12.強敵

 カンダリスとカノエッタを弔ったあと、俺はローラと共に"転移罠トランスポートトラップ"のところまで戻り、"転移罠トランスポートトラップ"を解析して街はずれの海岸まで戻った。

 俺たちはそのまま街の南入口に向かっていると、異常な静けさに違和感を覚えた。


 やがて視界に入ってきたのは、逃げ惑う人々だった。


「……何かがおかしい」


 今いる海岸側の反対、カリオ森と接している方から断続的に爆発音が聞こえ、黒煙が立ち上る。

 ローラは剣を握りしめ、戦闘態勢に入る。


「俺たちも行こう」


「はい、カナカリス様」


 俺とローラは街の中を駆け抜け、魔物が暴れているであろう森の入り口まで急いだ。

 道中、街中まで入ってきていた魔物を兵士や冒険者と協力して倒したりしながら進んだ。


 そうして、街の外壁近くまで来た。


 そこで目に映ったのは、森から続々と現れる魔物達、それと対峙する街の兵士たちや冒険者。

 援護しとようと俺たちも戦いに参加しようとした、そのときだった。


「カナカリス、賢者の子ね?」


「そうだけど、誰?」

 

 俺の目の前に、ある女が突如現れた。

 女は顔をフードで隠していて、その後ろには2人の男が控えている。


 <鑑定>


 ---

 個体名:クライス・リエラ

 ---

 個体名:ブリア・サイ

 ---

 個体名:イファン・サイ

 ---


 『阻害されました』


 阻害された?どういうことだ。


「私はクライス、あなたを殺しに来たの」


 そう言うと女は手を上げる。それを合図に後ろの2人の男が動き出す。

 1人の男が剣を振るい、もう1人の男が魔法を唱え始める。


「カナカリス様!」


 異変に気づいたローラが俺を抱えて、その場を離れる。


「お怪我はありませんか?」


「ああ、大丈夫だ」


「申し訳ございません、彼らが詠唱を開始してから存在を認識できました。おそらく身に着けているローブに、認識阻害の類の効果があるのでしょう」


 ということは、俺の<鑑定>が阻害されたのもそのローブの効果か。

 しかし、まずいな。前の戦いでの消耗も回復していないのに、それよりも強い奴らと戦うというのは無謀だ。


「奴らの目標がカナカリス様なら、今はまず逃げることに集中しましょう。わたくしたちを探している間は、被害は広がらないはずです」


 街の路地を駆けながらローラはそう提案する。


「だめだ、街には避難できていない人も大勢いる。兵士や冒険者だって。下手に逃げて暗殺者が他の人達を見つけたら、殺されるかもしれない」


「ですが、そうなれば残っているのは魔物が居るあの森の中しか……」


 海と平野に逃げても時間は稼げず、すぐに見つかるだろう。街中も使えないとなると、残っているのは北側の森の中のみ。

 死地に行くのも同然だ。


「ローラは来なくてもいい」


「いえ、わたくしも行きます。カナカリス様を守ると、約束したのです」


 俺はローラに抱えられながら、北側の出口を少し迂回し、カリオ森の中へ入った。

 森を進みがら、出てくる魔物に魔法をお見舞いしながら、奥へ奥へと進んでいく。


 突如背後から、風を切る音が聞こえるとともに嫌な気配を感じる。俺は咄嗟に横に飛ぶが、刃は左腕を掠めた。


「よく躱したわね」


 俺はすぐに距離を取り、敵を見る。


「カナカリス様、先に行ってください。わたくしが時間を」


 ローラは俺に向かって叫ぶ。


「悪いけど、そうはさせないわ」


 クライスは手をかざし、強力な魔法を唱え始める。俺はそれを阻止しようとするが、間に合わない。練度が違いすぎる。


「"闇の鎖ダークチェーン"」


 黒い鎖が俺の体を縛り上げ、動きを封じる。


「くそっ」


「少しそこで待ってなさい」


 俺は必死にもがくが、鎖はどんどん強く締まっていく。


「カナカリス様!」


 ローラが叫び、俺を助けようとするが、クライスが立ちはだかる。


「あなたの相手はわたしよ?」


 クライスは腰に携えてあった剣を引き抜くと、ローラに斬りかかる。その剣撃はあまりに速く、そして威力も強力だった。


「さようなら」


 クライスは冷ややかに言い放ち、ローラに向けて剣を振るう。ローラはそれを受け止め、反撃するが、クライスの力は圧倒的だった。

 次々と攻撃を繰り出し、ローラを追い詰めていく。


「……くっ」


 ローラは俺に気を取られた隙を突かれ、魔法を受ける。その威力に吹き飛ばされるが、なんとか受け身を取りすぐに立ち上がる。

 ローラはなんとか立っているが、傷を負っており体力も限界の様子だ。このままだといずれやられてしまう。


「……まだ!」


 ローラはそう叫ぶと再び攻撃を開始する。だが、手から剣を弾かれてしまう。クライスは、ローラが剣を失ったのを見ると、とどめを刺すように剣を振り下ろす。


「やめろ!」


 俺は叫ぶ。だが、無情にもその刃がローラの体を切る。


「ローラっ!」


 ローラはその場に倒れこむ。その体からは大量の血が溢れ出す。


「次はあなたよ」


 クライスが俺に向けて手を向ける。


「"氷砕アイスクラッシュ"」


 死ぬ――目をつぶった瞬間だった。


「大丈夫?カナカリスくん」


 神託殿に居た巫女クリスが茂みから現れた。

 クリスは俺に手を向けると、俺の体についた鎖が解かれていく。そして、俺を縛っていた魔法も同時に解ける。


「さて、この街に手を出した罰、受けてもらうわよ」


 クライスを睨みつけながらクリスがそう言う。


「っち、面倒ね」


 クライスは舌打ちをすると、クリスに向けて魔法を唱える。だが、クリスはそれを意に介さず、水魔法を繰り出す。


「あいつら、もう少しくらい時間稼ぎなさいよ」


「巫女を舐めないでもらいたいわね」


「ムカつく女だわ」


「そのままお返しするわ」


 クリスの操る水魔法がどんどん押し返していく。クライスはなんとか撃ち合い続けるが、徐々に劣勢になっていく。


「そんなことしてたら、そっちの女が危ないわよ」


 ローラを指さしてクライスがそう言う。俺は思わずローラを見る。

 クリスも同じように重症のローラを見て、少し動揺した。その隙にクライスがクリスの魔法を搔い潜り、魔法を唱える。


「いま、動揺したわね」


「しまっ——」


「あなた、強かったわよ」

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