第11話 部室を飛び出して
いつもの部室ではなく、外。
賑やかな声が聞こえる駅前。
「お待たせしました」
そう言いながら、亜矢奈が駆け寄ってくる。
「待ちました?」
「今きたばっかり?」
「ありがとうございます、気を遣ってくれて」
嬉しそうに笑う亜矢奈。
「……浴衣、似合ってる?」
「ありがとうございます」
「わざわざお店で着付けしてもらったんです」
「ヘアセットもですよ」
得意げな声で喋る亜矢奈。
「そんなにしなくてもいいのに……って、先輩は相変わらず乙女心が分からないんですね」
呆れたように亜矢奈が溜息を吐く。
「初デートなんて、気合い入れるに決まってるじゃないですか」
「先輩も、もしかしたら浴衣とか甚平とか着てくるかなって期待してたのに」
「……別に、謝らなくていいです。私服の先輩だって十分レアですし」
「それより、ほら、手」
「お祭りは、はぐれないように手を繋ぐものでしょう?」
◆
屋台の多い通りへ移動。
相変わらず周囲は賑やか。
「ねえ先輩、なに食べます?」
「私が食べたいやつでいい? 先輩って、本当……」
「そういうとこ、好きです」
聞こえるか聞こえないかくらいの小声。
「……なんでもないです」
「じゃあ、あれ食べませんか。林檎飴」
「奢ってください」
「え!? いや、冗談で、本当に奢ってもらうつもりじゃ……」
「彼氏だから、って……」
「……先輩のくせに、格好つけすぎです」
「でも、ありがとうございます」
すごく嬉しそうな声。
林檎飴を買う。
シャリ、シャリという咀嚼音。
「美味しいですね」
「林檎飴ってあんまり食べたことなかったんですけど、ハマりそうです」
「そういえば、この前林檎飴専門店が学校近くにオープンしたんですよ」
「林檎飴専門店なんてあるんだ……って、それだけですか?」
「今の、次のデートの誘いだって分かりません?」
楽しそうに溜息を吐く亜矢奈。
「本当に、先輩はしょうがないですね」
「次はあれなんてどうです? ヨーヨーすくい」
はしゃいだ声で言う。
亜矢奈に手を引かれ、小走りでヨーヨー釣りの屋台まで移動。
「どれが欲しい? じゃあ、あれが欲しいです。黄色の」
「任せろ? なんか、先輩に言われると不安ですね」
くすっと笑う亜矢奈。
ヨーヨー釣りの音。
「まさか、本当にとれちゃうなんて」
「ありがとうございます。大事にしますね」
「……しぼんじゃったら嫌だな」
小さい声でぼそっと言う。
「……しぼんだら、また違うお祭りでとってくれる?」
「もう、先輩、祭りは一年中やってるわけじゃないんですよ?」
「でも、ありがとうございます。それ、来年も行こうっていう約束ですよね?」
幸せそうに笑い、甘えるように腕に抱き着いてくる。
「ねえ、先輩」
耳元で囁かれる。
「そろそろ二人きりになれるとこ、行きません?」
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