第9話 視点変更 アリス

 アリスはベッドの上でスマートフォンを見ていた。愛する男性――ヤストとの思い出を、指先でスライドしながら。


「ああ……嫌われてなかった……よかった……」


 数々の思い出が、画面にうつる。

 どの季節にも、必ず何かしらのイベントがあり、そのたびに二人の写真は増えていった。

 立場上、表立って付き合うことはなかったが、それでも楽しかった。


 ヤストも同じ気持ちだと思っていたが、自分とは別の何かを見ていたらしい。


「……でも、なんでいきなり?」


 猪突猛進。今の今まで思うがままに、突き進み、転校までし、ヤストと同じレールにのったアリスであったが、ようやく疑問のスタートラインにたった。


 ヤストは自分を嫌っていないという。

 なら、なぜ? なぜ自分と別れなければならなかったというのか。


 アリスの頭脳はさまざまな可能性をあげては、却下し、またあげては、別の何かを考える。


 少女とはいえ、アリスの頭脳は明晰である。 

 試験をうければほぼ満点。

 どのような状況でも冷静な判断を下す。


 そうして、気が付いた。

  

「……わかったわ」


 ベッドから身を起こし、これまでのことを考えた。

 そうか……そうなのか……。


 アリスはぽつりとつぶやいた。


「まさか、ヤストくん……下半身が不能に……? それで自分に自信がなくなって……? ああ、なんてことでしょう!」


 たしかに、とアリスの脳裏に無理やりなこじつけ映像が流れた。


「なにかの緊張や、ストレスで、そういった症状になることは昔読んだ本に書いてあったわ……そういうことね……なにかしらの影響でヤストくんは、使い物にならなくなってしまった……」


 頭がいいからといって、いつだって正解にたどり着けるわけではない。

 才媛ゆえの暴走を止めるものはいなかった。

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