食性

「流石ですわ。オーリス様、まさか半日足らずでこの森の中心地まで到達するとは・・・」


 そうか?・・・まぁ、他の奴らが攻めあぐねていたのも分かる。俺には時間稼ぎにすらならないがな。


 アラネはオーリスの事を過小評価していた。

 あの巨大群のトップとして見ただけで理解出来る存在感も、力もあると理解していた気でいた。

 でも、自身もシラクモのトップであるという自負が自身も成長すれば追いつける程度だと思っていたが、ノーアイに言われて同行して理解した。

 この生物は己がいくら生きて努力しようと追いつく事は叶わない。

 生物として文字通り次元の違う存在だと理解したアラネは密かに芽生えていた反抗意思は消え去り、絶対忠誠を誓っていました。


「貴様ら!!!良くも我らの森を荒らし尽くしてくれたな!!!!」


「おや?ダチュラじゃないですか。・・・・・・あんな泣き虫だった貴方が今では群れのトップですか、時間の流れは早いですね。」


「黙れ!!!お前こそ!!海に逃げ落ちた分際で良くもこの地に来れたな!!!」


 この森の中心には他の木々とは桁が違うほどの大きさを持つ巨木が生えていました。

 そこにはこの道中で貴方が万単位で食べた蜘蛛達が巨木の枝葉に無数蠢いていました。

 その中で糸を垂らして降りて来た蜘蛛が一匹いました。

 他よりの大きな体躯と目に見えないほどの糸でありながらその身体を支えている糸を放っているところからも他の蜘蛛とは一線を画する存在だと貴方は二人の話を聞かずとも分かりました。

 すぐにでも巨木ごと捕食して良かったのですが、アラネと知り合いなようなので最後に会話くらいさせて良いだろうと思いました。

 蜘蛛達の罠が糸を使った類いのものだったので、少し工夫したら何も気にせず壊せたので時間は余っていたのでした。


「そんなに邪険にしなくても良いでしょう?元とはいえ貴方の義姉ですよ。」


「黙れ!!!!と言っているだ!!お前なんかを姉だと思った事はなかった!!!!我は兄とお前が結婚するのも反対だったんだ!!!!!産まれながらの悪魔なんかに!!聡明な兄が惚れるなんておかしかったのだ!!!!!!」


「あらあら、私達は愛し合っていましたよ。まぁ、死に際はどうだったかは知りませんが、・・・・・・っぅ!いきなり何をするのですか?オーリス様。」


 ?あぁ、気になったのでな。それに前から食ってみたいと思っていたのだ。・・・・・・ふむ、美味いな、お前らしい上品な味だ。そして、肉食らしいワイルドさが備っている絶妙な風味がある。


「あら?ありがとうございます。気に入ってくれて良かったですわ!!最愛な人を己の一部にするのはなんとも言えない快感が全身を駆け巡りましたが、食べられるのもそれはそれで良いですわ!!!」


 二匹が話していて、貴方はふとある事を思い出しました。

 それはこの道中、ずっと気になっていたことであり、アラネが悪魔だと言われている理由だと確信がありました。

 そして、その疑問はアラネの脚を一本食べることで確信へと変わりました。


 この森に住む蜘蛛は総じて草食性、それも果食、蜜食が大部分を占めていました。

 それなのに元仲間だと言うアラネから香る匂いは肉食性らしい血と肉の芳醇な香りがしていました。

 なので、一度食べてみる事にしたのです。

 食べた結果、アラネは肉食性。

 この森での悪魔とは肉食に目覚めた同胞の事だと貴方は知りました。


 アラネはオーリスに食べられてびっくりしましたが、この道中、隠す気もない食欲をこっちに向けている事に気がついていたのですぐに冷静になれました。

 たかが脚一本なので味見されただけだと安堵しました。

 アラネの再生力は脚一本程度なら秒足らずで回復する程なので、オーリスが本気で食いに来なくて良かったと思いました。

 自分は食欲が我慢出来ずにいつも貪ってしまうため、此処でも格の違いを自然と見せつけられました。

 ダチュラの兄であり、自分の夫になる筈だった雄を思い出しましたが、今では味は思いましても姿までは思い出すことは出来ませんでした。

 ただ、あの雄の子を孕んだ瞬間、今まで感じたことのない空腹に襲われて、気がついたら血溜まりに自分が一匹、満腹でいる寝床でした。

 その時の満足感は今まで感じたことのない程の腹と心を満たすものでした。

 それからは自分の群れでは夫を作っては食べる習性が生まれましたが、最初程の満足感を得られる事はありませんでした。


「な、なんだ!なんだのだ!!お前らは!!」


 食べて食べられをしているのに和気藹々と話している二匹を見たダチュラ達は二匹のことを同じ生物には到底見えなかっていました。

 群れの中には半発狂状態で暴れているものやこの状況に絶望しているもの達で巨木から落下する事態が起きていました。


「・・・あの世であの雄に伝えておいて下さい。やっぱり、私は貴方を愛していました。」


 その時のアラネは誰もが見惚れる程、綺麗さがありました。

 

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