第五話 サメの時代が来ている!?
その翌週からは、日本で配給されたマーカス・ポロニア監督の作品は全て貸してしまったからと、栞はほかの監督が撮ったZ級サメ映画を貸してくれるようになった。
呪われたタロットカードで幽霊ザメが召喚される「タロット・シャーク 冥界サメ戦争」。
悪魔ザメに取り憑かれた女性にエクソシストが悪魔祓いを試みる「デーモンシャーク」。
家の中でサメが
サメがジャガイモ畑を泳ぎ回り、邪教集団がサメの女神に生贄を捧げる「シャーポテト! おいも鮫の祟り」。
「どうして、Z級映画ってサメ映画ばっかりなの……?」
ある日、倫子は栞に尋ねてみた。
「サメ映画ばっかりっていうわけじゃないけど、サメ映画が多いのはたしかね。特に最近は……。JHKの『ブラックサイドミステリー』のサメ特集回によると、サメはかたちも動きもシンプルだからCGで描きやすくて、低予算で映画を作ってるひとたちがよく使うようになったらしいの。そこからサメ映画っていうものがひとつのジャンルになったのね。どんなに荒唐無稽で馬鹿馬鹿しいこともできる、自由なジャンルに……」
質問の答えに納得する気持ちよりも、公共放送であるJHKの番組にサメ特集回なんていうものがあったことに驚く気持ちのほうが強かった。まさか本当にサメの時代が来ているのだろうか――。
「本当は、サメ映画以外のZ級映画のDVDも欲しいの。でもお金には限りがあるから……。サメ映画のグッズを買うのと、エンドロールに名前を載せてもらうのと、上映会とかトークイベントに行くのと、クラファンに出資するのは譲れないし……」
栞は心底残念そうだ。
「じゃ、じゃあ、どうして小山内さんはそんなにサメ映画が好きなの?」
「ええと……もともとわたし、サメっていう生き物自体が好きなの。小さいころからしょっちゅう水族館に連れてってもらって、サメの水槽の前に張りついてたのよ。そのころは顔つきとかかたちがかっこいいって思ってただけだったけど、体のしくみとか生態を知るにつれて、サメの全てが好きになっていったわ。あとは、初めて観たZ級映画がサメ映画だったのも大きいと思う」
「そうだったんだ。小山内さんがいちばん好きなサメって何なの?」
「ハンドルネームのもとにもなってるワニグチツノザメよ。とっても綺麗で愛嬌があって、八十年代に発見されたばかりだからまだまだ謎が多いの」
栞はいそいそとスマホを取り出し、ワニグチツノザメの画像を見せてくれた。
細長い真っ黒な体、ぎょろりとした青い目、大きく裂けた口、長く伸びたあご、鋭い歯。
――どう見ても不気味だった。
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