10年と深海への思い

 そこは一面、白や赤など色とりどりな百合の花が咲く海の花畑でした。

 貴方がこの海に誕生して10年もの年月が経ち、貴方の縄張りも色々と様変わりしていました。

 長くて短いこの10年間を思い出してはみたもののサソリモドキの特殊個体と戦ってからトラブルらしいトラブルはなく、多少の縄張り争いもあったが、サソリモドキとの死闘と比べたら大した事ない楽な作業だったと貴方は思っていました。

 全ての縄張り争いに勝っている貴方はここら辺の海域のボスまでに登り詰めていました。

 あのサソリモドキはここら辺にはもういないのか、あれ以降出会っていません。

 自分に対抗して命を切り落とせる存在に出会った貴方は前以上に慎重に準備をするようになりました。

 安全な拠点作りも未知なる深海への進出を目指しての前準備でした。


 ・・・うん?どうした?ノーアイ。また餌が罠に引っかかったのか?


 考え事をしている貴方を軽く叩くものがいた。

 それはメナシウナギぽかったですが、他の個体より太く大きく何よりこの個体の周辺は粘ついていました。

 このメナシウナギの名前はノーアイ。

 あのサソリモドキとの戦いでも逃げずに食べていたサソリモドキの体内に潜って逃げ込んだまま、進化の卵になった変なやつでした。

 サソリモドキとの戦闘を見ていたのか、貴方の事に対して恐怖からか忠誠心の様なものを生み出して貴方にこの10年従って進化を繰り返してきた個体でした。

 ノーアイの役割は縄張り内に罠を設置して狩りしてもらう事だが、今回のように自分じゃ殺せない相手には貴方に報告して倒してもらう事にしていました。


 この10年、毒に耐性持つ種が増えたなっ!


 ユリの毒ではもう死なない方向に進化した種しか殆どここら辺には棲んでいない為、態々、自分で倒さないといけないのを愚痴りながら貴方は口からサソリモドキの頃より鋭く大きい弾丸を口から放ち、ノーアイが教えた場所めがけて放った。

 その後、僅かに香った血の匂いから罠にかかった獲物に命中した事を知った貴方はノーアイに食べてくるように言って、また一人の時間を楽しんでいた。


 ・・・それにしてもこの身体というよりこの世界の生物に寿命はないのか?まぁ、老衰どころか衰えるほど歳をとっている個体を見た事ないがな。


 魚の寿命を知らない貴方は自分が10年生きているのは普通なのか、異常なのか分からなかった。

 分かっているのは10年経ってもこの身体は成長と進化を続けている事であり、それはともに過ごしているノーアイも変わらない事でした。

 進化を繰り返した貴方の姿はサンマをより巨大に、鋭利したような身体を手に入れてました。

 未だに同じ種を見た事ない貴方でしたが、そんな事はもうどうでもよかった。

 今更、会っても多分、得るものはないので、知る必要はないと考えてました。


 この力にも慣れてきたな。・・・・・・あれからこれを使える個体も他に見たが、やっぱりあのサソリモドキが一番使いこなしていたな。


 あの闘いで自覚した謎の力を邪力と呼ぶ事にした貴方はこの10年で球や身体以上に邪力の研究をしていました。

 そこで分かったのは、自分は体外に出すのは苦手であり、サソリモドキのように薄い膜を一瞬で発生させてカモフラージュするなんて事は未だに出来そうにない事から種として苦手なのか、個体として苦手なのか、分からないが得意な事を伸ばすことにした。

 体内での生成、加工は得意であると分かった貴方は球の成形や発射速度の調整から身体の強化など体内で完結する行為に研究を集中することにしました。


 そろそろ、深海に行くか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る