ウミユリ

 ・・・意外とプランクトンでもこれだけ食べたら腹も膨れるな。


 貴方はここら辺を巡りながら様々なプランクトンを食べる上で分かった事がありました。

 一つ、動物性プランクトンで不味いのはなかった。

 一つ、植物性プランクトンでも美味しいものがあり、自分の食性は雑食ではと予想でき始めた。

 一つ、安全な住処はないということだった。


 まずい。このままだといつか睡魔に負けて死ぬ。

 安全な住処を探そうにも良い感じの岩陰や穴には先客(サソリモドキや兜魚など。)がいる。

 ・・・・・・・・・うん?・・・なんだ?あれ?


 目線の先にあったのは白平原でした。

 まだ見ぬ危険な生物かもしれないと思った貴方は少し浮上した後、そこに近づいて行きました。

 前世の知識にある蟹が大量に群れて繁殖活動しているあれと同じで白いサソリモドキが群れている可能性もあると恐る恐る細心の注意を巡らしながらいつでもトップスピードを出せる状態にしていた。


 ・・・あれは?花か?・・・海で花なんて咲くのか?


 それは海中で見るはずのない白い花畑でした。

 奇妙な光景に唖然としながら注意深く花畑の上を泳ぎながら周りをぐるっと見回る事にしました。


 敵はいないな。というより生き物がいない。プランクトンも心なしか少ないな。


 この花畑がある海域に入った瞬間から生物の気配がしない上に、水中を浮いているプランクトンの数も減少していることに気がついた貴方は薄寒い感覚を味わう事になりました。

 やばいと思った瞬間、背後にサソリモドキが貴方を捕まえようとハサミを振り下ろそうとした瞬間でした。


 くそっ!花に注目しすぎて周りが疎かになっていた!!・・・・・・あれ?


 食われる!と覚悟を決めて己の命がハサミによって絶たれるのを悔しがりながら待っていた貴方はいつまで経っても痛みが無いことに不思議に思い目を開くとそこには届く位置で微動だにしないサソリモドキの姿がそこにあった。

 貴方は試しに花畑方向に後退すると、サソリモドキはすぐ近くに獲物がいるのにあっさりと下がって海の奥へ歩いて行ったのです。

 その事に不思議に思いながら急いでこの場を離れようと浮上しようとしますが、水面が遠のくのを貴方の目に映ります。


 は?!う、動け!!・・・ちっ!身体が動かない。


 貴方はそこでサソリモドキが此処に一歩も近寄らなかった理由を明確に理解しました。

 この白い花には毒があり、その毒をこの周辺の海域に散布している事を貴方は知りました。

 少しずつ無知な生物の動きを鈍らせて、ジワジワ殺すこの毒は非常に狡猾でありました。

 そうしているうちに、貴方は花畑に倒れました。


 ・・・・・・花、それもユリに似ているな。・・・まだ、死ぬわけにはいかないな。・・・・・・・・・ただ死を待つくらいな、ふふふふふふふふふ、少しでも道連れにしてやる。


 貴方は自分を殺し、土壌の肥料にしようとしている怒りと無知な自分への愚かさに呆れながら、顔が、口が動く内に周りに生えている白ユリを噛みちぎって捕食し始めた。

 本来なら毒が散布して皮膚から入ってくる以上の毒を摂取するのは自殺行為でしか無いが、このまま花の肥料になるくらいならこの花畑を枯らす勢いでがむしゃらに這いずりながら喰らいまくっていました。


 が、あ、あぁ、ま、まだ、たりない!!もっと、、、くいたいっ!


 今にも死にそうになっている貴方の身体を、怒りと、悔しさと、そして、食欲が無理やり動かしていた。

 その死をも喰らう様な捕食に目も耳もついていないはずのユリ達が怯え始めていました。

 花も、葉も、茎も、根すら一片のかけらすら残さず食べる貴方の姿は正に化け物。

 もう目も掠れて前が見えなくなり、鼻も効かなくなり、耳からは微かな音すら感じれなくなっても、貴方はひたすらユリを食べ続けました。

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