15.これから
俺たちが街に戻った頃、魔物達が一斉に引き返して行くのを見た。
どうやら、暗殺者による襲撃は終わったらしい。
そんなことを思っていたら、クリファナが街へ逃げていた俺たちの元へとやってきた。
「無事でよかったわ」
「さっきのあいつらは……」
「仕留め切れなかったけれど、彼らは撤退したわ。もう大丈夫よ」
クリファナがそう言ったのを聞いて俺は少し安心した。だが同時に、自分が何も出来なかったというその現実が胸に重くのしかかる。
*
街の片隅で一息ついているとき、クリファナとクリスが話し始めた。
情報の共有といったところだろうか。
「ところで、クリス」
「なんでしょう、クリファナ姉様」
「賢者様はどうなったのかしら」
そんなクリファナとクリスの2人の会話にローラが入り言った。
「カンダリス様とカノエッタ様は、カナカリス様を守りお亡くなりになられました」
ローラの言葉に、クリファナは驚きの表情を浮かべ、クリスは心のどこかで覚悟でもしていのか目を細めた。
「ごめんなさい、カナカリスくん。私が遅かったから」
俺は2人を見て首を横に振る。
「悪いのは僕だ」
俺が弱いから守れなかった。
俺が弱いから、誰も守れなかった。また同じようなことがあった時、そのときに俺は守れるのか?
きっと無理だ。
「だから、強くなりたい」
親を失った5歳の子供には、見えなかったのかもしれない。
クリスもクリファナもローラすら驚きの表情を浮かべていた。
もう後悔はしたくないから。
「この街を出ることになるわよ」
俺がそう告げると、クリファナは冷たく言う。
荒らされた街を離れることは裏切りかもしれない。それでも俺は、強くなって皆を守りたい。
この街で強くなれないと言うのなら、俺は
「それでもいい」
今度こそ、後悔の無い人生を、この異世界で生きるために。
俺は強くなると決めた。
*
神託殿のためにクリスが居た事、クリファナが報告を聞いてすぐに分身体を送ってきてくれたこと、貴族の護衛も居たことが影響したのか怪我人や街への被害はあったものの襲撃による犠牲者はカンダリスとカノエッタだけで、襲撃の規模に反して被害は小さかった。
あれから2週間が経った。
魔物の襲撃により荒れていた街も、巫女クリファナとクリスの尽力により、元に戻り始めている。
カンダリスやカノエッタともしっかりとお別れをして、無駄にしないと誓った。
二度目の親との別れがこんなにも早いとは思っていなかった。
そして、覚悟を決めた俺は街を離れる支度を始めた。
「カナカリス様、本当にいいのですか?」
「ああ、そう決めた」
俺はローラと一緒にこの街を離れることに決めた。
離れると言っても俺たちが行くのは、別荘のある島だ。ローラにとっては元居た環境でもある。
島への移動は一瞬だ。
船を使えば3日ほどかかる航路だが、ローラには"転移魔方陣"の刻まれた
「行く前に挨拶だけ済ませておこう」
街の復興を手伝うクリスや街の人々に別れを言うために俺とローラは広場へと向かった。
広場に着くと、復興作業に忙しそうな人々の姿が目に入った。
指揮を執りながら魔法で瓦礫を除去しているクリスを見つけると、俺はクリスに話しかける。
「お疲れ様です、クリスさん」
俺が声をかけると、作業の手を止めてこちらを向いた。
「カナカリスくん、ローラさん、もう行くのね」
「はい、別れの挨拶に来ました」
「そう、わたしもそろそろ巫女協会に戻らないとならないし、これで当分は会えなくなるわね」
クリスは笑顔で俺たちにそう告げた。
あとで聞いた話だが、クリスとクリファナは、賢者のカンダリスやカノエッタと交流があったらしく、ローラのことも知っていたらしい。
「それにしてもカディーラ島に別荘があるなんて、初めて知ったわ」
カディーラ島にある別荘は、カンダリスとカノエッタが賢者の修行のために使っていたと昔に聞いたことがある。
「人はあまり住んでいないけれど、その代わり魔物が多くて修行するには良い場所よ」
クリスは笑いながらそう言った。
「だからクリファナさんはそこを勧めたんですね」
「ええ、まさか別荘が都合よくあるとは思っていなかったようだけれど」
俺の言葉にクリスは頷いた。
「それでは、そろそろ行きます」
俺がそう告げると、クリスは俺たちに手を振って見送ってくれた。
そして、俺たちはカディーラ島の別荘へと転移したのだった。
————
「1章 始まり」完結
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