白することなど出来よう筈もありません。

 そのままズルズルと陰ながらカブ先輩を見守る日々が続き、先輩が学園を卒業される日となってしまいました。


 そこで私は初めて公爵家という立場を利用いたしました。カブ先輩の同級生の方に立場を利用して卒業後のカブ先輩の進路を聞き出したのでございます。

 するとカブ先輩もまた私と同じ立場であることがわかりました。

 伯爵家の三男であったカブ先輩はなけなしの勇気を振り絞られて探索者として生きていかれる事を選ばれたそうなのです。


 私は心にまだかまだかと焦りを持ちながら自分の学園卒業を待ちました。


 そして、無事に卒業し親から勘当された際に渡された金貨千五百枚のうち、五百枚を使用して家を購入し探索者登録をしたのでした。


 それからの私はとても努力致しました。私の予想通りカブ先輩は二年経ってもまだ六級のままでした。

 私は陰ながら時にはモンスターにヤられそうになるカブ先輩を助け、時にはカブ先輩には見つけられない薬草をソっとバレないようにカブ先輩の目の前に置きとお助けいたしました。

 その甲斐あってカブ先輩は目出度く五級へと上がられたのです。


 そして、私も探索者として登録して二年が過ぎ、二十歳となって三級へと上がりました。


 カブ先輩は探索者となられても学生の頃と何もお変わりありませんでした。オドオドとした態度、卑屈な笑顔、全てが私のどストライクのままです。


 私はそろそろカブ先輩に告白しなければと乙女心に思っていた時に不穏な話を小耳に挟んだのです。


 カブ先輩の同級生の方たちが組んでいる四級パーティー【疾風怒濤しっぷうどとう】がカブ先輩に嘘を吐き、ダンジョンの五階層へと連れて行き、その場に置き去りにしてしまおうと計画しているという話でした。

 その話をしていたのもカブ先輩の同級生で、二人組で活動されている【檸檬】という女性たちでした。


 その女性たちはカブ先輩に特別な感情などは持っておらず、そんな可哀想な事をせずともカブはそのうち自滅するだろうにと仰っておられました。

 私は詳しく話を聞く為にお二人にお茶を奢り、疾風怒濤の計画を教えていただきました。

 疾風怒濤の面々はどうやら同級生の方たちに自慢気に計画を話されていたようです。


 計画を知った私はまた陰ながらカブ先輩をお助けする為にソっと後をつけました。


 そして、そこで疾風怒濤すら予想していなかったイレギュラーが起こったのです。


 本来ならば十階層以降に出る筈の推奨討伐級、二級以上のゴブリンキングが五階層に現れたのです。


 疾風怒濤の面々はオロオロしているカブ先輩を囮にしてとっとと逃げていかれました。


 私もまだ三級です。本来であれば逃げなくてはと思いましたが、愛しのカブ先輩を見捨てる事など出来ないと心の中で葛藤しておりましたらカブ先輩がゴブリンキングに蹴られて瀕死になられたではありませんか!?


 私は居てもたってもいられずにゴブリンキングの前に飛び出しておりました。皆さんご存知のようにゴブリンキングは私たち人族の女性を苗床と見なしております。

 もしも私がゴブリンキングに敗れた場合は無惨にも操を破られてしまう事でしょう。けれども私はそうなった場合には自害する覚悟でした。愛しのカブ先輩と共にこの世を去るならば良いのではとその時は心の底から思ったのです。


「待ちなさい! あなたの相手は私よ!!」


 私はそう言ってカブ先輩にトドメを刺そうとしていたゴブリンキングの注意をひきました。


 私を見たゴブリンキングは先ほどまでのニヤニヤ笑いを更にイヤらしい笑いに変えて私に向かってきました。 

 私は得意の雷魔法を剣に纏いゴブリンキングと相対しました。


 最初は優勢だったのですが、決め手が決まらず、戦いが長引き私の魔力が心もとなくなるにつれ、ゴブリンキングの爪が私の防具を壊し、服を切り裂いていったのです。

 下着も露わになり、その下着すらも本当に大事な部分しか残ってない状態になった時に、カブ先輩が傷一つない状態で起き上がられたのです!


 そして、神が呼ぶとかナンチャラを言われてその衣服が手も触れられてないのに脱げていき、全裸となられたのでした。


 私は乙女の嗜みとして目を手で覆いました。シッカリとスキマを作って!


 ああ、何という凶暴な逸物いちもつでしょうか? あのオドオド、卑屈なカブ先輩に似つかわしくない逸物が私の目に飛び込んで参ります。

 そしてカブ先輩は更に叫びました。


「ヘーンタイッ! カブクワガーッ!!」


 その言葉と共にカブ先輩の頭には見たことがないツノが生えてきたのです。


 私はそのツノを見て何故かは分かりませんが懐かしさを覚えたのでした……

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