話す必要がない。
「そう言えば、なんでオーリス様は話さないんですか?」
「どうした?急に?」
「いや、ずっと気になっていたんですけど、誰にも聞く機会がなくてですね。先輩、結構長生きじゃないですか、理由を知っているかな?と思いまして。」
「おれはそんなに長生きじゃねぇよ。新人、この群れじゃぁ、300年程度の奴なんてゴロゴロいるぞ。せいぜいお前も長生き出来るように強くなる事だな。」
通常、千単位で生きている者はこの群れではアラネなど群れに吸収された長達やその側近が多く在籍している為、たいして珍しくないが、逆に言えば、他の群れは長クラスしか千年以上生きていないのである。
このシラクモの先輩も世間的には300年というのはかなり長生きしている方だが、千万年単位で生きている者もいるこの群れでは若輩者でしかなかった。
この世界で長生きしているという事はそれだけ強者をくらい進化して細胞と精神を鍛えてきた証であり、その上、この群れは他の地で侵攻してきたお陰で進化を促されて強くなったものもいるが、それ以上に弱者は自然と淘汰されて死んでいった。
だから、気に入っているこの新人が長く生きれるように日々の鍛錬こそが長生きの秘訣だと教えたのである。
「それでオーリス様が言葉を話さない理由な、・・・そもそも、おれもあの方を見たのは最近だ。それまでは御伽話の存在でしかなかったからな。お前達くらいならもっとそう思っていただろう。」
シラクモ先輩も300年程度の人生という事はオーリスが眠っている間に産まれた個体である。当たり前であるが、この前目覚めてアラネに会いに来たときにノーアイに紹介されたのが初めてだった。
でも、それだけでも話さない理由は大体の予想は出来た。
「理由は簡単。話す必要がないから。至極単純な理由だ。」
「話す必要がない?」
「・・・・・・お前はなんで言葉を介して話しているんだ。」
シラクモ先輩は理由を話したが、サンショウウオ新人が意味を分かっていないので、質問形式で話を進めることにした。
「・・・コミュニケーションを円滑に進める為。」
「あぁ、俺たちの先祖は身振り手振りでは限界があると理解した。だから、肉体や精神、様々な進化を進めるより言語を司る知能と発生器官の発達を優先した。」
「そうでしょう?・・・・・・身振り手振りでは限界がある。それも昔なら海中の魚達や甲殻類達でしょう。僕たちより限界は早いでしょう。」
サンショウウオ新人は脚を上げたり、顔を変えたりしてコミュニケーションを取ろうとするが、単純な話なら可能だと思うが、言葉レベルの詳細な話は不可能だろうと感じました。
シラクモ先輩もそれには同意だが、オーリスにはそれが当てはまらないと理解していた。
「だが、あの方は言語を介さずとも詳細な指示が可能なんだ。お前は気がついていないようだが、あの方のコミュニケーションは頭の中に直接、映像が叩き込まれているに近い事が起きる。」
「・・・確かにイメージがその都度湧いてオーリス様が何を言いたいのか理解出来る。」
「そう。だから、あの方は言語機能を司る器官を鍛えなかった。鍛える必要がなかった。」
「だから、あんなに強いんですね。」
「それは違う。」
オーリスが話さない事に納得したサンショウウオ新人はそれがオーリスの強さの秘密だと思ったが、それはすぐにシラクモ先輩よって否定されました。
「あの方にとって言語の進化なんて些事でしかない。使おうと思えば使えるようになるが、不便だからしないだけだ。」
「不便?言葉は便利だから、僕達の祖先は進化したという話ではなかったんですか?」
「それは俺たちの次元の話だ。あの方の次元では言語はむしろ不便だ。直接、ノータイムで俺たちに言語関係なく、話が出来るのに態々、相手へ理解される事で前提の言語の介した会話は不便でしかない。」
自分で話していてつくづくオーリスが次元が違う化け物である事をシラクモ先輩は改めて理解しました。
サンショウウオ新人はまだまだ弱い為、強者と化け物の次元の違いを理解する事が出来てませんが、それでもそんな化け物の加護下にいる安心感はありました。
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