17.基礎
翌朝、陽が昇るとともに俺は早速修行を始めることにした。
ローラはすでに起きていて、俺を迎えてくれる。
「おはようございます、カナカリス様」
「おはよう、ローラ」
「今日は剣術の基礎を学んでいただきます、それと並行して体力作りも行っていきましょう」
ローラの言葉に俺は頷いた。
俺の身体はまだ5歳、非力で未成熟な部分が多い。無論、技術的にも前世でサラリーマンしていただけの一般人、基礎からしっかり学んで強くなる必要があるのだ。
「まずは正しい姿勢を身につけることから始めましょう」
背筋を伸ばし、足を肩幅に開く。体の重心を均等に保ちながら、自然な立ち方を心がける。
剣を構えるならなおさら、姿勢は大事になる。
攻めも守りでも、姿勢はその基本となる。
試しにやってみるが、やはり上手くはいかない。
これに剣の重さや、構えも入ると、重心を保つのも簡単ではないだろう。
そこでふと思った。
<鑑定>を使って、少しでも習得を早めることはできないだろうか、と。
魔力を用いる特殊能力は魔法に分類されるが、それ以外はスキルに分類されている。
そして、スキルとはつまり技能である。
確かに<鑑定>は、技能というよりも特殊能力だ。
だが、例えば、神託殿で見た人の中に<自然治癒>を持っている人が居たが、これは特殊能力であると同時に回復力が高いという体質である。
<完全記憶>も同じようなものだ。記憶力が良いというのは特殊能力ではない。単に頭が良かったり、要領がよかったりする体質だ。
確かに、<自然治癒><完全記憶>もLv.が上がれば、通常ではあり得ない特殊能力になり得るだろう。
けれど、そこに至るまでは、確かにただの体質をスキルとしてカウントしただけに過ぎない。
疑問には感じていたのだ。
そんな折、暗殺者との戦いの過程で<鑑定Lv.30>は<鑑定Lv.35>になっていた。
そして見えるスキルの数が増えた。
見えていなかったスキルが見えるようになったのだ。
それは、つまり特殊能力だとか体質だとかでカウントすることができない”単純な技術”がスキルとして見えるようになったということである。
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個体名 :ローラ・バント
種族名 :人間
生命値 :生命値:3600/3601
魔力値 :705/705
神託 :イリス「空に魅せられて」
称号 :【魔剣技流 中級】【豪剣流 中級】【剣士】……計6
魔法適正:火属性
魔法 :
スキル :<
所有得点:2300
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予想通り、ローラのスキル数は増えていた。
ただ、魔法みたいにスキルを習得することはまだできない。一応、スキル一覧から検索し選択すればできないこともないのだが、それで得られるのはLv.1のスキルだけ。
必要な所有得点に比べてコスパが悪い。
仕方ない、地道にやっていくしかないか。
「いい感じです、カナカリス様。では、その姿勢を常に意識してください」
「わかりました、努力します」
「では、今日の午前は足腰を鍛えるため、ランニングです」
この姿勢でランニングだと、俺は驚愕した。
背筋を伸ばし続け、重心を意識し続けるというのは、無意識にしていた悪い姿勢を直し続けることでもある。習慣を直す、それをしながら重心が動く運動をするということが困難に思えたからだ。
「屋敷の周辺を走ります。早速行きましょう」
そう言って、ローラは屋敷の外に向かって走り始めた。
俺は慌ててそれを追いかける。
「はぁ、はぁ……」
まさかこんな形で走らされるとは……、今の肉体は子供なのに大丈夫なのか?
そんな疑問が湧いてくるが、今の俺にできることは師匠とも言えるローラについて行くことだけだ。
そうして一時間ほど走り込みを行ったところで休憩となった。
「お疲れ様です、カナカリス様」
「はぁ、ありがとう、ローラ」
「午後からは剣術の基礎をお教えします」
そう言ってローラは微笑む。
「え……」
「どうしました?」
思わず声を漏らしてしまった俺に、ローラが不思議そうに聞いてくる。
「……いや、何でもないです」
「では、昼食後を楽しみにしていてください」
「はい……」
*
「カナカリス様、こちらが本日の昼食です」
「あ、ああ。ありがとう」
俺はローラから本日の昼食のサンドイッチを受け取る。
「では、お食べください」
「……いただきます」
そう言って一口食べてみる。
美味い。それにしても、この食材はどこから持ってきたんだ?
「この島に畑でもあるのか?」
「畑はありますが、食材自体は基本的に屋敷に保管されているものを使っています。もちろん、輸送されたものもあります」
「屋敷に保管って、何日分くらいあるの?」
「そうですね、魔法具によって拡張された空間にあるのでので正確には分からないですが1年分はあるかと。他にも、魔法具を用いた畑で麦や野菜も採れますし、肉は魔物のものを使えるので、食料の心配はないくらいです」
「魔境なのに魔物の肉が食べられるのか……」
俺は感心しながら、サンドイッチを食べ進めたのだった。
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