5.素質というもの

「お初にお目にかかります、カナカリス様、わたくしはローラ・バント。ローラとお呼びください」

 

「初めまして、カナカリス・トロンです」


 強制連行されパーティーを実施した次の日、家にある人が来ていた。

 名をローラ・バント。以前、父から聞かされていた離島の別荘を管理している使用人で、金色の髪を後ろにまとめ、眼鏡をかけた女性である。

 どうやら、カンダリスとカノエッタに呼ばれ急いで来たらしい。


「突然呼び出して、すまなかったな。それにしても、一日足らずで来るとは思っていなかったよ」

 

「いえいえ、主であるカンダリス様のお願いとあれば、転移魔方陣を使ってでも馳せ参じるのが使用人としての役目、当然でございます。それで、わたくしを呼んだのは……」

 

「ああ、察しがついていると思うのだが、私の息子カナカリスを"視て"ほしくてな」

 

「お安い御用です」


 "視る"というのはおそらく、俺の持っている称号【神器素質アーツタレント】のことを言っているのだろう。

 昨日、リビングへ連行されたあと、再度鑑定を使い称号について調べたのだが、【神象素質アーツタレント】というのは一部の神器を使える素質タレントを示しているものらしい。


「早速ではあるのですが、カナカリス様、わたくしの<素質眼タレントアイ>を使ってカナカリス様の素質タレントを視させて頂いても構いませんか?」


 ローラはそう言ってしゃがみ込み、俺と目線を合わせた。

 父カンダリスがお願いしたのだ、断る理由もない。


「大丈夫です」

 

「ありがとうございます。では、いきますよ?」


 そう言うと、ローラの青い瞳が緑色に光り出した。


「なるほど、どうやら【神象素質アーツタレント】と【魔法素質マジックタレント】の2つをお持ちのようです」

 

「やはりそうだったか、それにしても2つ持ちとは……」


 おそらく<素質眼タレントアイ>は、称号のうち"素質タレントに関連するもの"だけを見ることが出来るのだろう。


「父さん、その素質タレントって何なのですか?」

 

「ああ、そうだな。カナカリスには言ってなかったな」


 カンダリスはそう言うと、説明を始めた。


素質タレントというのは、神様から与えられた才能の事だ。そしてこの素質タレントというのは、生まれながらにして持っているもの。私は【魔法素質マジックタレント】を持って生まれたし、ローラは【剣素質ソードタレント】を持って生まれた。たしかカノエッタは、後天的に【精霊素質スピリチュアルタレント】を与えられたと言っていたが、それも簡単なことではない」

 

「じゃあ、僕の持つ素質タレントは?」

 

「2つだ。言っておくが、凄いことだぞ。素質タレントが無い人がほとんどの中で、2つ持ちなんてこの国でも手で数えられる程度しかいない」

 

「そうだったんですね」


 2つ持ちというのはかなり珍しい存在のようだ。まあ、冷静に考えてみればそうか。

 3歳で魔法をこんなに扱える子供がポンポン湧いていたら、カンダリスとカノエッタも、あそこまで俺をもてはやすことが無かっただろうし。となれば、俺を殺した月人つきびとというのは、それ以上に強いことになる。


「カナカリス様、あなたは神に愛されし者です。その才能をどうかお忘れなく、ですがどうか慢心せず、その力を正しいことにお使いください」


 考え込んでいた俺の目を見てローラはそう告げた。


「分かりました、肝に銘じておきます」


 ローラは笑顔でうなずくと立ち上がり、玄関の方へと歩みを進めた。


「それでは、わたくしはここで失礼させていただきます」


 そう言うと彼女は魔方陣の中へと消えていった。


 *

 

 ローラが帰った後、俺は自室のベッドで横になった。


「力を正しいことにお使いください、か」


 俺がこの力をどう使うことになるのか。

 唯一決めているのは、みんなで生きるため、幸せに過ごすため。


 それも結局は俺の勝手な都合で、願いだ。


「少し独善的すぎるかな」


 自嘲気味に笑うと、俺は眠りについた。

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