第四話 竹食う虫も好き好き
栞は、翌週には遺伝子操作されて水陸両生になったサメが孤島を恐怖に陥れる「アイランドシャーク」の、翌々週にはプレデター(とは似ても似つかぬしょぼいモンスター)とサメが戦わない「プレデター VS ジョーズ」の、翌々々週には狼男がサメを使役する「ウルフマンシャーク」のDVDを貸してくれた。
どれもが「ジキルハイドシャーク」と同程度かそれ以下のクオリティだったが、倫子はDVDを返すときにはいつも、どうにかこうにかひねり出したポジティブな感想を伝えた。
そのころには紅葉も、倫子と栞が親しくなったことに気づいていて、
「最近急に小山内さんとの距離が縮まったみたいじゃん。やっぱ映画の話で意気投合したの?」
昼食のときに尋ねてきた。
「うん、まぁね……」
「何だか歯切れが悪いけど……まさか、小山内さんってああ見えて、ひとに言えないような映画が好きだとか!?」
紅葉は、両のこめかみを押さえる「ガーン」のジェスチャーをした。
一瞬、栞が大の Z級サメ映画ファンだということを紅葉に明かしてもいいのか迷ったが、栞の言動からして自分の趣味を秘密にしているとはとても思えないので、差し支えないだろう。
「たしかにちょっと変わった映画だとは思うけど、紅葉が想像してるようなのじゃないよ……Z級サメ映画なんだ」
「ぜっときゅうさめえいが? な、何それ?」
「説明が難しいんだけど……サメ映画はわかるよね?」
「えーと……『ジョーズ』とか?」
「うん。あんなふうに、サメが人間を襲ってパニックが起こる映画。Z級サメ映画っていうのは……その中でもいちばんランクが低い映画かな」
「いちばんランクが低い映画? どうしてわざわざそんな映画を……って、ごめん」
紅葉があわてて口を押さえたので、
「いや、当然の疑問だと思うよ」
倫子は笑って手を横に振った。
「その……A級とかB級の映画にはない味があるんだよ」
「ふ、ふーん……まぁ、『竹食う虫も好き好き』っていうもんね!」
「それをいうなら『蓼食う虫も好き好き』だよ」
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