第10話(部活の後輩編)たった今から

 いつもの部室。ゆっくり扉が開いて、亜矢奈が入ってくる。


「……ちょっと遅くなりました」

「すいません」


「……別に、緊張したとかじゃないですから」


 いつもより声が硬い亜矢奈。


「さっさと始めちゃいましょうか」


 パン! と亜矢奈が手を叩く。





「先輩」

「……えーっと」

「……なんでもないです」


 いつもと比べ、明らかにぎこちない。

 それでも近づいてきて、弱々しく手を握る。


「ねえ、先輩は……」


 亜矢奈が軽く深呼吸する。


「私の、どこを好きになってくれたんですか?」

「……優しい? どこがですか。そんなこと、言われたことないですけど」


「……誰も話を聞いてくれなかったのに、私だけが足を止めて部活勧誘の話を聞いてくれた?」

「2人じゃろくに活動もできないのに、毎日部室にきてくれた?」


「……別に、優しいからじゃないです」


 そう言って、肩に頭をのせてくる。距離が近くなった分、声も近くなる。


「他は? 優しさだけですか? 私の好きなとこ」

「……可愛い?」

「具体的にどういうところが?」


 ねだるような声。


「……待ってください」

「さ、さすがに褒めすぎです」

「宇宙一可愛いとか、大袈裟過ぎます。逆に嘘っぽいですよ」


 そうは言いつつ、嬉しそうな声。


「……性格も?」

「ちょっと生意気だけど優しい……って、生意気は余計です」

「素直になれないのも可愛い? 別に、素直になれないとか、そういうんじゃないですけど?」


「あと一個言いたい?」

「……そんなにあるんですか、私の好きなところ」


 恥ずかしそうな声。


「……は?」

「素直になれなくて、エチュードとか言ってアピールしてくるところ……?」

「な、な……なに言ってるんです?」


 明らかに動揺している亜矢奈。

 急に立ち上がったところで、亜矢奈の腕をぎゅっと掴む。


「離してください」

「今顔見ないでください」

「……先輩の馬鹿……」


「……ごめん?」

「嬉しくて、何にも気づいてないふりしてた?」

「……なんですかそれ。私がどんな気持ちで、必死にやってたと思ってるんですか」

「先輩がいつまで経っても、全然なんにも気づいてくれないから、だから……」


 どんどん涙声になっていく。

 そして、パン、と手を叩く音。


「エチュードは終わり?」

「なんですか今さら」

「そんなのもう分かって……んっ!?」


 キスの音。


「先輩……?」

「……エチュード、終わったんじゃないんですか?」


 平静を装おうとして失敗した、嬉しそうな声。


「……私も、先輩が好きです」

「エチュードなんかじゃなくて、本当に」

「ねえ、先輩」


 亜矢奈が近づいてくる。


「今から、本当の恋人になってくれますか?」


「ふふ」

「たった今から私は、先輩の正式な彼女です」


「ねえ先輩」

「今度、デートしたいです」

「……この部室以外でも、もう私たちは恋人ですから」

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