21-3


 棟梁とともに、多目的室へ移動する。


「中々、いい館じぇねえか」


 棟梁は階段を登りながらそう話す。


「大分、ガタがきてるけどね」


 ヴァネッサの言う通り少しづつだが、修理が必要な所が増えてきてる。

 館が今すぐ倒壊するわけじゃないから後回しだ。


 まずは領民に家を再建しなければいけない。



 トムさん達領民を何名か呼び、再建計画を話し合う。


 家々の配置は、元の配置を基本としつつ、領民の希望を取り入れる。


「集会所みたいのが欲しいんです」

「大きさ的には領民全員が集まれるくらいの?」

「全員でもなくていいですが、最低でも半数は入れると…」


 今までは何かを決める時、外で集まって話し合っていた。

 それでも支障ないが、やはり落ち着ける屋内がいい。


「凝ったな構造じゃなけりゃ、すぐにできるぜ」

「そうですか」

「どのへんに作ります?」


 集会所の配置が決められる。


 

「棟梁。シュナイツの冬は早いんだ。雪深いわけじゃないけど…出来るだけ冬なる前に家を建ててほしい。どうですか?」

「うーん…そいつは厳しいな…」

「問題は人手ですね」


 トムさん達が、当然手伝うと手を挙げる。


「手の空いてる兵士も出すよ。警備も兼ねてね」


 ヴァネッサがそう話す。


「手は足りそうですね。棟梁」

「おう。まずは、木材の調達だな」

「木材も、問題ないでしょう」


 シュナイツは森林に囲まている。

 十分な量の木材を確保できる。


「伐採作業を私達魔法士に任せていただければ、時間効率が上がると思います」


 エレナが手を挙げる、

 

「そいつはありがてえ」

「伐採は面倒くさいし、慣れてないと事故になるから、助かる」


 魔法士隊全員で担当することになった。

 

「棟梁。僕も手伝います。ブランクはありますが」

「何言ってんだ。おめえは、ダメだ」

「え?」


 棟梁は、意外にも怒り顔だ。


「でも、僕は経験者だし道具もある」

「あんたさ、自分が領主だって忘れてない?」

「忘れてないけど?」


 ヴァネッサが大きくため息を吐く。


「あんたが外に出たら護衛が必要でしょ?」

「あー…うん…」

 

 そうだよね…。


「おめえは、領主なんだから、ドンと構えてればいいんだよ」

「それはそうなんですが…」

「何も心配する事はねえ。おれ達に任せておけ」

「心配なんてしてませんよ。ただ…」


 ただ、棟梁の手伝いをしたかった。


「すみません…」

「謝るな。おめえが何かしたいって気持ちは伝わった。おれ達に任せろ、な?」


 棟梁は僕に肩に手を乗せる。その手は暖かかった。

 


「それからな。おれはシュナイツに住む事にしたから」

「はい?」


 意外な言葉が棟梁の口から出て思考停止してしまう。


「どうしてまた…」

「別にどうもしねえよ。そう決めただけだ」

「お店はどうするんです?」

「アムズに任せてるから、大丈夫だよ」

「そうですか…」


 アムズさんは、笑顔で親指を立てている。


 急な話で、わけがわからなかった。


 棟梁自身が決めた事だし、アムズさん達も反対していないようだから問題ないみたいだけど…。



 僕の眼の前で、領民の家々の建築計画が煮詰めらていく。


 僕がいなくても、支障はないだろう。


 要するに居場所がないわけだが…。



「ウィル、ちょっといいか?」


 アムズさんが話しかけてきた。


「はい」


 彼は多目的室の出入り口まで向かう。その後をついて行った。


「なんですか?」

「棟梁の事なんだけさ」

「はい」

「ちょっと、面食らってるだろ?」

「ええ。どうして棟梁は…」

「うん。今から話す事は誰にもいうな」


 アムズは小声でそう話す。


「棟梁には息子さんがいたんだ…」


 

 棟梁には、息子がいた。それは過去の話。


 息子さんは生まれた時から病弱で、十代半ばで亡くなってしまった。



「お前が、その息子さんに似てるんだと」

「え?…。そうなんですか?」

「わからない。俺は会ったことないんだ。先輩達がいうには、なんとなくらしい」 


 知らなかった…。


 結婚したとは聞いてはいた。すぐに別れたと、棟梁は話していたけど。


「棟梁は息子に何できなかったと悔やんでいてさ。似てるお前を息子さんと重ねて見て、息子さんに何もできなかった代わりに、お前に何かできないかって、そう考えているんだ。棟梁は」

「棟梁…」


 ヴァネッサ達と話し合っている棟梁の顔を生き生きとしてる。

 悲しい過去なんかなかったように。


 そういえば、リカシィでミャンが、僕と棟梁が親子みたいって言って泣いていた事があった。

 そういう事だったのか。


「大工仕事頼まれて、去り際に道具くれたのも…」

「ああ。そういう事だろうな。普通はしない。リカシィに店だしたのも、お前がよく来るって話を聞いたからだし」

「そうだったんですか…」


 なるほど…そういう事なら全て合点がいく。


「お前にとっては、迷惑な話かもしれないが…」

「そんな事はありませんよ」


 そんな事は絶対にない!


