第3話(幼馴染編)キスしてあげる
いつもの演劇部部室。
「じゃあ先輩、今日も始めますよ」
「準備してきた成果、ちゃんと見せてくださいね」
亜矢奈がパン! と両手を叩く。
◆
「ねえ、今日アンタの家行っていい?」
「いきなり? そんなのいつもでしょ」
「むしろ、私が約束してアンタの家に行ったこととかあった?」
溜息を吐きながら、肩に腕を回される。
距離が近くなり、亜矢奈の吐息が耳にかかる。
「今日、おばさん帰り遅いんでしょ?」
「なんで知ってるのか? そんなの、おばさんが直接教えてくれたからに決まってるじゃん」
「……今日はおばさんがいないからだめ?」
「なにそれ」
「もしかして、なんか変なこと考えてる?」
「へえ、ふーん、そっか。そうなんだ」
からかうような声。
「意識し過ぎ」
耳元で甘く囁かれる。
「恋人同士になったんだから、二人っきりで会うのも普通でしょ」
「告白してくれた時、もう友達じゃ嫌、なんて言ってくれたのに」
くすくすと笑う亜矢奈。
「情けないとこあるよね」
「ひどい? 本当のことでしょ。それに、悪いなんて言ってないじゃん」
「本当だって。なーに、疑うの?」
亜矢奈が近づいてきて、ぎゅ、と手を握られる。
「うわ、顔真っ赤」
「手繋ぐの、そんなに恥ずかしい?」
「昔はお風呂だって一緒に入ってたのに」
「いつの話だ……って、小学二年生くらいの時だから、10年くらい前?」
「結構前だね」
「また一緒に入る? 今度は、恋人として」
「なーんてね」
「さすがに無理。期待させて悪いけど」
「でもその代わり、そうだなぁ……」
うーん、と少しの間わざとらしく考え込む亜矢奈。
「そうだ!」
「二人きりになれたら、キスしてあげる」
「どう? 今日、家に呼ぶ気になった?」
「はは、本当、単純すぎ」
「コンビニでお菓子でも買っていこっか」
亜矢奈に手を引っ張られる。
「ほら、早く行こ?」
少しして、パン! と亜矢奈が両手を叩く。
◆
「今日はまあ、昨日よりはマシですね」
「設定が普通に高校生なので、やりやすかったんですか?」
「相変わらず先輩、きょどりまくってましたけど」
からかうように亜矢奈に笑われる。
「……手繋ぐとかやりすぎ?」
「いや、先輩小学生ですか? 恋人同士の役なんだから、手くらい繋ぎますって」
「これだからモテない人は……」
呆れたようにため息を吐く。
「なんです? その顔」
「どうせ先輩、彼女なんていたことないんでしょう」
「はいはい、言い訳しなくていいですから」
ちょっと嬉しそうな声。
「じゃあ、明日のテーマは先輩が決めていいですよ」
「先輩の性癖に付き合ってあげます」
「……そんな言い方されると言いにくい? まったく、先輩って我儘ですね。さっさと言ってください」
「……義理の兄妹?」
「先輩って、そういうのが好きなんですか」
「分かりましたよ。明日はそれでいきましょう」
こほん、と亜矢奈が咳払いする。
「覚悟しててね、お兄ちゃん?」
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