第3話(幼馴染編)キスしてあげる

 いつもの演劇部部室。


「じゃあ先輩、今日も始めますよ」

「準備してきた成果、ちゃんと見せてくださいね」


 亜矢奈がパン! と両手を叩く。





「ねえ、今日アンタの家行っていい?」

「いきなり? そんなのいつもでしょ」

「むしろ、私が約束してアンタの家に行ったこととかあった?」


 溜息を吐きながら、肩に腕を回される。

 距離が近くなり、亜矢奈の吐息が耳にかかる。


「今日、おばさん帰り遅いんでしょ?」

「なんで知ってるのか? そんなの、おばさんが直接教えてくれたからに決まってるじゃん」


「……今日はおばさんがいないからだめ?」

「なにそれ」

「もしかして、なんか変なこと考えてる?」


「へえ、ふーん、そっか。そうなんだ」


 からかうような声。


「意識し過ぎ」


 耳元で甘く囁かれる。


「恋人同士になったんだから、二人っきりで会うのも普通でしょ」

「告白してくれた時、もう友達じゃ嫌、なんて言ってくれたのに」


 くすくすと笑う亜矢奈。


「情けないとこあるよね」

「ひどい? 本当のことでしょ。それに、悪いなんて言ってないじゃん」

「本当だって。なーに、疑うの?」


 亜矢奈が近づいてきて、ぎゅ、と手を握られる。


「うわ、顔真っ赤」

「手繋ぐの、そんなに恥ずかしい?」

「昔はお風呂だって一緒に入ってたのに」


「いつの話だ……って、小学二年生くらいの時だから、10年くらい前?」

「結構前だね」

「また一緒に入る? 今度は、恋人として」


「なーんてね」

「さすがに無理。期待させて悪いけど」

「でもその代わり、そうだなぁ……」


 うーん、と少しの間わざとらしく考え込む亜矢奈。


「そうだ!」

「二人きりになれたら、キスしてあげる」

「どう? 今日、家に呼ぶ気になった?」


「はは、本当、単純すぎ」

「コンビニでお菓子でも買っていこっか」


 亜矢奈に手を引っ張られる。


「ほら、早く行こ?」


 少しして、パン! と亜矢奈が両手を叩く。





「今日はまあ、昨日よりはマシですね」

「設定が普通に高校生なので、やりやすかったんですか?」

「相変わらず先輩、きょどりまくってましたけど」


 からかうように亜矢奈に笑われる。


「……手繋ぐとかやりすぎ?」

「いや、先輩小学生ですか? 恋人同士の役なんだから、手くらい繋ぎますって」

「これだからモテない人は……」


 呆れたようにため息を吐く。


「なんです? その顔」

「どうせ先輩、彼女なんていたことないんでしょう」

「はいはい、言い訳しなくていいですから」


 ちょっと嬉しそうな声。


「じゃあ、明日のテーマは先輩が決めていいですよ」

「先輩の性癖に付き合ってあげます」

「……そんな言い方されると言いにくい? まったく、先輩って我儘ですね。さっさと言ってください」


「……義理の兄妹?」

「先輩って、そういうのが好きなんですか」

「分かりましたよ。明日はそれでいきましょう」


 こほん、と亜矢奈が咳払いする。


「覚悟しててね、お兄ちゃん?」

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