盾ノコギリ

「負けるか!!」


「無駄じゃ・・・どれだけ食べてもワシの腕は無数にある。」


 シャークはオックートに近づく事すら出来ずにいた。

 無数に増えて伸びてくる触手を食べながら、近づこうとしたが、あまりの増植速度が捕食速度を超えて逆にシャークを呑み込む勢いだった。

 それでもあの恐怖の権化の様で身内を完食しない優しさを持つボスに近づかさせないだけの一族の恩と義理があった。


「クッ!邪魔!!・・・重っ!何よこれ・・・」


「ワシの拘束は蔦とは違って解けたからといって肌から離れたりしないんじゃよ。全ての触手には鋭い吸盤が付いておる。・・・・・・無理に剥がそうとすると傷を広げることになるぞ。」


 増える触手にシャークの身体に巻きつき始めたが、邪力による斬撃で吹き飛ばそうとした。

 でも、身体に張り付いた触手は離れることはなかった。

 一つ一つは軽い触手の破片でも無数に張り付いた肉塊がシャークの動きを阻害して、更に触手が絡みやすい状況を作り上げた。

 触手の吸盤には一つ一つに鋭い歯が返のようについており、張り付いた相手から決して全ては離れないようになっている。

 岩場に己の身体をぶつけて無理矢理触手を剥がそうとしているシャークにそんな事で離れない上に傷口を広げるだけだとオックートは助言した。


「・・・ゴチャゴチャ!!ウルサイ!!!そんな事で私の楽しみはオワレナイ!!!!」


「毒で快楽物質を中和しているはずなんじゃがな。まさか、更に快楽物質を追加して毒すら喰らってしまうとはな・・・敵ながら天晴れじゃが、まだまだ、青いな。」


「グラァ!!!」


 中和として密かにシャークに打ち込んでいたオックートの毒をも快楽物質の一つとして合成材料にしたシャークはハイテンションに戻っていた。

 それによって痛みすら気にする事なく、更なる高みに登る事を可能とした。


「ほう、それがお主の本当の姿か、そんな鮫見た事ないのう。化け物の配下らしい化け物の姿じゃな。」


「ソンナノハドウデモイイ・・・タダ、オマエヲタチキル!!」


 シャーク下顎から第三の歯が生まれた。

 それは縦鋸に似ている歯の形状をしていた。口内の皮膚も、外皮も突き破り出てきた歯には自身の血と肉がこびりついていた。

 歯が縦に回転するのに合わせてザラザラとしていた鮫肌が更に鋭くなり、吸盤の鋭い牙ごと叩き切った。

 鮫肌の鱗にも無数の鋭い鱗がついており、吸盤が張り付くことが不可能となった。

 それによってシャークの動きを鈍らせていた重りをを取り除く事に成功していた。


「タテノコ、ウミヲタツ!!」


「・・・・・・まさか、ワシの肉体を切るとはやるじゃないか。若者のくせに。」


「ソリャアァ!!ドウモ!!!」


 縦鋸の鋭さとそれに乗せた邪力によって今のシャークは大いなる海すらも断ち切る事すら可能とした。

 その斬撃はこの数千年傷つける事がなかったオックートの肉体を傷つける快挙を打ち出した。

 それまで老人のように達観したオックートの目に僅かな怒りと嬉しさが滲み出していた。


「良いじゃろう。お主をワシの敵として正式に認めて、ワシもほんの少し本気を見せてやろう。」


「ジョウトウダ!!ジジイィィィ!!!!」


 シャークを敵として認定したオックートがギアを上げたのを見て、シャークもまた更なる快楽物質燃料を脳にぶちこんで、気持ち悪い程、強靭な触手と細かな触手を食い尽くそうと突撃をかました。

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