第七話 「ぼよ~ん」って文字が浮かんでたとこ

 その日の昼食のとき、


「りんちゃん、ついに小山内さんとLIME交換したんだねぇ」


 紅葉がにやにやして言った。


「ど、どうしてわかったの?」


「そりゃ、スマホにスマホをかざしてたら、誰だってLIME交換してるってわかるよ」


「あっ、そっか……」


 そんな簡単なことに気づかなかった自分が恥ずかしい。


「でも、それ見てなくてもわかったかも。りんちゃん、授業のあいだじゅう口元がゆるんでたもん」


「ほ、本当?」


「ホントホント。マンガだったらぼよ~んって文字が浮かんでたとこ」


「『ぽわ~ん』とかならともかく、『ぼよ~ん』は違うでしょ』


 ツッコミながらも、倫子は別の種類の恥ずかしさに襲われた。


「りんちゃん、そんなに小山内さんのことが好きなら、いっそ付き合っちゃえば?」


「えっ……!?」


 突然の爆弾発言に驚き、思わずまじまじと紅葉を見つめた。紅葉はあわててパタパタと手を振り、


「ごめんごめん、冗談だよ。りんちゃんがあんまり嬉しそうだったから、ちょっとからかってみたくなっただけ」


 すまなそうに笑う。


「だよね……」


 ほっとして笑い返しながらも、一抹の淋しさを覚えた。いちばん仲の良い友達である紅葉にも、自分の恋愛のことを話せないなんて――。


 昼食が終わって紅葉と別れても、その淋しさは小さなとげのように倫子の胸に突き刺さっていた。

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