ASMR #3 放課後、幼馴染とおうちデート

 今日もまた電話をかける。

 昨日と違うのは、あるモノを持ってきたこと、それとインターホンを押さなかったことだけだ。


「おはよう。今日は早いわね」


「……寝てなかったの? 確かに早かったけどさ」


「そう……。生活リズムが戻って喜ばしいけれど……」

「恐らく、よく寝れたってことよね。なら良いんだけどさ」

「でも、大丈夫? 無理してない?」


「本当に? 元気なさそうだけど」


「来たら分かる? 嫌な予感がするけど、まあ良いわ。とりあえず鍵開けて」


「気が利いてるわね」


 事前に鍵を開けてくれていたらしい。

 都合が良かった。


「(おじゃましまーす)」


 家に入ると、私はに立ち寄ってから、彼の部屋に向かった。



 ◇



「入るわね。何が分かるって――」

「…………」

「あんたの頭、大丈夫かしら?」

「暑さにやられちゃったの……? 可哀想に」


「『違う』って、嘘つく必要ないんだけど。じゃないと説明できないでしょ! 何でエアコンつけずに扇風機?」


「壊れた? 金曜、私が帰った後に?」

「…………」

「そんなことあるの……?」


「取り乱してしまったわ」

「とにかく、水分補給しなさい。今すぐ。倒れられたら困るから」


「そんなの関係ない! こまめにしてたとしても、今すぐ!」



「よし、それじゃあ、私の家に来なさい」


「もう一度言えば良いの? 頭、大丈夫かしら?」


「そこじゃない? あんたならよろこぶと思ったのだけど」

「どこをもう一度言えば?」


「聞き間違いじゃないわよ」

「はい、スタンドアップ!」


「待たないわ。この状況、あんたにとっても私にとっても良くないわ」


「そうでしょ。じゃあ行くわよ」


「心の準備? そんなの要るかしら?」

「あ、もしかして、私の家に来るだけで緊張、してんの?」

「まあいいわ。私は先に行ってるから。倒れるのだけはやめてね」

「それじゃ、後で」


「全然来なかったら、様子見にくるから。早めに準備しておくのよ」


 階段を降りていると、上からドアの開く音がした。

 どうやら一緒に行く気のようだ。


 階段から少し離れたところで、待機しておく。


「意外と早かったじゃない、心の準備」

「部屋を出たら、すぐに追い掛けてきたでしょ。走ってはいなかったけど。正直びっくり」

「もしかして、一人が寂しかった?」


 少し彼をからかってから、家へと歩き始める。

 私が先導する形だ。とはいっても、私の家はここから二分もかからない。


「あれぇ、せっかく一緒に行くことになったのに無言だねぇ」

「もしかして――心の準備、出来てないのに来ちゃった?」


「あれぇ、またもや無言か。否定しないってことで良いんだよね?」


「…………」


「つまんないのー」


「…………」


 無言の空間に耐えながら、家へと足を進める。


「あーあ、もう着いちゃった。暑いし入ろ」


 心ここに有らずといった感じの返事を聞きながら、鍵を開ける。

 案内するまでもないが、私の部屋に案内する。


「どう? ドキドキする?」


「『うんそうだね』? 反応素っ気なーい」


「(なによ……私との会話が嫌だっていうの……)」


「久しぶりだね? 何年ぶりかなー、なんてハハハ」

「(ショックなんかじゃない、ショックなんかじゃ……)」


「いつもみたいにベッドに座ろうか。ほら、隣、空いてるよ」


「やけに素直に座るじゃない。恥ずかしいとかないの?」


「(少しくらい恥ずかしがりなさいよ……)」


「ねえ、さっきか――――」

「ね、寝てる……のかしら……?」


「(!)」


 最初に、頭に浮かんできた言葉だった。


「そうよね……。金曜から、全然寝れて無かったのよね……」

「(気づいてあげられなくて、ごめんね)」


「(気持ち良さそうに寝てるわね。良かった……)」


 安心しているのが自分でも分かる。



「(あったかいなぁ…………安心したら急にねむけ……が…………)」

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