言葉の弊害

 ・・・冬眠か。


「あぁ、勿論、お主らも出来るじゃろう。」


 貴方は今まで進化以外で長い眠りについた事はありませんでした。

 それでも冬眠ができるというには理由がありました。

 そもそも、寒冷地産まれの寒冷地育ちの種の集まりである貴方の群れは遺伝子として元来持っているものです。

 この冬眠は何万年も氷漬けになっていても解凍されたら元気に泳ぎ回れるとは言わないが、何の後遺症もなく復活可能だと言う事を貴方が地上に出て来た時に氷漬けになっていた生物が復活しているのをノーアイ達が確認していました。

 そして、その遺伝子は今も失われずに存在している事もノーアイ達が確認済みでした。


「お主らも気がついているのではないか?・・・最近、言葉を話す生物を食すのを忌避する個体が増え始めているのを。」


 ・・・・・・・・・そうなのか?


「はい、確かにそういう子が産まれた事はありますが・・・かなり少ないです。」


「・・・まぁ、お主らは食を重んじている文化じゃからな。生食せいしょくに、食葬しょくそうと食文化がある為、そう言う忌避感も少ないのじゃろう。」


 オックートが言うには世界各地の群れでこの忌避感は増えているらしいです。

 言葉によるコミュニケーションが出来る存在を殺す事は出来ても、食べる事は出来ないと拒否する個体は年々増えていき、後千年もすればこの食性がマイナーからメジャーになるくらいの増加速度であった。

 貴方も、オックートも、その感覚がよく分かりませんでしたが、貴方と違ってオックートは理解はできました。


「共喰いを忌避するのは昔から増え始めて、今ではお主の群れくらいしかしておらんように、言葉を話すというだけで、同種と同じ感覚に陥っている若者は多いのじゃ。」


 ・・・そうなのか?


「・・・・・・確かに共喰いを野蛮だと思う者はいますが、食葬などは関係なく執り行えるのであまり問題にはなっていませんでした。」


 オックートの話を聞いて、貴方は何も知りませんでしたので、プリコペに事実確認をしてみると、この群れでも共喰いを忌避して野蛮だと、イカれていると群れを離れる者もいた事をプリコペは思い出しました。

 ただ、食葬などの食文化は変わらずに行われるので、誰も気にすることなく今まで生きていました。


「ワシはこのままだと餓死者が続出して、崩壊する群れが増えるのは目に見えておる。じゃから、ワシらは養殖を始めた。知能を退化するように導き管理する事で、若者達も問題なく食べれるようにした。」


 目的は違くても、やっぱりある程度、知能は下げた方が育てやすいと考えるのは同じなんだな。


 貴方はオックートの説明と前にされたチアイの説明とは知能を下げる目的が違っていたが、同じような手段で生育を成功させている事が分かりました。

 その話を聞いてオックートの冬眠作戦をする理由が見えて来ました。


「これも気がついておるか?ここ最近の若者はあまり進化をしなくなった。才能のあるなし関係なくじゃ。この若者もあまり進化しておらんじゃろう。じゃが、それでも強く、賢くなっておる。ワシはこれを成長と呼んでおる。」


 一万年前くらいは進化するのは大小はあっても普通のことだった。

 その頃は進化した個体同士が子孫を残し、種を作ったので、種自体が進化しやすい種として固定化されたのである。

 成長とは進化と違って極端な肉体の変化や成長はしないが、その種の力を上げて、弱者として産まれても努力で成り上がる手段だった。

 何故かはオックートにも分からないが、最近ではこの成長がメジャーになってきているのだった。


「つまり、ワシは冬眠によって言葉を話せないものを繁栄させて、この食糧問題を解決しようと思っておるのじゃ。」

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