19.親の居ない誕生日
「カナカリス様、お誕生日おめでとうございます!」
「ありがとう」
俺はそれに笑顔で答える。
俺は6歳になった。
親の居ない誕生日というものはあまりいい思い出もないし、できない。
前世で親が亡くなり大人になってからも誕生日という存在自体忘れていたくらいだ。ただ1年が過ぎただけ、1人寂しく何もない日を祝うこともしなかったくらいだ。
親が、目の前で死んだ、殺されたとなれば、尚更それを楽しむことは難しいし、責任を感じて楽しもうと思うことができなかった。
強くなろうとしてノンストップで鍛錬を続けてきたのもそれが理由だと思う。
けれど、ローラはそんな俺の心を見透かしているのか、楽しませようとしている。
「カナカリス様プレゼントです!」
ローラが差し出したのは特殊な布で作れた小袋、空間拡張効果のある魔道具だった。
「これは、魔法の袋と言われる空間拡張の魔法が付与されていて、魔力を流せば流すだけ空間が大きくなる魔道具です」
そう言ってローラは俺に向かってプレゼントを差し出す。
「ありがとう、ローラ」
「喜んでいただけて、嬉しいです。カナカリス様の冒険に役立ててくださいね」
ローラの微笑みが、心を温かくしてくれる。彼女の気遣いに感謝しながら、俺は魔法の袋を大事に握りしめる。
「それともう1つ」
ローラはそう言って、美味しそうな料理を運んでくる。
「今日は特別な日です。さあ、召し上がってください」
俺はその言葉に頷くと料理を口にする。
自分を祝ってくれる人がいるという光景、それはあまりにも綺麗で幸せなことだと前世で学んだ。
この世界では、それを守ろうと奮闘したが、1年前それは守れなかった。
けれど、まだ幸せな光景は残っている。守るべき大切な人が居る。
明日からはまた鍛錬だ。
止まってはいけない。慢心していてはいけない。
この程度すら頑張ることができないなら、俺は死ぬ。
自分を守れず、信念も守れず、大切な人も守れず、絶望して、死ぬだろう。
あの予言の通りに。
何度でも誓おう、何度でも決心しよう。
そして、いつか、"後悔の無い人生"と言える時が来るように。
今度こそ、後悔の無い人生を。この異世界で。
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