蜘蛛の糸

 貴方は鬱蒼とした森に来ていた。

 森を初めて体感した貴方は海とは違う何か壮大なものに包まれる感覚を味わっていました。

 木々から香る芳しい匂いや花の蜜の香り、その強烈な消臭を掻き分けてくる血肉の臭いが凄まじく貴方の食欲を掻き立てていました。


 ・・・さぁ、食事の時間とするか。


 五感で森を味わっていた貴方の目の前にはサソリモドキのような8本脚に、横に開いた顎、腹部はふっくらと育った姿は正に蜘蛛だった。

 確かあの新参者にいたスーオブも似た種だと思い出しました。


 分化元になった種は同じであり、姿形は同じでも全く違う点が一つありました。

 それは体色。

 この森の蜘蛛は全身を黒を基調とした赤黒い色をしていました。

 それに対してスーオブ達は全てが白の純白で覆われていました。微かに柄が見える感じで白っぽいところもあるが、コイツらとは全く違う美しい色だった事を覚えていました。


 あれって全部食っていいんだよな。


「はい、この森は食糧が豊富ですが、このムシ共が縄張りにしている為、自由に取りに来れなくて不便なんです。・・・・・・なので、絶滅させて下さい。」


 オーリスの問いに答えたのはスーオブと同じ白い蜘蛛でした。

 同種でも子供スーオブとは身体の色味や肉体の練度も全く違う事を見ただけでも分かる程の白き輝きの美しさを放っていました。

 彼女の名前はアラネ。

 スーオブ達のボスであり、オーリスの群れに従属を決めたのも彼女でした。


 女王蜘蛛として長年の苦労と成果で君臨したアラネは蜘蛛の中では同種内でもトップクラスの年齢であり、経験も豊富だと自負していましたが、オーリスを見たアラネは自身が赤ん坊に見えるほどの幼さを自覚しました。


 ・・・・・・絶滅・・・ね。元は仲間だと聞いているけど?


「そうですね。昔は親切にしてくれた者もいましたが、それ以上の恨みを植え付けたのは彼らです。」


 色程度で迫害か、そんな事でするとは弱い種なのか?


 アラネがこの蜘蛛達から分化した理由はこの純白の体色を不気味に思った蜘蛛達による迫害からだと聞いていた貴方は、そんな事で迫害なんてこの広大な森に君臨している種の割に小さい器だと純粋に疑問に思いました。


「悪魔だ!!」


「白い悪魔がっ!」


「不気味な者と一緒に悪魔が攻めてきたぞ!!!」


 蜘蛛達の反応からしたら迫害して追い出したようには見えない怯えと恐怖が言葉の節々に感じ取れました。

 アラネが群れに加わっておよそ九百年、何回もこの森に攻めてきたと聞いているが、それにしてもこの顔は森を数百年守ってきた者たちには見えなかった。


「はやくっ!」


「?・・・・・・・え?あ・・・」


「ひっ!」


「まぁ!話に聞いていましたが、なんて速さですか、私にも見えませんでした。」


 そうか、・・・・・・サソリモドキより身は美味くないな。・・・ただ、果物や蜜を食べているからか、甘さが凝縮されているな。身の味を補っている。


 アラネが横で賞賛している隣でもぐもぐと口を動かしている貴方がいました。

 仲間が次々と瞬きより早く消えている現象に驚愕、発狂しながら蜘蛛の子散らす勢いで逃げて行きましたが、貴方は一匹一匹丁寧に食べていきました。

 1メートル程度ある肉体を持つ蜘蛛なので、量はあるが、質が低いなとテンションを下げている貴方をどうにか上げようとアラネは必死に賞賛と賛美を述べていました。

 口直しにそこら辺になっていた果実を食べながら、貴方たち2匹は森の奥へと進んで行きました。

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