第7話 資料室の密談
俺が先に資料室へ入り、つづいてアリスが入室。
すぐにカチリ、と音がした。
金属音。
俺は振り返りながら言う。
「……なんで鍵を閉めるんだよ」
「しめてないけど」
「カチリって落としたぞ」
「拳銃の撃鉄をあげただけ」
「殺す気か!」
「一緒に死ぬわよ?」
「お断りします……」
アリスが言うと、嘘に聞こえないからいやだ。
どちらにせよ、鍵はしめられた。
ここには俺たちだけということ。
なんでも話せるということ。
アリスは小さく息を吸う。
冗談を言うと思ったが、内容はいたって真面目なものだった。
「わたし、あきらめていないから」
「……もう終わったことだろ」
「ヤストが勝手に結論付けて、それを一方的に告げられて、なにが終わるっていうの?」
「あの時伝えたことがすべてだよ……」
「嘘。わたしにはわかる。ヤストは何かを隠してる」
「っ!」
鋭いやつだ。
俺の嘘なんてバレバレってことか。
アリスは驚愕していた。
「え? 本当に嘘をついてるの? ほんとに?」
「あてずっぽうかよ……!!」
「当たれば当たりなのよ」
「偉そうに言うな」
「ヤストのことだからきっと話してはくれないでしょ。昔からそうだから」
「……話す気はない」
話せば、すべてが終わる。
始まるどころか、いろいろなものが崩れていく。
「一つだけ教えてほしいのだけど」
「なんだよ」
「それをきくために、ここによんだまであるわ」
「だからなんだよ」
それまで自信満々に見えた、アリスの顔。
そこに不安そうな色が一瞬、差し込んだ。
「……本当に、わたしのこと、嫌いになったの?」
嫌いだ、と答えるのはとても簡単なことだ。
だが、アリスの真剣な表情を前にしていたら、茶化すことも、流すことも、嘘をつくこともなんだかはばかられた。
こんな事言わないほうがいいのに。
全て終わりにしたはずなのに。
アリスのつらそうな顔を見てしまったら、少し前の決意なんて、簡単に揺らいでしまった。
「……ではない」
「え?」
「嫌いになったわけではない……」
「……!」
アリスの顔に朱がまじる。
かつて、氷の妖精などと揶揄されていた少女に生気が宿る。
俺はこういうアリスに、どんどんはまっていき――半面、違和感を覚えたのだ。
理由なんてない。遺伝子レベル、なんていう冗談さえ、もしかすると正しい答えなのかも、と信じられるくらいには、直観的だった。
結果、俺はアリスとの関係性に疑いを持ち、遺伝子検査をした。
なのに。
「……よかった。そうなんだ。やっぱりね、知ってたわ」
そう笑うアリスの顔を見てしまったら、なんだか俺が間違っている気がしてしまう。
それでも最後にはこう付け加えなければならないのだ。
「でも、アリスとはもう一緒にいたくない。それは変わらない。俺とお前が付き合うことは、二度とないんだ」
アリスの顔がふたたびこわばるが、俺は新たな決意を胸に、彼女の目を見ずにいた。
アリスは、無言で振り返る。ここまでは想定内だったのだろうか。
色々と言いたいこともあるだろうが、小さくうなずくと、いたずらっぽく俺にいった。
「資料室の整理、がんばってね? 先生に、完璧にこなしますって約束してあるから」
あ、それはマジなんすね。
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