21-2
ライノに、自分勝手な思いで作ったペンダントを渡した翌日。
昼食を食べ終え、執務室で考え事をしていた。
シュナイツの今、それから将来。
補助金なしでどうやって運営していけばいいか。
普段から考えている事なんだけど、中々いいアイデアが思い浮かばない。
「参ったな…」
鉱山資源等があるわけでもないシュナイツに稼ぐ手段はないものか。
二番煎じではなく、シュナイツでしかできない物を作り、売る。
何かないかな…。
そう考えながらマイヤーさん入れてくれた紅茶を一口飲む。
「失礼します!」
兵士が一人やって来る。
「どうかした?」
「ウィル様様に会いたいと、大工だと名乗る者達が来てまして…」
「大工!?」
僕は思わず立ち上がった。
棟梁達だ!。間違いない。
「敷地に入れて構わないよ」
そう言いながら執務室を出て、一階へ向かう。
「はい。入れたのはいいんですが…」
兵士はなぜか言いよどむ。
一階へ降りると、外が騒がしい声が聞こえてくる。
「なんだ?」
北側のドアと開ける。
外では大工達の兵士がこぜり合いとなっていた。
「おれはウィルの知り合いだ!怪しいもんじゃねえって!」
「わかったから!ここで待っててくれ!」
「わかってんなら、離せ!おれはウィルに会いに来たんだ!おめえらじゃねえ!」
「棟梁、落ちついて…」
弟子のアムズさんが、棟梁を抑えている。
「おれは落ちついているっての!さっさと通せよ!馬鹿野郎!」
「勝手に入るなよ!」
「だから!おれはウィルの知り合いだってつってんじゃねえか!ふざけんな!」
何やってんだ…。
大工十数名と兵士達が、入り乱れてる。
「みんな!落ちついてくれ!頼むから!」
「あんたら、静かにしな!」
ヴァネッサの声さえ届かない。
「ウィル様、耳を塞いで下を向いていてください」
「え?」
エレナが僕を肩を掴む。
「お願いします」
「わかった…」
彼女に言われた通り、両耳を塞ぎ下を向いた。
その瞬間、大きな音(耳を塞いていても分かる)と一瞬の閃光が、あたりを照らす。
エレナに肩を軽く叩かれ、顔を上げる。
彼女は頷いていた。
耳から手を放す。
騒然としていたあたりは静まり返り、みんなが僕を…いや、エレナを驚きの表情で見ていた。
「ウィル様、どうぞ」
「あ、ああ…。ありがとう」
「みんな!そのまま、落ちついてくれ。話がある」
エレナから僕に視線が移る。
「よお!ウィル!おめえ…」
「棟梁、ごめん!。先に話をさせてください!」
「お、おう…」
棟梁は驚き戸惑っていたが、僕は話を続けた。
「まず一つ。兵士達へ。棟梁達は、僕の知り合いだ。悪い人じゃない。僕が保証する」
「だから、さっきからおれは…」
「棟梁、ウィルの話は終わってませんから、黙っててください」
「おう…そうだな」
アムズさんが、僕に頷く。
「事前に大工達が来る事を伝えておくべきだった。混乱を招いてたのは僕の責任だ。申し訳ない」
兵士はお互いを見つつ、納得いったのか険悪な雰囲気が少しづつ消えていく。
「次に、棟梁!」
「おう」
「棟梁への手紙にも書いた通り、シュナイツは賊に襲撃されて、それからまだ日が経っていないんだ。また、襲撃があるかもしれないと、みんな疑心暗鬼になっている。棟梁を疑ったのはそういう理由からなんだ。さっきも言った通り、僕の不備でこうなってしまいました。申し訳ありません」
「そういう事なら…。全部、おめえのせいってわけじゃねえって…おれも大人げねえことしちまった。わりいな…」
棟梁は小さく頭を下げる。
「俺たちは、ウィルの助けてくれって手紙で、ここに来たんだ」
「家を建ててくれってよ。ウィルの頼みを断るわけにはいかねえってんで、急いで来たんだ」
「そういう事だから、邪険しないでくれ…」
アムズさんはそう言って近くの兵士に右手を差し出した。
兵士は少しため息を吐きつつ、アムズさんと握手をする。
これをきっかけに兵士と棟梁達は和解し、混乱は収まる
兵士は持ち場に戻り、やっと棟梁と再会の挨拶をする事ができた。
「棟梁、お久しぶりです」
「おう。おめえ、怪我はないみてえだな」
「はい」
「そいつは良かった…」
「ヴァネッサや兵士達が頑張ってくれたんで」
ヴァネッサが棟梁に挨拶する。
「竜騎士のねえちゃんか」
「どうも」
主要な者達が集まり、自己紹介し合う。
「ん?お嬢ちゃんはどうした?」
「お嬢ちゃん?」
「リカシィでおめえと一緒だった」
「あー…。リアンは部屋で休んでいます」
「怪我でもしたのか?」
棟梁が心配そうに訊いてくる。
「いや、怪我じゃないんです。なんていうか…襲撃があって心労で…」
「そうかい…」
「元気になりしだい、棟梁に挨拶しますから」
「いやいや!おれに挨拶なんかしなくていいから、休んでてくれ」
「ありがとうございます」
「大変だったな、ウィル」
「アムズさん、お久しぶりです」
彼と握手をした。
「リカシィで竜騎士の集団を見たが、関係あるのか?」
「はい。六番隊助けてもらいまして…」
「へえ」
「本来なら、不可能らしいですが、ヴァネッサが要請を」
「同じ竜騎士だからってだけさ。あたしが竜騎士じゃなかったら無理だったよ」
彼女はそういうけど、彼女が竜騎士であることの証明のような事だったと思う。
「棟梁。到着ばかりだけど、手紙に書いた通り仕事を依頼したい」
「あんた…久しぶりに会うんだから、もう少し話したら?」
ヴァネッサが呆れるように話す。
「話相手が欲しくて呼んだじゃないんだよ。ヴァネッサだってわかってるだろう?」
「わかってるよ。わかってるけど、少しぐらいなら立ち話したって怒られないって」
「ようようご両人。ちょっと待てや」
棟梁が、少し喧嘩気味の僕とヴァネッサの間に割って入る。
「ねえちゃん。気遣いしてくれるのは嬉しいが、ウィルは言う通りおれ達は仕事依頼されて来たんだ。まずは、仕事の話をしようや」
「棟梁がそう言うならいいけど…」
「話なんざ、いつでもできる。落ちついてから、ゆっくり話そうや。なあ、ウィル」
「はい」
「焦る事はねえよ」
棟梁は笑顔で、僕のヴァネッサの肩を叩く。
「焦るなって、棟梁がいいます?」
アムズさんと弟子達が、笑ってる。
「ウィル、聞いてくれよ。棟梁は何も持たずに、シュナイツに行こうとしたんだぜ」
「え?」
「うるせえな…」
僕の手紙を呼んだ棟梁は慌てふためき、身一つでシュナイツに行こうとしたらしい。
「ウィルが大変だってんだ!」
「わかってますよ。だから、準備してからって…」
「そんな時間はねえんだよ。早く行かねえと」
「大工道具も持たずにですか。引き継ぎもしないと」
「大工が大工道具持たないってのはね…」
「反省してるって…」
「竜騎士が、竜に留守番させるもんだよ」
「…」
ヴァネッサの言葉に棟梁は、バツが悪そうに頭を掻く。
棟梁がそれだけ気にかけてくれている証拠だろうし、やる気十分ということだ。
僕はすごく嬉しかった。
Copyright(C)2020-橘 シン
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