第11話 誤解……だけどさ……
いやな日々というわけではないが、なんとも面倒な日々ではある。
かつての恋人、灰瀬アリスがわざわざ俺をおっかけて転校までしてきたという事実が、どうにもこうにも重すぎる。
重すぎる反面、少しうれしかったりする自分がいるという事実も、これまたきっつい。
「未練たらたらっていう前に、妹だから」
わかってんのか、俺。
妹やぞ、妹。
何度言い聞かせても、しっくりくるようなこないような。
でも遺伝子検査が答えを出している。
で、本当の妹――とされているリンネといえば。
朝から。
「うう……飲みすぎました……」
などと腹をおさえて、食卓に体重をあずけている。
「どうした、リンネ……?」
恐る恐る訪ねてみる。
情けないなんていうなよ。反抗期の子供なめんじゃねえぞ。
リンネは、ゆっくりと顔をあげて、こちらに冷たい視線。
「兄さんには関係ありません」
「あ、はい、すんません」
「いえ、関係はありました」
「え?」
「でもいいません」
「え、でも俺のせいならなんかできることあれば……」
助けるけども。
リンネはジト目でこちらを見た。
「なら」
「ん?」
「風呂に入らないでください」
「……は?」
「入るにしても、足首あたりまでのお湯にはいってください」
「な、なんで」
「飲みきれないでしょう!?」
「何の話してんの!?」
よくわからない妹を置いて、俺は登校をした。
本当によくわからないので。
*
さて。
よくわからないといえば、よくわからないことは続くのである。
俺は、妹とのやりとりを何回も思い出しながら、教室にたどり着いた。
何度考えても話の流れがわからない。
帰ったら謝ったほうがいいのだろうか。
なんてことを考えて、席に着く。
しばらく前を向いていた。
ホームルームが始まるまでまだ時間がある。
……視線を感じた。
それもめっちゃ感じた。
隣から。
「……なにかいいたいのか」
俺はゆっくりと横を見る。
アリスだった。
「いいの、気にしないで」
アリスは小さく首を振る。
「なんで少し涙ぐんでるんだ、お前」
「気にしないで」
「あ、はい」
「やっぱり気にしてもいいのよ?」
「……」
リンネといい、アリスといい、くっそ面倒くさいのは俺だけの感想だろうか。
何か言い返そうとしたが、朝のリンネを思い出し、黙る。
そのままやり過ごしたほうがいいだろう。
俺はホームルームのあとの一時間目の授業を確認し、予習でもしておくかと教科書を開いた。
時間は有効活用しないとな。数分だろうが、積み重ねれば、山となる。
……視線を感じる。
めっちゃ感じる。
「だから、なんだよ」
俺はふたたびアリスへ言う。
アリスは小さく笑うと――。
「いいの……ぜんぶわかってるのよ、ヤスト……」
なんかすっごい哀れなものを見るような視線を向けられている気がした……。
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