隕石

 ライとアーケロンの突進対決は海を揺らすだけではなく、大地をも揺らしていた。

 それにより、各地の活火山は海も、大地も問わず活発化して噴火を始めていた。


「レイサン!しっかりしてください!!」


「私はもうダメだ・・・だが、我らの戦いはまだ終わっていない。ライさんのおかげで雑魚共はこっちに来れなくなっている。この揺れだ、地上の行軍にも影響が出ているだろう。長は私の息子が継げ、全戦場にこの闘いを伝えろ、ノーアイ様の事だ、何か指令が下るだろう。急げ・・・」


「レイサン!!!!おわっ!!!」


「ちょっと邪魔です!死にたくなかったら、さっさと後方に戻りなさい!!」


「よそ見とは余裕だなぁ!ライ!!」


 レイサンの死に悲しむレイケツサンショウウオ達を戦闘の余波で吹き飛ばしたライはさっさと退けと命令した。

 その隙にアーケロンが突撃をかましたが、体格ではアーケロンの方が有利なはずが大口でしっかりと受け止めて回転すら咬合力で無理矢理止めた。


「堅っ!前までならさっきので食えたのに成長しましたね・・・お嬢さん。」


「いつまでも小娘扱いすんじゃねぇよ!!・・・テメェの方が子作りもした事のないくせによぉ!!」


「無駄に作っても死ぬだけでしょう。それに私《わたくし》は一途なのです。誰から構わず作る者たちの気持ちは今でも分かりませんわ。」


 ライがアーケロンと闘うのはこれが初めてではなかった。

 アーケロンが群れの一匹の小亀でしかなかった頃から知っている。つまり、アーケロンの群れを滅ぼしたのはライだった。

 誰よりもライを恨みながらも、群れの大人も、長すらも、簡単に噛み殺し、轢き殺したライの強さに憧れていました。

 その思いを胸にしまいながら、色んな群れに加わってはライに滅ぼされてきたのでした。

 最早、運命すら感じるほどにライが何処からともなく飛んでくるのでした。

 闘う度に近づき、遠くなる力の差がアーケロンの絶望と希望となって力へと変えていました。


 ライとしてもアーケロンの事を気に入ってはいた。

 闘う度に強くなり、ワクワクする闘いを提供してくれるだけではなく、その子供の肉は美味しく味わわせてくれるアーケロンな事を誰よりも評価していた。

 それでもさっきの発言はイラッときていた。

 好き好んで生娘でいるわけではない。ただ、生殖をする機会がなかっただけであり、あの方の子ならいつでもウェルカムだと思っていた。


「そんな事よりも何故、貴方達はいきなり攻めてきたのですか?それにご主人様の存在も知っているようですし、ノーアイが情報漏洩を見逃すとは思えないんだけど?」


「・・・・・・やっぱり、あれを匿っているのはこの群れだったか、あんな危険な者を側に置いておくなんて気は確かか?」


「失礼ですね・・・・・・貴方にもご主人様の良さを身をもって知ってもらった方がよろしいようですね。」


「ご主人様・・・ね。ライやノーアイ程の強者がボスの座に座らずに空席のままにしている意味が誰も分からなかったが、これで合点がいった。あんな者が上にいるならそりゃぁ、座れないわなぁ。」


「座るつもりもありませんからね。」


 アーケロン含めた外部の者たちは世界でも指折りの群れであるノーアイ達が誰もボスの座に座らないどころか取り合う様子もない事が不思議すぎて世界三大不思議とまで言われていた。

 それがあんな恐怖の権化が眠っていたなら誰も一時的でも座ろうとしない理由も納得がいっていた。


「・・・隕石が降ってきたんだ。」


「?・・・隕石?」


「あぁ、突如として世界各地に隕石が降ってきてその大陸の、海域の生態系を破壊した。」


「なに?その隕石の余波で殺されたの?」


 暗い表情で伝えるアーケロンから隕石が降ってきた時からどんな生活をしてきたのか理解した。

 でも、そんな隕石で死んだからオーリスを恐怖する理由になるのか意味が分からなかった。


「そうじゃない・・・直接、隕石で死んだ奴は少数だ。本命はその後、隕石から漂うただならぬ欲。・・・食欲が弱者を恐怖に陥れ、発狂させ、無謀な争いを生ませた。」


「・・・それがご主人様と何の関係が?」


「聞け!その争いが終息した頃には全体の五割の種は絶滅していた。・・・混乱から食料不足にもなった。そんな折だ、スコーピオンがやって来た。アイツが言うにはあの隕石の食欲には見覚えがあると言ったんだ。最初は荒唐無稽で皆が否定したが、スコーピオンの話には何処か信憑性があったんだ。だから、この戦いを始めた。世界各地で起きている混乱がこの土地、この海域ではなかったことも理由ではあるがなぁ。」


 そう言えばノーアイが世界各地で原因不明な混乱が起きている事は言っていたなと興味もなかった為、聞き流していた事をライは思い出した。

 そして、ある事も思い出したのでした。

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