第十一話
世界でも有数の教会……もといエドワード大聖堂は、王国の中心部に位置していた。
光を追求して造られているらしく、天井は高く、窓には色鮮やかなステンドグラスが入っている。
外観には円柱やアーチ、ドームなどの古典的な要素も取り入れられていた。
俺たちは巨大な建物を見上げ、思わず感嘆した。
……改めて見るとマジででかいな。大きさだけなら王城以上だ。
これなら奴隷を隠しておくスペースだって十分あるだろう。
俺は一号と二号を引き連れ、教会に入っていった。
ここに来た目的は一つ、司祭に会って話をすることだ。
その内容は既に決まっている。奴隷を閉じ込めている場所についてだ。
しかし、そこでは当たり障りのない質問をしなければならない。
怪しまれたらそこで終わりだからだ。
俺は何気なく地面に視線を落とした。
一号の言うことが本当なのだとしたら、この下に奴隷がいるということになる。
「おい、主。まずは何をするんだ?」
一号に言われ、俺は何気なく教会内を見渡した。
俺たち以外に人は五人程度しかおらず、司祭らしき人物の姿は見当たらない。
教会内にいる五名のうち、半分以上はシスターで、あとは観光客のようだった。
そこで、俺は思い付いた。
怪しまれずに地下室へのたどり着き方を知るにはどうすればいいか。
ベストな作戦を思いつき、俺は1号に向かってニッと笑ってみせた。
「まあ見てな。完璧な作戦だから」
俺は一号と二号とともに付近を掃除していたシスターに近づき、声をかけた。
「あの、すいません。僕、隣国から来たものなのですが」
「あ、はい」
シスターは振り返ると、太陽のような
「僕の国で、この教会のどこかに隠された部屋があると聞いたのです。それは本当なのですか? 差し支えなければ、場所をお伺いしたいのですが……」
「え、隠された部屋ですか?」
顎に手を添え、考える素振りを見せるシスター。
しかし数秒後、申し訳なさそうに首を振った。
「……すみません、私は聞いたことがありません。そういう噂があることも、今初めて知りました」
「そうですか……」
……嘘を吐いている様子はない、か。
一号に目配せすると、その小さな口元を俺の耳元に寄せた。
「嘘はついてない。コイツの言ってることは本当だ」
一号が言うのなら、間違いはないのだろう。
ついでに司祭はどこにいるのかと問うと、今日は急用で出かけているとのことだった。
それを聞き、俺はシスターに一礼して引き下がった。
地下があることだけでも分かれば良かったのだが、と心の中で悔やむ。
どうしたもんか……。
シスターが知らないとなると、あとは司祭にしか希望は見いだせない。
しかし、その司祭は現在不在だ。
頭を抱えていると、ふいにポン、と肩に手を置かれた。
見れば一号が、自信あり気に口元を緩めていた。
「ここは俺に任せな。上手く情報を聞き出してやる。こういうのは思い切りが大事なんだよ」
「……? どういうことだ?」
「まあ、見てれば分かるぜ」
それだけ言うと、一号は先ほどのシスターに接近していった。
それに気が付いたシスターは人の良さそうな笑みを浮かべた。
「アタシ、この教会にあるはずの隠された部屋に用があって来たんだけどよ。なんか知ってることあるなら洗いざらい吐いてもらうぜ」
「いえ、ですから、私にはわかりません」
「じゃあ他のシスターにでも聞いてみてくれねえか? オレ、どうしても知りたくてな」
「そう言われましても……」
「すいません、本当にすいません」
ダル絡みを始めた一号を、俺は慌てて引き剥がした。
「おいお前、何してんだよ。迷惑かけんなよ」
「言っただろ? こういうのは思い切りが大事なんだって」
「失礼なのと思い切りは違うからな。ほら、シスターの人怯えてるだろ。謝ってこい」
言うと、一号は自身の手を俺の肩に回し、顔を近づけてきた。
柔らかいものが肩に触れ、無意識に鼻の穴が大きくなる。
「……主。今はそんな状況じゃねえだろ」
「そうだよ! でもお前に言われるのはなんか違う気がする!」
顔を赤くしながらも言い放った。
ふと二号を見ると、興味無さ気に
一号はその体勢のまま言う。
「まあ聞け。アタシにだってちゃんと作戦がある。今の行動だって考えあってのことだ」
「……考え? 本当だろうな?」
「ああ、もちろんだ。その証拠に、ほら」
一号が顎で合図した方向には、談話室があった。
その扉が開き、シスター服に身を包んだ初老の女性が姿を現した。
「何の騒ぎですか? 問題を起こすようなら、すぐにでも退散していただきたいのですが」
「いや、すまねえな。実はアタシたち、この教会には隠された部屋があるって噂を聞きつけてだな」
「……」
一号は
初老のシスターは仏頂面のまま俺の話を聞いていた。
「何のお話をなさっているのかは分かりませんが、教会にそのようなものはございません」
「……チッ、なんだよ、デマかよ。おい、主と2号。部屋はないみたいだし、もう帰ろうぜ」
「え、ちょっ、おい……!」
一号は舌打ちをして、突然教会から外に出る扉へと歩き出した。
二号は無言でついて行く。
俺も慌てて後を追った。
一号の隣に早足で並び、協会の外まで歩いて行った。
「やけにすんなりしてるんだな。いや、俺としてはこれ以上恥ずかしい思いしなくて助かってるが。お前のことだから、もっとしつこく聞くもんだと思ったよ」
まあ結局、今日も何の収穫も得られなかったけどな。
怪しい人物もいなかったし……どうやらこの教会の地下に奴隷が収容されているという噂はデマらしい。
「なあ、主」
「なんだ?」
一号は目を更にギラ付かせた。
「嘘吐いてるぜ、あのシスター」
「……ッ」
驚いて、俺は隣を見た。
やがて一号は教会を振り返ると、スッと目を細めた。
眉間にはこれ以上ないくらいのシワが寄っていた。
「……どういうことだよ?」
「あのシスターの心の中を読んだ。地下室はちゃんとある。場所も特定済みだぜ」
「……マジっすか」
「……さすが一号だね」
俺と二号がそれぞれ感嘆の声を上げる。
もしそれが本当なら、目的への大きな進歩だ。
早く確認したくて仕方がない。
「一号、二号」
「ああ、分かってるぜ」
「……ん」
呼びかけると、二人とも分かっていると言わんばかりの表情で頷いた。
「今夜、あの教会に乗り込む」
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伏見ダイヤモンド
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