23-3
転ばないように、意識しながら歩く。
「なあ、ソニア」
「はい」
「ぼくの歩き方、変じゃないか?」
「特には…」
「そうか…」
「どうかしました?」
ソニアは不思議そうに、ぼくを見る。
「うむ。翼がなくなってバランスが取れにくくて…。多目的室に来る前、転びそうなった。エレナが支えてくれたが…」
「それで、エレナ隊長の肩を掴んでいたんですね」
「ああ、そうなんだ」
「今はどうなんです?」
「普通に歩いているんだが、ぎこちなくなってる気がして」
下手くそな操り人形みたいになっていないかと。
「普通だと思いますけど、わたしの肩を使ってもいいですよ」
「ありがとう、ソニア。でも、やめておくよ」
「大丈夫ですか?」
「ああ」
いい加減、頼るのはよそう。
赤ん坊じゃないんだ。ヴァネッサには赤ん坊呼ばわりされたが。
階段を恐る恐る降りていく。手すりがあってよかった。
「おはようございます。ライア隊長」
「おはよう。オーベル」
彼女は、特にぼくに対して言わず笑顔で挨拶する。
オーベルはメイド達とともに二階へと上がって行った。
「ちょっと医務室によっていく」
「はい」
階段下で、ソニアと別れ医務室へ向かう。
ノックしてから中へ入った。
「おはようございます」
「おう、ライアか。どうだ調子は?」
フリッツ先生は笑顔で迎えてくれた。
ミラルド先生とシエラとも挨拶を交わす。
「上々です。痛みもありませんし」
「うむ。シエラから、翼が痛いと聞いているが?」
「はい。ずっと痛いわけではないので…仕方がない事なのかなと」
「こればかりはな。医者にどうすることもできん」
「はい」
「傷を見せてくれ」
先生に背を向け丸椅子に座り、シャツを脱ぐ。
「大丈夫だな」
「はい」
「よし、いいぞ」
シャツを着て正面を向く。
「突っ張る感じは、時期になくなる」
「はい」
先生は書類に、色々書き込む。
「他に不調な所はないか?」
「不調…」
「なんでもいい」
「ふらつくというか、転びそうなる事が…」
「それは運動不足だ」
先生はぼくの膝を叩く。
「翼がなくったからかと」
「当然、それもある。だが、体は何もしなければ弱っていく」
「いうほど体力は落ちてるとは思えません」
「どうかな…」
意味深な笑顔を見せる先生。
剣は重く感じたが、すぐに慣れるだろうと、この時は思っていた。
「まあ、なんにせよ、大事にならなくてよかった」
「先生のおかげです」
「お前さんの希望通りにしただけだよ」
「ありがとうございます」
感謝ではなく、謝罪すべきだろうか。
「ところで、ぼくの翼はどこに?」
「わたしの部屋にある。見るか?」
「いいえ、結構です」
見てしまったら、翼がない事を受け入れ始めた気持ちが薄れそうだ。
どうやったって、翼は返って来ないけど。
「お前がよければ、翼を解剖したいんだが…」
「先生!失礼ですよ!」
シエラが先生に抗議する。
「ぼく自身は構いません」
「本人がいいっと言ってるが…」
「え?でも…。大事に取って置くべきです」
「シエラ。君の気遣いには感謝するが、大事に取っておいても意味はない。羽根は売る事はできないし。先生は研究用に解剖したいのでしょう?」
「ああ。そうだ。翼人族に関する資料は少ない。解剖できれば、貴重な資料となる」
「それなら、なおの事。ただしまっておくよりも有意義と言える」
「先生は興味本位で、解剖したいだけなんですよ」
シエラは強く抗議し、先生は頭を抱え、ため息を吐く。
「わかっとらんなぁ…」
「わかりませんし、わかりたくもありません!やめてください!」
「シエラ、落ち着いてくれ。ぼくは構わないから…」
と言っても彼女の態度が変わらない。
「医者というは研究も兼ねてしていくものなのだ。ミラルド、お前はわかってるな?」
「はい、先生」
「ミラルド先生まで…嘘でしょ…」
シエラは肩を落とす。
「正直に言いますと、気持ち半分はライア隊長に申し訳ないと…思っています」
ミラルド先生は、そう言って小さく頭を下げる。
「お気になさらず」
ぼくの翼が解剖される事が、同胞の助けになるかもしれない。
翼をなくし、もう翼人族ではないぼくにできる同胞への唯一の貢献となろう。
シエラの抗議は届かず、翼は解剖される事になった。
