10.早すぎる別れ

 視界が歪み、次の瞬間、俺とローラはダルス森の中に立っていた。

 しかし、その場所は森と言うにはあまりにも荒廃していた。周囲の木々は黒焦げになり、大地は無残にも焼け爛れている。生命の気配が全く感じられない。


「魔法でこうなったのか」

 

「はい、おそらく」


 ローラの言葉に、俺は周囲を見渡しながら頷く。


「カナカリス様、気をつけてください」


 森に転がる死体を見てローラが注意を促し、俺は焦げた木の根を避けながら進む。

 すると、円形に地面が抉れ燃え広がっている場所に出る。そしてその中心に2つの影が見えた。


 あれは——


「父さん!」

 

「カンダリス様!」


 俺たちは一目散に駆ける。

 2つの影はカンダリスとおそらくその命を狙った暗殺者だ。

 俺はカンダリスに駆け寄り、<鑑定>する。


 ---

 個体名:カンダリス・トロン

 生命値:0/5601

 ---


 ——ダメだ、死んでる。

 

「カナカリス……か?」

 

「え?……父さん?」


 生命値は0だった。でも生きてる?


「いま回復させるから、高位癒しの光グレーター・ヒーリング!」


 けれど、傷が治る気配はない。

 なんで、なんで治らないんだよ!


「もう、いいんだ」


 カンダリスはそう言って力なく笑う。

 

 そんなこと言わないでくれ、もう嫌なんだ、家族を、大切な人を失うなんてこと。

 

 目から涙が溢れてくる。


「カナカリス……ローラ、お前もこっちへこい」


 ローラは無言で歩いてくると、カンダリスの前に膝をつき、そのまま目線を合わせる。


「カノエッタが先に来てくれてな、ほんの少しの延命をしてくれた。カノエッタがまだ戦っている。今のうちにローラ、ここからカナカリスを連れて行ってくれないか」

 

「嫌だよ、父さん!行かせてよ、母さんを助けたいんだ。父さんのことも救わせてよ」

 

「はは、初めて我儘を言ってくれたな、カナカリス。だが、ダメだ」


 カンダリスはそう言って俺の頭を優しく撫でる。


 そのときローラが口を開いた。


「カンダリス様、カナカリス様の我儘をどうか聞いてはいただけませんでしょうか」


 そういうと、ローラは俺の手を握り立ち上がらせた。


「カナカリス様はご自分で、この道を選び歩んでおられます。そしてこれからもそうでしょう」

 

「だが……」

 

「カナカリス様のことはわたくしにお任せください。命に替えてお守りいたします。ですのでカンダリス様、どうか」


 父さんは目に涙を浮かべながら一言告げた。


「一緒に居てやれない不甲斐ない父さんで、ごめんな」

 

「父さん……」


 俺の手を握っていた手に力がなくなるのを感じた。


「カンダリス様……」

 

「カナカリスを……息子を頼んだぞ」

 

「お任せください」

 

「ありがとう」


 そう言うとカンダリスは静かに息を引き取った。その顔はどこか笑っているようにも見えた。


「カナカリス様、行きましょう」

 

「……ああ」


 俺は涙を拭うと、その場を後にした。

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