ASMR #4 放課後、幼馴染と一緒に寝る。

 うたた寝から目を覚ます。

 私のほうが先に起きたと思っていたら、違ったらしい。

 当然、幼馴染と目が合う。


 それとなく『おはよう』と言われたので、反射的に「おはよう」と返す


 彼が何かを言おうとしたが、二言目を発する前に先手を打つ。


「ちょ、ちょっと待って。リビングで待っててくれないかしら」


「ありがと。3分もすれば私も行く」

「冷蔵庫の中でも好きに漁ってて。じゃ、また後で」




 私は、現在、混乱状態に陥っている。

 だから、少し整理するためにも、一人の時間を確保したい。




 訂正、実際は整理どころじゃなかった。


「(添い寝しちゃった――! 添い寝しちゃった!)」


「(――私が何度誘っても、断られ続けてきた。それだから、添い寝する機会なんて、無いと思ってたのに)」


「(断り続けてた、ってことは……あいつは私と添い寝したくない?)」



「いくら眠たくても、イヤな相手と添い寝なんてしない。つまり、私との添い寝は不本意じゃなかった。そういうことよね」

「だから、私は別に気にしない!」

「(それに、いくら考えても変わんないし)」



「あいつはイヤじゃなかった……でしょうし、私もイヤってほどではなかった! つまり、何も問題ないっ!」

「私も疲れていたんだし、しょうがないじゃない」


「(い、いきなりで、びっくりはしたけども)」



「それに、何よ! ただ添い寝しただけじゃない!」


「意図せず、ほぼ同時に、同じところで、寝落ちしちゃっただけ!!」


 声が大きくなってしまった。

 1階に聞こえてしまうかもしれない。

 そう考えると、一気に冷静になってきた。


「(…………私、誰に言い訳してんだろ)」




「(まあ、一緒に添い寝は大丈夫、ってことが分かって良かったわ。あいつのしれないし)」


「一緒に寝るのは、いくら幼馴染でもダメだけど……」




 意外と時間が経っていたので、言い訳タイムは終わり。


「にしても、結構いい時間ね」

「普段なら帰ってる時間だけど」


「今日は寝落ちしちゃったから仕方ないわね」


「冷房壊れてるんだから――冷房、壊れてる……。帰すわけにいかないじゃない!」


「どうするの!? 一緒に寝るの!?」

「うぅ……、今日はやむを得ない」



「まあ、大丈夫よね」

「お風呂は家に戻って入ってもらえば良いし、それに……」

「あいつ、チキンだし」


「大丈夫。大丈夫」


 自分に言い聞かせるしかなかった。



 ◇



 いつもより少し早くお風呂を済ませ、リビングで待機していた。

 ここまで、全てが順調に進んでいた。

 数時間前に、リビングで打ち合わせた通りに。


 食事、お風呂、その他やらなくてはならないことは終わり、あとは寝るだけ。



 ここまでで一番上手くいかなかったのが、親への報告。

 事後報告でも許してくれそうな気はするが、一応。


 案の定、快諾はされた。

 事情を話しても、「いつから付き合ってる?」とか「どっちから告白した?」とか質問攻めにあったもんだから困った。

 何度、事情を話したことか。

 予想以上に面倒だった。


 最後に余計なことを言われた気がしなくもないが、心配は無用。


 冷静に考えたら、何も起こるはずがないのだから。

 少し寝たとはいえ、金曜から日曜の睡眠負債が溜まりに溜まった状況。

 寝る以外に何があるのだろうか。

 幼馴染がチキンなのも、今日に限っていえば、良かったと思っている。




 それでも、「一緒に寝る」というシチュエーションは意識してしまうもので。


 バイブ音が鳴ったら、余計意識してしまう。

 電話だ。

 電話をかけることは多々あっても、掛けられるのは久しぶり。


 深呼吸して気持ちを鎮めてから、電話に出る。



「うん、電話ありがとね」

「私は大丈夫。今、お風呂上がったところ」

「鍵閉めた?」


「窓も閉まってる?」


「ゴミまとめたりとか」


「オッケー、じゃ、その他やってないことは?」


「じゃあ気を付けて」


「また後で」




 ついにこの時間がやってきた。

 心臓がうるさい。

 今から、で一緒に寝るのだから。


 そして、ここからが腕の見せ所。

 試行錯誤してきた中で、一番、効果がありそうな方法を試す。


 去年五月以来――1年越しの約束を果たす日が来た

 と、思えるほど、確信が持てた。

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