同席を誘われたが、丁重にお断りをした
医務室を出る。
「ありがとうございました」
「ああ。調子が悪くなったら、いつでも来い。ささいな事でもいいからな」
「はい」
一応、先生のお墨付きはもらえたか。
廊下にはソニアが待っていた。
彼女とともに剣兵隊の兵舎と向かう。
「待ってくれていたのか?」
「はい。どうでした?先生から何か言われました?」
「特に何も。大丈夫だそうだ」
「それはよかったです」
「転びそうになるのは、運動不足と言われたよ」
「あーなるほど…翼は関係ない?」
「それは当然で。それに足してという事だ」
「もう引きこもる事はできませんね」
「だな。もっと早く出るべきった。冬眠しすぎた」
ぼくの言葉にソニアが笑う。
「ふふっ。冬眠って…まだ秋ですよ」
「なら準備しようかな」
「なんで…」
彼女はさらに笑った。
「ライア隊長から、冗談を聞けるとは思いませんでした」
「ぼくらしくないな。今日は変だ」
兵舎前には兵士達が集まっていた。と言っても、半数以上が領民の家々の建築に回っている。
ぼくに気づき皆が、ぼくに視線を向ける。
剣兵隊だけではない。他の隊の兵士も同様。
哀れみか、それとも呆れか。
「全員、整列しろ!」
バニングが号令をかける。
隊員達が整列のため走り出す。ソニアもそれに加わった。
ぼくは整列中の脇を抜け、隊員達の正面へと移動。
移動が終わり、隊員達の前に立った頃には整列が終わる。
これはいつもの光景だ。だが、久し振りに見る。
「ライア隊長。おかえりなさい」
そして敬礼
「ああ。ただいま」
ぼくも頷き返した。
おかえりなさい、か…。
隊員達は粘り強く、ぼくを待っていてくれた。
「あーそうだな.…とりあえず、復帰が遅くなってしまって申し訳ない」
「別にいいんですよ」
「事が事ですから」
「うむ…」
「体のほうはもう大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ。痛みはもうない」
「そいつはよかった」
隊員達から安堵の声が漏れる。
「休んでいた分体力が少し減ってしまった。懸念といえばそれくらいか」
「そんなのすぐに戻りますよ」
「ああ」
「でも、無理はしないでください」
「無論だ」
訓練はバニングの指示で始まった。
彼だけが指示するだけでなく、自主的にやってる者もいる。
これもいつもの光景だ。
模擬剣がぶつかる音。それに気合いの入った声…。
「レド!攻めが単調だ。もう少し…あ、いや、すまない…」
何をやってんだ、ぼくは…。
指導をする立場ではないだろうに。
「はい。気をつけます」
「ああ…」
訓練が少し中断してしまった。
「はあ…」
「どうしたんです?大丈夫ですか?」
「バニング…。つい口に出てしまった。出す気はなかったし、出すべきではないと思っていたんだが…」
「言っても構いませんよ。ライア隊長の指摘は間違っていません」
「かもしれないが、失態を犯ししたぼくは言う立場ではない」
「そんな事は…」
バニング以外にも気にするなと言われたが、ぼくはもう何も言わなかった。
午前中は、ただ訓練を見て過ごす。
そして、昼食。
「ぼくが居なくてもどうにかなるものだな」
「いるといないとじゃ、全然違うけどね」
ヴァネッサは、昼食を食べながらそう話す。
「今日は、昨日までと違って気合いが入っていたよ」
「そう…なのか?」
「うん。あたし、ときどき剣兵隊のほうに顔出してけど、あそこまではなかった」
「そうか」
「やっぱり、うまい奴に見てもらいたいんじゃない?」
「もう翼人族ですならないぼくに?」
「これまで経験があるでしょ。先日のは別にして。失態だって戒めとして後輩に伝えるのも、上の仕事だよ。ねっ?、エレナ」
ヴァネッサはエレナに話を振る。
「ヴァネッサが言ってる事は間違っていない」
話を振られたエレナは食事の手を止めた。
「ライア。私も、自分を指導者としては、不適格だと思っている。でも、自分の知識を伝えるなければ、無駄になってしまう」
エレナは静かに話を続ける。
Copyright©2020-橘 シン
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