「そう言ってくれると、棟梁も喜ぶ。棟梁には絶対に、言うなよ」

「はい」


 

「アムズ!何やってんだ!」

「はい!」

「大体できあったぞ。外行って、確認して来い!」

「はいはい…」


 アムズさんは、苦笑いを浮かべつつ返事をする。


「返事は一回で、いいんだよ」


 アムズさんは、後輩と領民達をともに多目的室を出ていった。


 

 僕は棟梁に近づき、棟梁に右手を差し出す。


「なんだよ…」 


 棟梁も右手を差し出し、僕は両手で握手する。


「ありがとうございます」


 僕は棟梁の目をしっかり見る。


「改まってどうしたよ?」

「棟梁には世話になるばかりで…いつか恩返ししたいなって」


 棟梁が僕の肩を叩く。


「恩返しなんて、いいんだよ。おれが勝手にやってるだけなんだから」

「わかってます」

「おめえの為なら…おれは…」


 彼は言葉を切り、言い淀む


「いや、なんでねえ…。落ちついたらよ。一緒に酒、飲もうや、な?」

「はい!」


 

 早速、翌日から、領民の住宅建築が始まった。


「おめえら!わかってるな!」

「へい!」

「時間が迫ってるが、いつもようにきっちり仕事をこなす。これが大事だ。そうすりゃ結果がついてくる。おめえらの根性見せてみろ」

「へい!」

「よおし。取り掛かれえ!」


 棟梁の号令で始まる。


 木の伐採から、加工、基礎固め、柱、梁、屋根。

 どんどん出来上がったいく。


 それを館の屋上から眺める。ほぼ日課となる。

 

「ヴァネッサ」

「なんだい?」

「竜まで借り出す必要あった?」


 ガルドの竜が、丸太を引っ張っている。


「本人がいいって言ってるし、良いんじゃない?あれもあれで竜の訓練になる。ガルドの竜はパワー系だし」


 ガルド以外の竜は参加してしない。


 隊長であるヴァネッサが言うなら、問題ないんだろう。


 作業風景を見てると、自分もやりたくなってくるのであまり長い時間は見ないようにしてる。


「ヴァネッサは参加しないの?」

「あたしが出ていって何をしろっての?」

「何って…柱立てたりとか、床板並べたり」


 そばで聞いていた見張り当番の兵士が笑う。


「あははっ。ヴァネッサら隊長が大工仕事とか、似合わないっすよ」

「笑いすぎだよ」

「痛って!」


 彼女は兵士の後頭部を平手打ちする。


「似合う似合わないの問題じゃない」

「どういう問題?」

「向こうに向こうの指揮系統があるでしょ?あたしが参加したら混乱する」

「そうかな…」

「部下はあたしに確認や指示を聞いてくる。あたしは勝手がわからない。棟梁に聞く。それを部下に伝える。手間増えるし、効率下がってるでしょ」

「なるほど」

「現場がわかってる人に任せるのが一番。これに尽きる」


 それは言えてる。


 家の建築関しては、棟梁に任せておけば間違いない。それは揺るぎない。


 

 出来上がった家は好評だった。 


 前の家よりも広く設計し、できるだけ使い勝手いいように希望を取り入れる。

 棟梁達大工の経験も生きている。


 家財道具も大工達が作ってくれた。


「家財道具関しちゃ、専門じゃねえから簡単な物だけどな」


 棟梁はそういうけど、前に使っていた物も、高級品ではないから領民達は気にしていない。

 むしろ喜んでいる。


 冬前には、なんとか完成させる事ができた。


「突貫でやった割にはできは良い」

「流石です。棟梁」

「あったりまえよ!」


 僕に褒め言葉に笑いながら背中を叩く。


 

 シュナイツの再建、発展はまだ始まったばかりだ。

 だけど、領民の家が出来始めた事で、弾みついた気がする。


 


「あの後、棟梁と彼の息子さんについて話した事があるんだ」

「棟梁は怒らずに話してくれた」

「彼は胸のつかえが下りたぜって…」

「今まで無理をしてきたのかもしれない」

「それ以降は、棟梁の雰囲気が変わった気がする」

「なんて言えばいいのかな。柔らかくなった感じ。僕にだけじゃないよ。お弟子さんに対しても厳しさが減って優しくなった。そう聞いてる」


「ウィル様。ガーリン様がお見えです」


「よお、ウィル。増築の件、聞きに来たぜ」


「棟梁。わざわざ、ありがとうございます」


「いいってことよ。おめえは忙しいだろうだしな」


「はい」


「今日は何やってた?」


「取材対応ですね」


「取材?」


「はい。シュナイツの事を調べてるそうで」


「へえ」


「棟梁の事も話してあるんですよ」


「おれは、それほどシュナイツには関係してねえだろ」


「そんな事ありませんよ」


「そうか?」


「優しくていい大工だと話しておきました」


「やめろよ…鬼の棟梁で通してんだからよ…イメージぶち壊しじゃねえか」


「はははっ。わかりました」

「増築の話、しましょうか?」


「おう。取材はもういいのか?」


「いえ。まだ終わってませんが、こっちの都合に合わせてくれるので、大丈夫です」


「そうか。じゃあ始めるか」




エピソード21  終わり

Copyright(C)2020-橘 シン

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