18.鍛錬

「それでは、鍛錬を始めます」


 ローラは木の剣を手に取り、俺に見本を見せる。

 剣の柄をしっかりと握りつつ、力を抜いて柔軟に動かせるようにする。指の配置や力の入れ具合を細かく教えてくれる。


「では、実際に振ってみましょう。軽く素振りを300回」


 300回かなりの数だが、それを怠っていては強くなるなんて夢のまた夢だ。


 俺は剣を握りしめると、剣を振り始めた。


 50回目、腕が痛くなってきた。

 70回目、もう腕も上がらなくなってきた。

 130回目、力が入らなくなり剣を落とさないようにするのがやっと。

 140回目、限界が来て腕が動かない……とその時だ。


『熟練度が一定に達しました。個体名:カナカリス・トロンに<剣術Lv.1>が付与されます』


 脳内に天の声が響く。ゲームのレベルアップ時のアナウンスみたいな感覚だ。


 ちょっと鑑定してみるか。


 ---

 個体名 :カナカリス・トロン

 種族名 :人間

 生命値 :359/360

 魔力値 :2577/2577

 神託  :タナトス「-表示不可-」

 称号  :【賢者の子】【神象素質アーツタレント】……計9

 魔法適正:無属性

 魔法  :火球ファイアボール爆炎バーストフレイム……計36

 スキル :<鑑定Lv.35>・<完全記憶Lv.21>・<剣術Lv.1>……計8

 所有得点:1000

 ---


 確かに<剣術Lv.1>がスキルとして取得できたことは違いない。だが、<鑑定>を得たときのように何かが変わったような感覚がない。

 やはり、技術を可視化しただけのスキルといったところだろうか。


「カナカリス様?」


 俺が考え事をしていると、ローラが不思議そうに声をかけてきた。


「お疲れですか?」


「はい、もう腕が……」


「でしたら、少し休憩を挟みましょう」


 *


「感覚は掴めてきましたか?」


 休憩中、ローラがそう聞いてくる。


 たしかに、素振りをする前に比べて剣自体への違和感はなくなっている。


「はい、少しは」


 俺がそう答えるとローラは満足そうに頷いた。


「時間は掛かると思いますが、剣を学ぶということは、自身が強くなる以外に、相手の剣士の動きを予測することにも繋がります」


「予測ですか?」


「剣術には型があります。いろいろな流派がありますが、相手の使う流派が分かれば、型から繰り出される技も予測でき回避や防御が容易になるのです。カウンターだって狙えます」


 俺の戦いの手札は魔法がメインだ。

 ただ、暗殺者との戦いで分かったことがある。


 彼らの戦いは早かった。判断が早い、認識するのが早い、行動するのが早い。決着が早い。

 無詠唱を使えていたクライスという暗殺者も、メインは剣による攻撃だった。魔法の練度は俺と同じか経験も含めればそれ以上なのにも関わらずだ。


 分かった気でいた。魔法使いは近接戦で剣士には勝てない。

 当たり前なことでもあるが、その意味があの戦闘を見て分かった。


 魔法だけを極めて勝てないということを。


 けれど、剣と魔法の両方を極めれば話は別だろう。どちらをメインにするわけではく、両方を扱えるようにする。

 その選択肢が今までの俺にはなかった。


 俺はローラの言葉に頷くと木の剣を握り直す。


「まずは素振りから、再開しよう」


 そう言って、ローラに視線を向ける。


「はい」


 こうして俺の修行が始まったのだった。


 *


 あれからも日々の鍛錬は続いた。


 ランニング、腹筋、腕立て伏せ、スクワット。幼い体のため、無理をしない程度に抑えながら基礎の身体づくりを行いながら、剣術の鍛錬も行う。

 無論、昔から続けている魔法の訓練も独学で隙間時間に詰め込んだ。

 座学も怠らず、魔物、地理、歴史この世界独自の知識の全てを幅広く学んだ。


 <完全記憶>によって膨大な時間が掛かるインプットは大幅に楽になった。だがそれに慢心せず、瞬時にアウトプットできるように何度も復習した。

 記憶するだけではなく、身体が覚えるまで、勝手に答えが導けるようになるまで。



 春が過ぎ、夏が来て、秋が過ぎ、冬が来て、二度目の春がやってくる。

 そうして気付けば1年が経っていた。

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