第4話 視点変更 アリス

 ああ、快感だった――転校初日、灰瀬アリスはバスタブにつかり、目を閉じて、考えた。数カ月ぶりに見るヤストの驚いた顔。わたしの愛を甘くみた罰なんだから。


 アリスは、高齢の親かつ一人娘ゆえに、たいそう大事に育てられてきた。

 そこに感謝はしているが、どんな理由であろうとも、自分の人生は自分で決めてやるという強さが、アリスにはある。 


 親と交わした約束は、果たした。

 白鳥高校の特進クラスに入学すること――卒業までは約束していなかった。ゆえに転校は許される。


 我ながら、厄介な娘だと思うけれど、父も母も諦めたように苦笑して、認めてくれた。


 森礼学園特進クラスへの転入。


 編入試験はなんの問題もなく、全問正解。

 親はわたしが、法曹界へ行く道が残っている限りは、大目に見てくれるはずだ。


 転入だって許された。

 それこそ、結婚相手だって自由に選ばせてもらいたいし。

 なんなら子供を作るタイミングだって――。


「えっ、わたし、何を考えているのっ!? そ、そんな、子供なんてまだ早いわよ! で、でも、ヤストが欲しいっていうなら、わたしも、いいけど……なんて、なんて、きゃーーーーっ」


 と、思考が暴走したところで、また、ヤストの驚いた顔が脳裏にうかび、はじめに戻る。


 彼女は知らない。本当は血の繋がった兄であると、ヤストだけが知っていることに。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る