第二十七話 B級映画のキャラクターが観るものといえば
眠りに落ちる前に予想したとおり、今度飛ばされたのはシャーロットの回想シーンだった。アレックスの家でテレビショッピングを観ている、アレックスとシャーロットの後ろで目を覚ましてしまったのだ。監督は、アレックスとシャーロットの仲睦まじい様子を見せることで、アレックスを喪ったシャーロットの悲しみを強調したかったのだろうが、この監督にそんなまともな演出をする技量があるはずもない。
栞と無言で目を見交わし、
「あ、あの……」
思いきって二人の背中に声をかけた。
「うわあああっ!」
「きゃあああっ!」
二人は飛び上がらんばかりに驚いた。――当然だ。
「あ、あんたたち、どこから入ってきたんだ!?」
アレックスが、目を三角にし肩を怒らせて詰め寄ってきた。
「え、えーと……」
パラレルワールドから来たとか機械が暴走したとか言って、信じてもらえる雰囲気ではない。
「鈴鹿さん、ここは相手に質問する隙を与えないにかぎるわ。って、もう与えちゃってるけど……」
栞は小声で言ってすっくと立ち上がり、
「そんなことより、どうしてお二人はテレビショッピングを観てらっしゃるんですか? それも……失礼ですがこんな……うさんくさい商品のを……」
さもふしぎそうに尋ねた。
「えっ?」
アレックスもシャーロットも目をぱちくりさせる。
この番組で宣伝されているのは万能包丁だ。ぽっちゃりした白髪の高齢男性が、トマトやアボカドや塊肉をさくさくと切っている。
しまいにはスポンジやタオルやノートまで切りはじめた。間違いなくイカサマだろう。だいたいそんなもの、切ってどうするんだ。
「言われてみればどうして観てるんだろう……。包丁が欲しいわけでも、テレビショッピングが好きってわけでもないのに……」
「そうねぇ……」
アレックスとシャーロットは、メアリーの葬儀のあと倫子にあれこれ尋ねられたときのトーマスと同様、考えこんでしまった。
「お二人にも理由がわからないなら、別のものを観ましょう」
栞は会心の笑みを浮かべる。
「B級映画のキャラクターが観るものといえば、その映画のジャンルの古典的名作と相場が決まってます。つまり、ここではアニマルパニック映画かモンスター映画の古典的名作がベストっていうことですね。アレックスさん、動画配信サービスには入ってらっしゃいますか?」
「えーと、Jungle Primeには入ってるけど……」
栞の言うことがあまりにも意味不明なので、アレックスはかえって素直に従うことしかできないらしい。
「よかった。じゃあ、ジャンプラを開いていただけますか?」
「あ、ああ……」
アレックスはリモコンを操作し、テレビにJungle Primeのトップ画面を表示させた。
「ちょっと貸してくださいね」
栞はアレックスからリモコンを借り、まずホラー映画の一覧を、次にSF映画の一覧を表示させる。
「『吸血鬼ノスフェラトゥ』、一九三一年版『フランケンシュタイン』、『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』、一九三三年版『キング・コング』、『大アマゾンの半魚人』、一九五三年版『宇宙戦争』、『原子怪獣現わる』……どれがいいですか?」
「そ、そう言われても……」
「わ、私もホラー映画は苦手だから……」
二人がたじろぐばかりで答えなかったので、
「そうですか……。じゃあ鈴鹿さんは?」
倫子にお鉢が回ってきた。
「えっ?」
恥ずかしながら「宇宙戦争」しか観たことがない。だが、宇宙人をモンスターと呼ぶのは微妙な気がした。
「小山内さんが選べばいいと思うよ。この中でいちばんそういう映画が好きなのは、絶対小山内さんだから……」
「いいの? じゃあ、エド・ウッドの『怪物の花嫁』にするわ」
えっ、それ、さっきの選択肢になかったよね? しかもエド・ウッドの作品ってことは、名前のほうの名作じゃなくて迷うほうの迷作なんじゃ……?
倫子の困惑をよそに、栞は「怪物の花嫁」を再生して見入りはじめた。
「お、小山内さん!」
あわてて呼びかけると、
「あっ……ごめんなさい」
栞は我に返って頬を赤らめた。
「次は……やっぱり飲み物と食べ物よね」
テレビとソファのあいだに置かれているローテーブルを見て続ける。
「うん……」
倫子もしみじみとうなずいた。
ローテーブルには、グラスとパン皿が二つずつ置かれていた。だが、飲み物や食べ物が入っていた形跡はどこにもない。
「何か飲むものとつまむもの、ありますか? あったら持ってきていただきたいんですけど……」
栞は、ぽかんとテレビを見つめているアレックスとシャーロットに尋ねた。
「えっ? あ、ああ……」
催眠術にかかったように、アレックスがキッチンからビールとポップコーンとポテトチップスを持ってくる。
「ありがとうございます」
栞はビールをグラスに注ぎ、ポップコーンとポテトチップスをパン皿にあけた。
「これでいいわ。さぁどうぞ」
栞がてのひらを上に向けて差し出すと、二人はおずおずとグラスを持ってビールをすする。
「ポップコーンとポテトチップスもご遠慮なく」
「ご遠慮なくって、おれのなんだけど……」
ツッコミながらも、アレックスはポップコーンをつまんで口に放りこんだ。ポリポリという音が響く中、シャーロットも恋人のあとに続く。アレックスがやけになったようにポップコーンを貪りはじめたころ、窓から青い光が差しこんできて、倫子と栞は眠りに落ちたのだった。
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