第二十一話

「ついに来たか……」


 寮の部屋で、俺はカレンダーを睨みつつ呟いた。

 今日の日付は七月八日。リンと密会の約束をしている日だ。


 俺はふと同居している三人に目を向けた。


 起きてはいるが布団にくるまっている一号、相変わらず読書に没頭している二号、そして土魔法で先日作っていたものと同じ人形を制作しているライラ。


 これだけ暇をしているのにも関わらず、家事の一つもしてくれない。


 俺はため息を吐きながらその場で腰を下ろし、一人で今後の計画についてを考え始めた。


 今日まで、俺は何とか一号をあのひまわり畑……もといリンとの密会場所に連れて行く方法を模索していた。

 一号は他人の心を読む能力を所持している。

 だから、その一号にリンの心情を探ってもらえば、王族が秘密裏に何をしているのか、手っ取り早く知ることができると考えたのだ。


「……でもなあ、無理だよなあ……」


 俺は頭を抱えながら泣き言を漏らした。


 一号をあの場所につれていくには、一つ大きな問題があるのだ。

 あの辺りは平地であり、何も障害物がない。

 つまり、隠れることができないのだ。


「なあライラ、何とか魔法でどうにかならないのか? ほら、前に俺に使ってくれた透明化の魔法とかさ」


 聞くと、ライラは残念そうに首を振った。


「無理じゃろうな。透明化の魔法は魔力消費が大きすぎる。今回の場合は一人じゃから、前回よりは長い時間透明になることができるじゃろうが……それでも五分が限界じゃ。その期間で、一号殿が王女殿の心の内……それも悪行に関する情報をピンポイントで探ることができるとは思えん」

「やっぱりそうだよなぁ……」


 何度も言うように、一号の特殊能力は相手の心の内を探るというもの。

 しかし、その対象者が考えていないことは一号でさえ知ることはできないのだ。

 だからリンが知っているであろう王族の悪行に関する情報を取得するためには、彼女にそれについて考えさせるような発言をする必要がある。

 当然、怪しまれないようにするということも視野にいれなければならない。

 そしてそれを五分以内で為すことができるかと問われると、正直自信はない。


「ライラ、他に方法はないのか? もう時間もないし、そろそろ王族が何をしているのかくらいは知っておきたいんだが」

「……まあ、方法はあるにはあるのじゃが」

「なんだ? 何か問題でもあるのか?」

「そうじゃ、一つだけ問題がある。……あとは、一号殿が納得するかじゃな」

「納得……?」


 ライラはコクリと頷いた。


変化エボリューションという魔法がある。これは被術者を物に変える、という魔法じゃ。これは魔法をかけるときに多くの魔力を消費するが、それ以降はほとんど魔力を必要とせんから、持続時間も当然長い」

「良い魔法じゃねえか。それの何が問題なんだ?」

「それがな、丸一日は元の姿に戻れないんじゃ。それを嫌う人も多いから、まずは一号殿に許可を取ってからでないと……」

「アタシはいいぜ」


 声のした方を振り返ると、一号が頬杖をつきながら言った。


「……いいのか?」

「アタシも、王族が何をしてるのかってのには興味があるからな。それを知る方法があるってんなら、喜んで協力するぜ」

「……スマン、助かる」

「いいってことよ」

 

 一号はニカッと歯を出して笑ってみせた。




「それじゃあ、早速魔法をかけるぞい。___変化エボリューション!」

「うぉ!?」


 ライラが呪文を唱えるのと同時、白い煙が渦を巻いた。

 すぐにそれは量を増し、部屋全体に充満した。

 慌てて窓を開けて換気をすると、少しずつだが視野が明るくなっていった。

 見れば、先ほどまで一号がいた場所に、黄色のペンダントが転がっていた。


「おい、一号……? なあ、これが一号なのか……?」

「お、主か? ……なんかデケェな」


 恐る恐るペンダントに話しかけると、そこからは確かに一号の声が聞こえてきた。


「調子は大丈夫なのか?」

「おう、全然大丈夫だぜ。特に不自由はねえ。一生ペンダントでもいいかなって思えるくらいには」

「それはそれで問題だと思うが……」


 ともかく、これで一号がペンダントになった。

 この姿ならリンにバレることもないだろう。


 ふと時計を見ると、時刻は十七時を過ぎていた。

 待ち合わせの時刻は十八時。

 そろそろ寮を出なければならない時間帯になっていた。

 普段から、待ち合わせの三十分前には到着するように心がけているのだ。


「それじゃあ、早速行って来るな。ちょうどいい時間だし」

「おう、健闘を祈るぞい」


 扉の前へと出向き、しかしふと俺はライラの方を振り返った。


「そういえばもう一つ、ライラに聞きたいことがあったんだが」

「ん? なんじゃ?」

「過去に戻る魔法って知ってるか? 死んだら昔に戻ってる、とか……」


 するとライラは、少しだけ考える仕草を見せた後、首を振った。


「お前さんは、恐らく自分の死に戻りのことを言っているのだろう。確かに、過去に戻る魔法はあるにはある。じゃがその魔法で戻ることができる時間は一分前が限界なのじゃ。半年前までさかのぼるなど、聞いたこともないの」

「……そうか。まあ、そんなもんだよな。……っと、もう時間だから、そろそろ行ってくる」


 俺はライラの言葉に相槌あいづちを打ち、そのまま寮の部屋から出ていった。

 ひまわり畑へと向かいながら、俺は脳内で先ほどライラから言われた言葉を反芻はんすうしていた。


『過去に戻る魔法は確かにある。じゃがその魔法で戻れる時間は一分前が限界なのじゃ。半年前までさかのぼるなど、聞いたこともないの』


 それなら、俺が半年前にまで戻ったのは何故なのだろう。

 何が原因で、そうなったのだろう。


 俺が考えなくてはならないのは王族の悪行についてだけではない。

 何故死に戻りしたのか……これについても解明する必要があるだろう。



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 伏見ダイヤモンド

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