妖精

 それで君は何?・・・・・・味も、匂いも、食感も生物じゃないな、・・・思念体、・・・神みたいな次元の違う存在ではないな。たぶん、食える。


「はい、その通りです。私はヤヨイ。この巨木から産まれた思念であり、意識です。貴方と違い吸収、支配ではなく、統合しました。私が試練であり、試練が私なのです。」


 オーリスはあの後、巨木ごと蜘蛛達を丸呑みにしようと地中から大口を開けて食べようとしましたが、呑み込もうとした瞬間、この思念体から降伏の意思が伝わり、巨木を食べるのは保留にした。

 面倒だったが、蜘蛛を全て串刺しにして一匹、一匹を捕食していった。

 絶望に歪みながら神経を遮断されている為、身動き一つ出来ず、仲間が一匹、一匹食べられるのを見せられオーリスを恨みながら死んでいった。

 全て、食い終えた瞬間、この思念体は姿を現した。

 その姿は前世で言う人間の少女のような姿をしていた。

 本物の神を見た事のあるオーリスからしたら神秘性は薄く感じているが、隣にいるアラネが驚愕、恐れているところから常人なら畏怖する程の神秘さと神聖さがその思念体には宿っていました。


 ヤヨイはオーリスの格が自分とは次元が違うと見ただけで理解していました。

 オーリス達の狙いが自分に棲む虫だと言うことが話と行動から分かっていたので、これまで通り黙秘を貫き、過ごしていこうと思っていましたが、まさか自分ごと丸呑みしようとするとは思わなかったので焦ってオーリスに懇願したのである。

 保険はあるが、このオーリスにそんな保険が通じるとは思えなかったので、今も内心ビクビクしながら話しかけていました。

 味見程度食べられても、焦ることも、驚くこともせずいれたのもアラネのやりとりを見ていたので、オーリスにとって味見はコミュニケーションの一種であることが分かっているので、ここで何か拒絶を示すと敵対行為と同義されたらいけないので、黙って食べれられたのだった。


「私としては貴方達が此処を治めて構いません。あの虫達も勝手に住んでいただけなので貴方のような強者がこの地を治めてくるのは私も安心して眠れます。」


 ヤヨイはご覧の通り、オーリスとは違い、食欲より睡眠欲を重視する欲望でした。

 睡眠を何よりも愛し、夢の中で心地よく過ごしていたいと願い、生きてきたらいつの間にかこんなに大きくなっていたのです。

 そして、地中深くまで張られた根は発芽したばかりの試練を飲み込み、融合する事で欲望を思念体として具現化する事を可能とした。

 オーリスとは違い、試練自体が無くなった訳ではない為、いつの日か試練として目覚めるのでした。

 ヤヨイにとって睡眠以外はどうでも良い物なのでそんな事はどうでも良かった。

 安心して過ごせるならこの地を誰が統治しようが、長年住んでいた種が外来に絶滅されようがどうでも良かった。


 ・・・まぁ、いいや。面倒そうな事は俺のノーアイ部下に任せるよ。それより、生き残りの居場所とか分かる?


「はい、この土地には私の意思が行き渡っています。森の外に行こうと追跡できます。今なら閉じ込める事もできます。」


 それなら耐熱性のあるものでやってくれ。生は食い尽くしたから。次はレアとミディアムにする。


 ヤヨイはレアとか、ミディアムというのが焼き加減である事を理解したので、そこからオーリスが何をしようとしているのか分かりました。

 なので、この森が無くならない為に急いで森に生える根と蔦を操って蜘蛛達の生息地を取り囲みました。

 その瞬間、オーリスは巨木に登ると大きく息を吸い込み、大きな鉄球を吐き出しました。


 その鉄球は日光を吸い込み、瞬く間に黒から赤へ色が変わり、そこから鉄球の温度が何百度になっている事が分かりました。

 この鉄球の内部は更に沸騰しています。

 揮発した金属と鉄球が融解して空いた穴から空気が入り込み、一瞬にして爆発しました。

 そこから放たれた無数の小さい燃える鉄球はヤヨイと共有した知覚によって蜘蛛の拠点に雨のように降りかかり森を火の海へと瞬く間に変わりました。


 ・・・・・・良い眺め、良い匂い。


「うわぁ・・・・・・」


 緑と赤で彩られる森の景色を楽しみながら燃え盛る煙から漂う蜘蛛が焦げる匂いがオーリスの満たされかけた腹をまた空かせるには十分なものでした。

 そんな光景とそれによって空腹になるオーリスにひいているヤヨイは思わず声に出してしまいました。

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