20.魔物

 翌日、俺は魔の森でC+ランクの魔物を倒す実戦訓練をすることになった。


「今日は実戦訓練を行います。準備はよろしいですか、カナカリス様」


「もちろんだ」


 魔の森に入ると、周囲は薄暗く、不気味な鳴き声がちらほらと聞こえる。


「気をつけて進みましょう」


「分かってる。行こう」


 しばらく進むと、前方に大きな影が現れた。C+ランクの魔物、ジャイアントスパイダーだ。体長は2メートルほどあり、その鋭い牙と黒光りする体毛が威圧感を放っている。

 蜘蛛と熊が混ざったみたいだな、絶妙に気持ち悪い形をしている。


「カナカリス様、気をつけて」


「ああ、任せろ」


 俺は剣を抜き、ジャイアントスパイダーに向かって構える。魔物の赤い目がこちらを睨みつけ、緊張が走る。そして、次の瞬間、魔物が猛然と襲いかかってきた。


「正面!」


 俺は魔物の攻撃をかわしつつ、反撃のチャンスを狙う。ジャイアントスパイダーの動きは俊敏で、鋭い爪が何度も俺を襲うが、そのたびに剣で受け流す。ジャイアントスパイダーは攻撃が当たらないことにいら立っているのか、動きが少し荒くなってきた。俺はその隙を見逃さず、大きく一歩踏み込むと腹部目掛けて剣を振りかぶる。

 しかし、魔物の硬い体毛に阻まれて思うようにダメージを与えられない。


「硬いな」


 俺は一旦距離を取ると、再び魔物の様子を伺う。腹部に刃は通らない。

 魔法で攻撃するか? それとも弱点の目を潰してそこから関節部分を……どちらにしても簡単ではないか。


「"炎刃フレイムブレード"連」


 俺は再び魔法を行使した。複数の炎の刃がジャイアントスパイダーを捉える。

 数十の刃、その巨体では全ては避けきれないだろう。刃がジャイアントスパイダーの体を切り、その体毛を焦がしていく。

 傷は付かないか。


「ぐっ」


 突然の攻撃に対応できず、ジャイアントスパイダーの爪の一撃が脇腹に直撃する。なんとか爪と脇腹の間に土壁を作り致命を避けるが一瞬、呼吸が止まるほどの衝撃だ。


「大丈夫ですか!?」


 ローラが叫ぶように俺に聞いてくる。


「ああ、問題ない」


 体が重い、全身が痺れる感覚に陥りながらも俺はなんとか立ち上がる。

 ローラの助けは借りない。


「はあっ!」


 俺は再び剣を握りしめてジャイアントスパイダーに向かう。

 剣だけではない、魔法も織り込んだ連撃を浴びせる。ジャイアントスパイダーの動きは徐々に鈍くなり、攻撃のチャンスが増えてくる。上級魔法はまだ完全には使えない。安全に確実に使える中級魔法を行使し、手数を増やして確実にダメージを与えていく。

 一撃で致命を与えられないなら、徐々に削っていけばいい。

 鑑定でジャイアントスパイダーの生命が削れていくのを見ながら俺は呟いた。


「そろそろ良い頃合いだろう」


 ジャイアントスパイダーを正面に捉えながら、動きが鈍くなったジャイアントスパイダーに水魔法と氷魔法を使う。

 鑑定によってズルをして得た氷属性の魔法でジャイアントスパイダーの体を凍らせていく。


「これで、終わりだ!」


 俺は最後の力を振り絞って、凍ったジャイアントスパイダーを剣で叩きつける。大きな氷の砕ける音と共にジャイアントスパイダーが倒れた。俺は地面に座り込む。


「カナカリス様、大丈夫ですか?」


 心配そうにローラが俺の顔を覗き込む。


「大丈……」


 そう答えようとした時、俺の体がぐらりと傾いた。そしてそのまま意識が遠のく感覚に襲われる。


「……カ……リ……スさ……ま!」


 まずい、魔力切れ?初めての感覚だ。

 遠くでローラの声が聞こえる中、俺は意識を失ったのだった。


 *


「ん……」

 

 目が覚めた。ここは屋敷か?


「カナカリス様、無事でよかったです」


 そう言って、ローラは俺を抱きしめる。


「よかったです、本当に」


 自分の魔力量を気にせずにやりすぎた。本番でこんなことが起きてしまえば、そのまま死んでいてもおかしくない。次からは気をつけないといけないな。

 だが、何はともあれC+ランクの魔物をソロで倒すことが出来た。大きな成長だ。


「ローラありがとう」


 俺はそう言って、微笑む。


「こちらこそありがとうございます、カナカリス様」


 そう言うローラの笑顔にはほんの少しだけ、本当に少しだが涙が混ざっていた。

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後悔の無い人生を異世界で~転生王【カナカリス編】~ @AI_isekai @isekaiAi

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