第10話(部活の後輩編)たった今から
いつもの部室。ゆっくり扉が開いて、亜矢奈が入ってくる。
「……ちょっと遅くなりました」
「すいません」
「……別に、緊張したとかじゃないですから」
いつもより声が硬い亜矢奈。
「さっさと始めちゃいましょうか」
パン! と亜矢奈が手を叩く。
◆
「先輩」
「……えーっと」
「……なんでもないです」
いつもと比べ、明らかにぎこちない。
それでも近づいてきて、弱々しく手を握る。
「ねえ、先輩は……」
亜矢奈が軽く深呼吸する。
「私の、どこを好きになってくれたんですか?」
「……優しい? どこがですか。そんなこと、言われたことないですけど」
「……誰も話を聞いてくれなかったのに、私だけが足を止めて部活勧誘の話を聞いてくれた?」
「2人じゃろくに活動もできないのに、毎日部室にきてくれた?」
「……別に、優しいからじゃないです」
そう言って、肩に頭をのせてくる。距離が近くなった分、声も近くなる。
「他は? 優しさだけですか? 私の好きなとこ」
「……可愛い?」
「具体的にどういうところが?」
ねだるような声。
「……待ってください」
「さ、さすがに褒めすぎです」
「宇宙一可愛いとか、大袈裟過ぎます。逆に嘘っぽいですよ」
そうは言いつつ、嬉しそうな声。
「……性格も?」
「ちょっと生意気だけど優しい……って、生意気は余計です」
「素直になれないのも可愛い? 別に、素直になれないとか、そういうんじゃないですけど?」
「あと一個言いたい?」
「……そんなにあるんですか、私の好きなところ」
恥ずかしそうな声。
「……は?」
「素直になれなくて、エチュードとか言ってアピールしてくるところ……?」
「な、な……なに言ってるんです?」
明らかに動揺している亜矢奈。
急に立ち上がったところで、亜矢奈の腕をぎゅっと掴む。
「離してください」
「今顔見ないでください」
「……先輩の馬鹿……」
「……ごめん?」
「嬉しくて、何にも気づいてないふりしてた?」
「……なんですかそれ。私がどんな気持ちで、必死にやってたと思ってるんですか」
「先輩がいつまで経っても、全然なんにも気づいてくれないから、だから……」
どんどん涙声になっていく。
そして、パン、と手を叩く音。
「エチュードは終わり?」
「なんですか今さら」
「そんなのもう分かって……んっ!?」
キスの音。
「先輩……?」
「……エチュード、終わったんじゃないんですか?」
平静を装おうとして失敗した、嬉しそうな声。
「……私も、先輩が好きです」
「エチュードなんかじゃなくて、本当に」
「ねえ、先輩」
亜矢奈が近づいてくる。
「今から、本当の恋人になってくれますか?」
「ふふ」
「たった今から私は、先輩の正式な彼女です」
「ねえ先輩」
「今度、デートしたいです」
「……この部室以外でも、もう私たちは恋人ですから」
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